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第十九話

ルシアン視点です。

「嫌われた……」



オフェリーに追い返されクレマンに執務室に連れてこられたあと、仕事机に突っ伏した私はうわ言のように呟いた。



「はいはい」



私の肩をポンポンと軽く撫でながらクレマンは苦笑する。



「もう無理だ……終わりだ……」


「まあまあそんな落ち込むなって。とりあえず帝国から連れ出せて一番の問題だった呪いもどうにかなった。そんで無事目も覚ましたんだからよ。結果オーライってやつじゃねえか?」



クレマンが慰めてくれるが、ちっとも心に響かない。



「それにしてもお前さぁ。いくら何でもいきなりキスするやつがあるか?ガキじゃないんだぜ?節度ってものあるだろうよ」


「仕方ないだろう!アメリーがかわいい反応をするから……!それにちゃんとキスしてもいいかと聞いた」


「でも返事は聞いてないんだろ?」


「…………」



真っ赤になって耳と尻尾を震わせるアメリーがかわいすぎたのが悪い。あの時理性が飛んだ。アメリーを誰にも渡したくないと思った瞬間身体が勝手に動いていた。



「あんな顔されたら我慢できないじゃないか……」



顔を両手で覆う。首まで熱い。思い出すだけで心臓をぎゅっと掴まれる。



「あれだけ頑張って我慢してきたというのに……。これでは私がただの変態みたいではないか……!」


「今更何言ってんだよ」


「ぐっ」



クレマンの冷静なツッコミに思わずうめき声が出た。




「オフェリーが言ってたように猫科はめんどくさいぞー。警戒心が強いわ、自分の気持ちを素直に伝えられないわ。好きな相手ほど素直になれないし、でも構ってほしいって思っちゃう生き物なのさ」


「そうなのか……」


「まあ俺はそんなことないけどー」


「当たり前だ。お前のような軽薄男と一緒にしないでくれ」


「ひどっ!?せっかく助言してやったのになんだよー。もうなんも教えてやんないからなー?」


「ふん。別にいい。お前に聞かなくてもオフェリーとカロリーヌに聞けばいい」



そう言った時タイミングよく扉が叩かれカロリーヌが入ってきた。



「失礼します。ご報告に参りました」


「ああ」



私は短く答えると先程まで突っ伏していた机から身を起こしソファーへと移動した。


「はいよ」と目の前に置かれた紅茶に手を伸ばし足を組む。相変わらずうまい。いつも粗野なくせに紅茶だけは繊細だ。



「それで?アメリーの様子はどうだ?」


「はい、それが……実は先程過呼吸を起こして倒れてしまって……」


「何!?大丈夫だったのか?」


「はい。オフェリーがすぐに対処してくれましたので大事には至りませんでした」


「そうか。ならよかったが……」



やはり私が無理やりキスをしてしまったからそのショックで……?私は頭を抱えた。



「おしまいだ……」


「いえ、殿下がキスしたせいではないと思います」


「それは本当か!?」


「しかし殿下のせいでもあります」


「どういうことだ?」



なぞかけみたいなカロリーヌの言い回しに眉間に皺を寄せる。



「アメリー様が倒れた原因は殿下のキスではありません。しかしアメリー様は罪悪感に駆られているのです」


「ふむ……」



顎に手を当て続けろと目で促す。



「おそらくですが、あの方は殿下に刃を向けたこと、そして人を殺したことに心に深い傷を負っているのだと思われます」


「なるほど……」


「あの方はとても優しい方です。でもだからこそ命令されたからとはいえ人を殺めた自分のことが許せないのではないかと思います。そして殿下を殺そうとしてしまったことも」


「つまりアメリーは自分が殺した人間たちのことを思い苦しんでいるということか」


「はい、そういうことです」


「なんと健気な……」



胸を打たれた。なんていじらしいんだ。奴隷は命令されてやったことは罪に問われない。それは殺人でも王族の暗殺未遂でも。それこそ国家を転覆させるような事件を起こしたとしても全ての罪は命令した者にある。でも、彼女は気に病んでしまうんだろう。



「こういう場合はどうしたらいいんだ……?」



王太子として生きてきた長い時間でも経験のない事態に私は困惑して頭を抱えたのだった。

第九話の後のルシアンです。後悔しまくってるルシアン様これから挽回できるか。


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