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佐倉坂最強伝説  作者: 江城 春人
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5章 決戦 健斗VS大吾(11)

 しかしそれは、健斗が期待した小気味良いものではなく、硬いものに当たったとき特有の鈍い音だ。防がれると思っていなかった健斗は動きが止まる。


 そして大吾が刀を取った。剣先の軌道を予測できたときは、既に手遅れだった。


 胴に放たれる抜き身の一閃。それは正確に健斗の防具を捉え、正しく打ち抜く。

 ビー! 健斗の脱落を告げる音が辺り一面に響いて、耳を通り抜けた。やがて木々がざわめく自然音だけが残る。自分が負けたことを自覚した健斗は、力なく腕を下げた。


『北野健斗、脱落ー! まさかまさかの、転んだ体勢からの逆転だー!』

「まさかそれで防ぐなんてなぁ……ズルくねえか? ありかよお前」

「ルールには書いてない。まあ、俺も浮かんだのは転んでからだが……」


 大吾が手に持っていたのは、白旗だった。布が巻かれている部分を手で持ち、本来持ち手となる部分で健斗の一撃を防いだ形となる。卑怯に近いかもしれないが、ルールを聞いて納得したのは自分だ。健斗はこれで、白旗に二回泣かされたことになる。


「いい勝負だった、またやり合いたいものだ」


 立ち上がった大吾が右手を差し出した。斬り合いながら彼が語った言葉に嘘の色はなく、疑問は残るが満足できるものであったため、もう大吾への遺恨はない。その右手に応えてやりたいところだったが、代わりに健斗は笑った。


「おいおい、まだ勝負は終わってねーぞ」

「む? ……おっと、そうか。彼女は風子くんに勝ったのだな」


 大吾が眉をひそめると、健斗の後ろに目を向けた。健斗もそちらへ振り向く。春香がゆっくりと、しかし確実にこちらへと近づいてきていた。手を後ろに組んでいるようで、刀身が背中からはみ出ている。


「北野さん、お疲れ様でした」

「おうサンキュー。お前も無理すんなよ」


 健斗は彼女に声をかけて、邪魔にならないように背中へと回る。そこで気付いた。彼女は刀だけではなく、フラスコらしきものを隠すように持っていた。中に入っている緑色の液体が何なのか、何故そんなものを持っているのかさっぱり分からない。


「ぐっ……少し休みたいところだが、冬宮くん相手ならまだなんとか……」


 汗を拭って大吾が構え直す。春香はまだ構えず、その代わりに口を開いた。


「あの、会長。さっきの北野さんとの話、聞いてたんですけど……」

「おう、どうかしたのか」

「昨日私を尾行していたっていうの、本当ですか?」


 ピシッ、と大吾の表情が固まった気がした。恐らくバラす気はなかったのだろう。表情に焦りが見られる。


「……バレてしまっては仕方がないな。本当だ」

「待ち合わせのときからですか?」

「ああ」

「映画を見ていたときもですか?」

「そうだな」

「北野さんとお弁当を食べていたときもですか?」

「間違いないな」

「そうですか……私たちを助けてくれたようなのは感謝しますけど……しますけど!」


 わなわなと春香が震え、持っていたフラスコの中の液体を一気に飲み干した。


「なんだそれは、俺が前開発した薬に似て……まさか、マッスル――」

「白旗で防ぐのがルール違反じゃないなら、これを使うのもありですよね」


 空のフラスコを床に置いて、春香が刀を立てて脇に構える。


「使わないで戦おうとも思ったんですけど、乙女の純情を汚したのは許せません! 謝ってください!」

「待て、何のことだ! 身に覚えが……そうか、昨日のファッションショップでのアレだな! しかし角度的に俺からは見えて」

「問答無用です! 話は後で聞きます! はあああああっ!」


 言うやいなや、健斗の目にも追いづらい速さで春香が走り出し、大吾の頭を強く叩き、素早く駆け抜けて止まる。大吾が防ぐ間もなかったようだ。何故彼女がそんなスピードを出せているのか健斗には不思議でしょうがない。

 よほど強く叩かれたのだろう。大吾は頭を抑えてくずおれる。ヘッドギアから発せられる音にも気付いていない。


「北野さん見てましたか! 女の子だってやるんですよ! ちょっとズルしましたけど」


 こちらを見て嬉しそうに春香は飛び跳ねる。健斗は全く事態が掴めていない。困惑しながら、転がる大吾をそっと眺める。


『……な、なんということでしょう! 冬宮副会長が、瀬戸海会長を一刀に伏しました! これは予想外だ! しかもしかも、目にも留まらぬスピードでした! これが彼女の真の実力なのか! 能ある鷹は爪を隠すというやつでしょうかー!』


 驚いたような司会の実況が耳に入る。健斗も全く同じ気持ちだったが――


『只今の時刻、九時五十四分! 北野健斗チーム、生存者一人! 対する生徒会チーム、生存者ゼロ人! よって、北野健斗チームの勝利ぃ――――!』


 とりあえず自分たちは、大吾との勝負に勝ったようだ。


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