Chapter-13
「ね、妬ましい……っ」
次の日の放課後。僕と磯崎は面談室9にいた。昨日の話を改めてしていると、磯崎は芝居がかった様子で歯ぎしりし、動物に愛される高槻先生に嫉妬のことばを吐いてみせた。何もかもに恵まれている磯崎がねたみを口にするなんて、相当にめずらしいことだった。どこまで本気かわからないけれど。
「ところでさ。最近依頼人との面談がなくてもここにいるけど、いいの?」
僕は気になっていたことを訊いた。ここは居心地がいいしまわりを気にせず話せるのでとてもありがたいけれど、こんな風に居座っていて誰かに注意されたりしないだろうか。大体予約はしているのだろうか。ここを生徒が予約して他の生徒との面談に使うということ自体、おそらく特例であると思うのに。
けれど僕の心配をよそに、磯崎は頭の後ろで手を組みながらソファの肘掛によりかかり、だらだらと体を伸ばすと言った。「報酬だ」
「え?」
「基本的に依頼人からは報酬をもらわないが、理事長ならかまわないだろう」
「それって」
「理事長から今回の依頼を受けた時に、ここを毎日自由に使う権利を要求して了承を得た」
長い手足を持て余すように、磯崎はソファに横たわっている。
「なんだ。磯崎も、案外がめついとこあるんだ」
「がめついとはなんだ」
「いや……まあ、いいと思うけど。でも、経験が報酬だ、って、前は言ってたから」
僕が言うと、磯崎はがばっと身体を起こし、いきなり僕の鼻先に指を突きつけた。
「沙原くん。大事なことを言うぞ」
「え、うん」
「世の中にはさまざまな人がいる」
「うん」
「探偵に必要なのは、型に囚われない柔軟性だ。変幻自在であることだ」
僕は磯崎を見た。
「なんだ、不服か?」
「いや」
僕は黙って磯崎を見る。磯崎は目をそらさない。が、その顔に一抹の不安がさしているのを僕は見てとる。
磯崎は、時折危うい。
探偵がさまざまな姿を見せその思考やあり方がめまぐるしく変幻するというのなら、助手はいつも変わらずに、地に足をつけていよう。磯崎が自身を見失ったりすることがないように、僕はしっかりと立っていなくてはいけない。
そんなことを考えたけれど、口に出そうとは思わなかった。
「いいよ。いいと思うよ」
僕は言った。
磯崎は、にっと笑った。
僕もにっと、笑い返した。




