ベルサイユ宮殿と男装の少女
18世紀フランス、ロココ時代宮殿の文化が華やぎ貴婦人達はわっかの絹のドレスに香水といった高級品に身を包み舞踏会やお茶会を交流の場にするのが主流であった。ベルサイユ宮殿では王妃マリーアントワネットによる舞踏会が行われ国中、いえヨーロッパ中の貴族が出席するのであった。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
貴婦人や令嬢達が挨拶を交わし合い、オペラ座の演目や小説の話に花を咲かせる。
そこにバトラーが王妃の到着を告げた。
出席者である貴族貴婦人達は大広間にある階段に目をやる。そこに現れたのは侍女を引き連れた王妃マリーアントワネットであった。
「皆様、本日はわたくしの主宰する舞踏会に出席頂き感謝致しますわ。」
王妃の言葉に一同はお辞儀する。
挨拶が終わると王妃は1人の貴婦人の元へと向かった。
彼女の名前はマリー・アンヌ・ド・ブルボン、宮殿でらコンティ大公妃と呼ばれている。彼女は絶世の美女でかのルイ14世陛下の娘である。
「コンティ大公妃、本日はお越し頂き光栄ですわ。」
「王妃様、わたくしこそお招き頂き嬉しい限りですわ。」
「大公妃、貴女のご子息素敵な方ね。いるだけで場が華やいで出席した令嬢達もたのしそうですわ。」
コンティ大公妃には子供が2人いる。
1人はエドワード。美男子で女性達にも人気がある今令嬢とダンスを楽しんでいる最中で他の娘達も一緒に踊ってほしくて長座の列を作って待っている。王家の親戚で見目麗しくダンスのリードが上手ともなれば娘達は放っておかないだろう。
「でもクリスティーヌは見かけないわね。」
もう1人はクリスティーヌ。エドワードの妹である。
「王妃様、クリスティーヌはこのような場所はあまり好きではない様子ですわ」
「まあ残念だわ。きっといい縁談話が見つかるというのに」
クリスティーヌは舞踏会などの人が集まるところにはあまり顔を出さない。本を読むのが好きで今日も自分の部屋で読んでいるのだろう。いえ、彼女は自室にすらいなかった。3週間前のある日の夜突然行方が分からなくなった。自室から姿を消したのだ。コンティ大公妃は騒ぎになるのを恐れそのことを公にはしていなかった。
時を同じくしてここはパリの下町。宮殿とはうって変わり貧困に苦しむ者ばかりだった。仕事がない者、住む場所がない者、その日の食べ物にすら困っている者で溢れかえっていた。
そんな中パリのアパートで若い執事ロバートと暮らす青年がいた。
「クリスティーヌお嬢様」
執事に声をかけられる。
「その呼び方はやめてくれ。僕はクリスティーヌではない。クリスチャンだ。」
青年というが男ではない。彼女はコンティ大公妃の娘クリスティーヌ。小説に登場する王子様との結婚を夢見ていたが母である大公妃にオーストリアのハプスブルク家の親族との結婚話を進められた。しかし小説の王子様とはかけ離れた存在であったため結婚を避けるために家を飛び出してきたのだ。しかし1人で生きていくには働かなければいけない。本が好きなだけあって知識は豊富だか女性であると就ける仕事は限られている。そこで男と偽りあらゆる職種を受けていたのだ。
「申し訳ございませんクリスチャン様。先ほど街の小学校から使いの者が来ましてこちらをクリスチャン様にと。」
渡されたのは1枚の封筒だった。中を開けるとそこには採用通知書があった。
「ロバートやったぞ!!明日から来てほしいと。」
クリスティーヌ、いえクリスチャンは明日から小学校で教師として働けることになったのだ。これまで出版社、新聞社、それからお屋敷の家庭教師とあらゆる仕事を受けてようやく見つけた仕事だ。
クリスチャンは期待に胸を膨らませていた。
コンティ大公妃は実際は子供はおりませんでしたが2児の母という設定です。娘をハプスブルク家に嫁がせ王位を守ろうとする大公妃として書いていこうと思います。