⑪国子
「で、ですね。彼、過去に何度か既に捕まってるんですけど、今回も更生も反省の色も見られないって事で、結果…去勢されちゃったみたいですね」
「ああ、だから…」
「なるほどね」
「勃たなかったのはそれでか、俺はてっきり相手がみ…「何?相手がみ?…何だって?」」
「いや、何でも無い…」
一瞬、俺の周り以外の空気がほのぼのとした温かさに包まれた。が、それも束の間の事。
「まあ、でもそれじゃあ、自業自得だな?」
「でしょうね」
「確かに、今回はまったくもって罪悪感を感じないな」
「親にももう見限られてるみたいですし、妻はどうか分かりませんけど、子どもにとってもこんな父親なら居ない方がましでしょう。まあ、どっちみち子どもは国子扱いでしょうが…」
「だとよ、良かったな?」
「何が、こいつにとっては金づるが減ったんだから良かねえだろうが?」
「…どのみち、もうこいつには関係ないっすよね?」
「「「…………」」」
男たちは揃って顔を見合わせた。
暫く前に新政府により決議、制定された国子制度とは親に虐待され、不遇な境遇で生まれ育った子どもたちを国が保護し、家族との繋がりを一切断ち切り、国の子として育て、学ばせる制度、システムのことを言う。
無論そうなった時点で親は永久に子の親権を失い、保護された子どもは必要な治療を施された後、最高の指導者の下、現在考え得る最高の教育を受け、将来は国を担い支える要人、エリート、エキスパートとして、またそうなるべく国を後ろ盾に各分野へと羽ばたいていく。
自分が国子かどうかを公表する権限は個に属し、個人の判断に委ねられているが、世間的には特に差別といった考え方は無く、それどころか優遇視される見方の方が強い。
かくいう現内閣総理大臣、美並容一郎も実はそうなのではないか?との噂もある程で、それぐらい国子というのはずば抜けて優秀な頭脳を持ち、現在では当たり前のように国家の中枢機関に存在している、差別よりも畏敬の念でもって視られる特別な存在なのだった。
一方、そのシステム自体に、『集めた子どもたちを洗脳しているのではないか?』『強制して学ばせるなどそれこそが虐待なのではないか?』『人権侵害ではないのか?』と異を唱える者もいたが…。
「俺はそうは思わない。少なくともろくでなしの親に虐げられて生きるより将来性はあるし、様々なチャンスももらえる。何より自分の人生を生きられる。搾取される人生より国の駒になった方がずっとましだ…」
と、パソコンを操作していた男は言う。
それに、悪は悪として報いを受けさせられた親を見て、またその親との関係を隔絶する事で、今までずっと問題視されてきた世代間虐待の負の連鎖―――幼少期、虐待された子どもが自分が大人になって子どもを持った時、再び今度は自分が加害者側として自分の子どもを虐待をするようになること―――をもほぼ断ち切る事に成功していた。
また、この政策が実施された事で変わったのは当人たちの意識ばかりではない。今までは虐待を見ても親の報復を恐れ、見て見ぬふりをせざるを得なかった周りの大人たちの意識、又は蛙の子は蛙といった世間の風潮、常識も確実に変わりつつある。
国子制度の予算は既存の孤児院や児童養護施設の廃止、縮小に加え、今まで犯罪者側に掛けていた費用―――裁判所や警察、拘置所、刑務所等の維持、運営費等―――を犯罪者をばっさりと断罪することでそっくりそのまま流用した形。
国としては犯罪者、被害者の意識改革のみならず、犯罪に関わっていない一般人の意識改革も出来、犯罪の抑止、税金の徴収率の向上、また少子化の対抗手段としてもある一定の成果を上げており、一石二鳥どころか五鳥、六鳥、七鳥をも叶える好結果を叩き出していた。
また、このような動きは昨今、日本国のみならず、犯罪の増加、凶悪化に伴い全世界へと広がりつつあった。
いつもお読みいただきましてありがとうございます。




