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アンダー・アース 終末姉弟生存記  作者: 遁遁拍子
第1章 地下シェルター
1/18

1 地の底の姉弟

カンタン登場人物


・アキラ

お姉ちゃん。遅めの思春期。なぜかフィジカルが超強い。けど超ネガティブ。


・ジロー

弟。超ポジティブなショタ。フィジカル超弱いけどそれ以外はわりと万能。

 薄暗い廊下、どこからともなく水滴の垂れる音がする。

 低い天井の電灯がちかちかと点滅し、空気をただよう、無数の(ほこり)を照らし出す。

 無機質なコンクリートの壁には、同じ大きさ形の扉が並んでいる。等間隔にどこまでも――。

 


「へっくし」



 一人の少年が歩いていた。

 大きな瞳に、短いくせっ毛、小柄で細っこい体格。

 その手には杖をつき、片足を少し引きずっている。


「ふぁ……ホコリアレルギーが……。アキラー? まだ寝てんのー?」


 彼はある扉の前で立ち止まると、声をかけながら開けた。


「はっ、ちょっとっ……!」


 狭い室内の片隅で、少女が慌てて振り向く。

 すらりとした背丈、ボーイッシュな短い黒髪。少年よりやや大人びた顔立ち。


「……おい、ジロー。ノックは」


 猫目でキッとこちらを睨む彼女は、いま肌着姿だった。


「え? あァそっかごめん」


 少年、ジローは特に慌てることなく扉を閉めた。


「何ッ回言わせんの? つぎ勝手に開けたらマジで殺すから」

「ゴメンって~忘れてたんだってば」

「じゃあ何回忘れるのよ。あんた(のぞ)きたくてわざとやってんじゃないでしょうね」

「そんなわけないじゃん。キモチワルイ」

「はあ??」


 扉越しにやりとりを続けながら、少女、アキラはロッカーから防護服を引っ張り出す。

 ごわついた有鉛繊維の袖に、しなやかな筋肉がついた肢体を通していく。


「誰が気持ち悪い体つきよ……」

「言ってないよそんなこと」


 慣れた手つきで前のジッパーを引き上げると、各部の密閉を確認。防護マスクを手に自室を出た。


「この前の狩りで壊れてたとこは補強したよ。これでまた撃てると思う」


 ジローの作業部屋にはすでに修理された猟銃があった。

 古いレバーアクション式散弾銃。ジャンクパーツで幾度となく補修され、その原型はほぼ留められていない。

 強度を上げるため各部が無骨な鉄板に覆われており、“銃”というより“鉄塊”とでも呼ぶべき外観だった。


「……ん」


 が、アキラはその巨銃を難なく片手で持ち上げ、負い紐(スリング)に肩を通した。


「銃はもうこれしかないんだから。次はあんな使い方しないでよ」

「わかってるわよ。弾は?」

「はい」


 ジローから貰った弾薬、その他荷物をすべてリュックサックに詰め込み、アキラは廊下の最奥にやってきた。

 そこは半円状のやや広けた空間になっている。

 中央にひとつだけ、他とは明らかに違う、厳重な鉄扉がたたずむ。


 ハンドルを回すとプシッという音で密閉が解放された。


 中は簡素な小部屋である。物は何も無く、天井にのみ放水口が並んでいる。

 《除染室》と呼ばれるその空間に足を踏み入れたアキラは、「いいわよ」と背後に声かけた。


「閉めて……ジロー?」


 しかし返事はない。


「……なにしてんの」


 見ると弟は、防護服を着かけた体勢で立っていた。


「今日は僕も手伝う! 大丈夫、もう子どもじゃないんだ」


 軽い調子で言いながら、ブカブカの袖に細い腕を通す。サイズのあっていない防護マスクを着けようとしている。


「あんたはガキでしょ」

「そんなことない、もう12だよ」

「歳の話してんじゃないわよ。あんたは、“外”のことなんて何にも知らないでしょっつってんの」

「そりゃあ……出たことないんだから当たり前じゃん。だからこそ今日から知っていきたいんだよ。少しずつ!」


 明るい光を宿した大きな瞳が訴えかけてくる。「……」直視してしまったアキラは、反射的に顔を背けた。


「とにかく……その足じゃ無理」


 頑なに返すと、「ムゥ……」ジローは押し黙り、しぶしぶ後ずさる。


「じゃあ……死なないでよ」


 代わりに手を差し出してきた。「……ん」アキラも手を伸ばし、いつものハイタッチをする。

 それから鉄扉は閉鎖され、除染室は静寂に包まれた。


「……すぅ……」


 何も無い空間の中心に立ったアキラは大きく深呼吸した。


「……ふぅ…………」


 おもむろに防護マスクを被る。

 壁の一箇所にポツンと設けられたスイッチを押す。すると、くぐもったブザーが鳴り響き、入ってきた内扉とは反対側の外扉が開いた。


 その向こうには完全な闇があった。

 

 文字通り、一切光のない世界が広がる。

 シンと冷えた空気とともに、低いうなり(・・・)のような音が、室内に流れ込んでくる。

 背中がじわと汗に濡れる。アキラはもう一度深呼吸して、手元のライトを点けた。

 その薄い光で暗闇をかき分けるように、扉の外へと踏み出していった。

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