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翌朝。
海渡による案内のもと、3人は7時に家を出た。歩きながら、先頭を進む海渡の懇切丁寧なガイドに耳を傾ける。
「これから向かうのは、カモメ島ってとこっす。一応、昨日車で来たときにも見えてた島なんすけど、見ました?」
「あの港と直結したような島?」
「そうそう、そこっす! 見てくれてたならわかると思うんすけど、ここから島まではマジですぐ近くなんで! 島と言っても実際は地続きだし、途中には歩行者が通れるように橋や遊歩道もあるんす。細い橋だし島内は舗装されてないんで、さすがに車で通るのは無理っすけど。あ、見えてきたっすよ!」
海渡の言う通り、目的地が見えてきた。
港側の海を向いて、ほぼ真正面。ほとんど乙江港と隣接するような形で、カモメ島はどっしりと鎮座していた。港に近づくごとに、その存在感は増していく。
「島への行き方って、港を横切っていくのか?」
「まあそんな感じっすね」
海渡の案内に従って港の中を進む。昨日は通りすがり程度でよくわからなかった港の様子がはっきりとわかる。港の中はまさしく、軍港の様相だった。迷彩服を着た自衛隊員が闊歩し、軍用トラックがひっきりなしに出入りしている。そして、停泊しているのは重厚な雰囲気を醸し出す護衛鑑。一般人が踏み込んでいいような空気ではなかった。
「これ、俺ら入って大丈夫なの……?」
「一部の建物を除いては大丈夫っすよ。カモメ島も今のとこは入れます」
大丈夫と言いつつも、海渡の声はいつもより抑え目。心なしか緊張しているようにも見受けられる。
「ただ今後の状況次第では立ち入り禁止になるかも、って噂っす。だからマジで来るなら今のうちって感じっすね」
「なるほど。まあこの状況じゃ無理もない」
港のどこかで訓練が行われているらしい。緊張感のある大声の号令が響き渡る。
「彼方、大丈夫か?」
奏介は小声で彼方を気遣う。
「平気。バレてないと思う」
同じく小声で返した彼方の返答は、淡々としている。身元が割れる心配、という意味では確かに今のところ大丈夫そうだ。だが奏介が本当に心配していたのは、彼方の内面だった。瞳からは、乙江に来て取り戻しつつあった輝きが感じられない。
自衛隊員の足音に混じって、戦争の足音が聞こえる。静かに、しかし確実に近づいている気がした。
今、世界中で戦争が起きている。それは連日、テレビやネットのニュースで伝えられている。だけど、それはあくまでテレビの向こう側の話。自分達が直接関わる事象ではない。そう心のどこかでは思っていた。
本当は違う。お前達の思いこみは、ただの平和ボケだ。そう、目の前の景色が訴えかけていた。
奏介ですら、この光景はそれなりにショッキングだった。だから、彼方が何も感じないはずはない。考えようによっては、彼方は世界を混乱の渦に陥れてしまった「影の張本人」なのだから。
「……引き返すか?」
奏介の提案に、彼方は首を横に振った。
「いい、大丈夫」
それ以上かける言葉が見あたらなかった。しきりに彼方の様子を気にしつつ、奏介は島を目指して黙々と歩く。
空気を読んでかあるいは緊張のせいか、先を歩く海渡も言葉を発さなかった。
島の姿が大きくなってきた。