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最初の目的地はもちろん、ゲーセンのクレーンゲームコーナーだった。
MiX万歳な演説の前を早足で通り過ぎ、ダブルデッキを下るやたらと速度の遅いエスカレーターに乗り、歩行者天国が広がるハウディモールの途中、赤い看板が目立つゲーセンの前に2人は立っていた。
「ここ?」
「そう、ここ。」
きょろきょろと周囲を見回す彼方。そのまま放っておいたらなかなか動き出さない気がした梨音は。
「さ、行きましょ」
割と自然に、彼方の手を取って店内へと足を踏み入れた。少し冷たく、白くて細長い彼方の手。正直、ちょっとうらやましい。
周囲には賑やかな日曜日の音を凝縮したような、電子音の喧噪。目の前を通り過ぎていく、小学生グループ。少し効きすぎな空調。まさに絵に描いたような、通い慣れたゲーセンの空気がそこにあった。
「もしかして、遠野さんはこういうとこも初めて?」
「小学生のとき以来、だと思う」
「そりゃまた随分久々な」
しかし、今までずっと不登校だったんだから無理もないか、と梨音は考え直す。
「ってことは、こうやって遊びに出かけること自体久しぶりって感じ?」
「すごく、久しぶり。いつぶりかも忘れた」
「へぇー……」
聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がした。
「あ、それと1つ。言いたいこと」
「え?」
「私のこと、彼方って呼んでいい」
「わ、わかった……」
やっぱり、いまひとつ彼方との距離感が掴めない。下の名前で呼んでいい、ってことは少しは距離が縮まった証拠なのかもしれないけれど。
「それじゃあ彼方は――」
彼方の横顔を伺いつつ話を切り出すと、彼女は梨音とは真逆の、あさっての方向を向いていた。その視線の先には。
「あ、カシワニいたんだ」
すると、今度は急にポジションが入れ替わった。ぐいぐいと、今まで先導していた梨音を彼方が引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
そして、カシワニストラップが大量に積まれたUFOキャッチャーに、彼方はぴったりと張り付いた。カシワニの群れと彼方が、じーっとにらめっこしている。カシワニも彼方も、全く表情がブレない。その横で、梨音は財布を開ける。手の中に、百円玉が5枚。
「じっと見つめてるだけじゃ何にもならないし、あたしが取ってみよっか?」
はっと彼方が梨音のほうを向くと、興奮した様子でこくこくとうなずく。「オーケー任せてー」と梨音は最初の百円玉を投入。梨音の目が、獲物を狙う猛禽類のように鋭く光った。
今回挑戦するUFOキャッチャーは、最初に左右の位置、次に前後の位置をボタンの長押しで決めるというオーソドックスなタイプだった。実は軽音部に加入する直前までの一時期、梨音はこういう類のゲームを相当な回数やりこんでいた。バンドに打ち込むようになってからは離れてしまってブランクがあるものの、まだその時の腕前と感覚はきっと残っているはず。
彼方が傍らで期待半分、心配半分といった様子で眺めている。しかし梨音は意に介さず、すでに集中力は本気モードに突入していた。
梨音の狙いは、落とし穴の手前で仰向けの状態で転がっているカシワニだった。まずは様子見でそいつのひっくり返ったお腹のあたりを狙う。
左右の位置決めのボタンは一瞬だけ押して、前後のボタンは少し長めに押す。前にいた部活の経験もあって、こういう空間把握は梨音の得意分野だった。そして、UFOがぴろぴろと安っぽい電子音を出しながら降下していく。
「いけっ」
位置取りは悪くなかった。狙い通りのカシワニをアームが捕らえる。しかし、そのアームの力がいかんせん弱かった。上昇する途中でアームからこぼれ落ちたカシワニが、今度はうつ伏せになって梨音を見つめた。
「あー、惜しいなー」
ちらっと梨音は彼方の様子を伺う。さっきより心配のほうが少し増えている気がする。6:4くらいの割合で。
「だ、大丈夫! あと400円で絶対決めるから!」
そして、さっきよりも力を込めて、梨音は百円玉を投入する。




