21話「久々に見る顔」
ヴィヴェルの母親の宣伝力はかなりのものだった。
実際驚異的な勢いで回復していて。
さらに言葉でも良い評判を流してくれていて。
そんな彼女の力はかなり大きく、それによって、私の店への来店客は急激に増えた。
こんな展開は少しも想像していなかった。
まさか彼女への対応がお客さんの数を増やすことになるなんて。
私はただ、大切な人やその人の大切な人に健康でいてほしかっただけだ。
苦しい状況にある人に少しでも笑ってほしい。
それが私の中に在るただ一つの願いだった。
なのにまさかこんなことになるなんて……。
とはいえ悪いことではないだろう。
お客さんが増えるということは店に活気が出てくるということでもあるのだから。
また、お客さんが増えるということは、少しでも多くの人を救える可能性を高めるということでもある。
それは私の進みたい道とも重なっている。
私が行きたい道。
私が歩みたいと願う道。
お客さんが増えるというのはそれと反する方向性の出来事ではない。
「お久しぶりです」
「あ! ヴィヴェルさん! 少し期間が空きましたけど、お元気でしたか?」
「はい、とても」
「それは良かったです」
「わたしもそうですが、母の状態もとても良いですし、順調です」
忙しさのただなかではあるけれど。
久々にヴィヴェルの顔を見ることができた。
少し懐かしく感じられる顔……こうしてまた目にすることができて嬉しい。
「そういえば、今日は何だかお客さんが多いですね?」
「よく気づかれましたね!?」
「たびたび来ていましたから。それは気づきますよ、明らかに人が多いですから。繁盛しているというのは良いことですね」
ヴィヴェルは楽しそうに頬を緩めた。
「「あの」」
少し間があって。
二人同時に口を開きかけた。
思わぬ形で声が重なって、互いに、続きを発することを躊躇う。
「ヴィヴェルさんどうぞ」
「あ、いえ、そちら先にどうぞ」
「そんな、気を遣わないでください。私は後で大丈夫ですから」
「いえいえ。クリスティアさんが先に、どうぞ」
そんな生産性のないやり取りがしばらく続いて。
「クリスティアさんからどうぞ」
「あ、はい、分かりました。ではお言葉に甘えて……先に失礼しますね」
最終的にはこちらが折れることとなった。
「実は、ヴィヴェルさんのお母さまが」
「何か失礼がありました!?」
「いえ。そうではなくて。違うんです」
「良かった……」
「この店の良い評判を広げてくださっているみたいで」
「そのようなことが?」
「はい。それで、近頃、来てくださるお客さんが増えています」
ヴィヴェルは数秒辺りを見回してから「それで……!」と納得したように呟いた。
「そのようなことになっていたとは知りませんでした……」
「ありがとうございました」
「驚きました、まさかそのような……もし迷惑でしたら遠慮なく仰ってくださいね」
さらりとそんなことを言われたものだから、慌てて、素早く首を横に振る。
「迷惑なんてことないですよ! むしろありがたいです! とても嬉しく思っています」
それで、と、一旦空気を切り替えるべく動く。
「ヴィヴェルさんのお話は何でしたか?」
先ほど譲ってもらったのでなるべくスムーズに彼の話へ移れるよう努力する。




