5章 決戦 健斗VS大吾(10)
校舎内を駆けて大吾と剣をぶつけ、階段を登って廊下を走る。そんなことをしているうちに、健斗はある思いに目覚めていた。
――楽しい。こうして本気で力をぶつけ合える相手はなかないない。憎むべき相手と対峙しているはずなのに、体中を興奮が駆け巡っている。ずっと運動し続けて疲れているはずなのに、口の端が自然と上がる。
それは大吾も同じようだった。顔に明らかに疲労の痕が見えるが、心の底から楽しそうだ。その表情は無邪気な少年のようにさえ思える。汗だらけのその顔を見て、健斗は。
「瀬戸海ィ! お前、なんであんなこと言った!」
斬りかかりながら、問う。
「あんなこととは、なんだ!」
「林の中で! 覚えてんだろ! この野郎、心にもないこと言いやがって!」
健斗が言い放つと、大吾は驚いた表情を見せた。しかしそれはすぐに笑みへと変わる。
「バレていたか! いつ気付いた!」
「ついさっきだ! お前が悪いやつに思えなくなってな! それで、質問には答えろ!」
頭を狙った一撃は首を振って避けられる。
「君を生徒会に引き入れるためだ! 言っただろう、俺は君と仕事がしたいと!」
胴を狙われた一撃は足を上げて防具で防ぐ。
「ふざけてんのかと思ったけどな! 本気だったんだな!」
「目的のためなら俺はいつだって本気だ! あれが最善だと判断したまで!」
健斗は一旦退いて階段を上った。大吾は追ってくる。
「こんにゃろ、俺に恨まれたまま一緒に働く気だったのか!」
「俺はそれでも構わなかった! この学校の未来のためにどうしても君が必要なのだ!」
「そんな大層なもんじゃねーよ!」
階段の踊り場で剣を交え、睨み合う。
『あの、話が見えないのですが』
「うるせー! 黙ってろ!」
「今いいとこなのだ! 静かにしてくれ!」
声が重なったのは偶然だった。顔を見合わせ、笑う。
「昨日の件、感謝するぜ。お前と夏希が追い払ってくれたんだろ」
「知っていたのか。秋篠くんから聞いたのか?」
「あんな尾行は気付くっつーの。声が聞こえるような近さじゃなかったからよかったが」
「ああ、それは俺の発明品でバッチリだ。しっかり聞こえたぞ、夏希くんへの想いもな」
「なっ……嘘だろ? 夏希にも伝わったってのか!」
「もちろんだ! 隙あり!」
「食らうか!」
大吾の一薙ぎを跳びながら躱す。そのまま階段の踏み面に足を乗っけて上へと走る。
「さっきの礼なんて撤回だ撤回! 俺が勝ったらお前、尾行してたことも謝れ!」
「いいだろう! そうでなくともこの前の非礼は詫びる気だ!」
「瀬戸海……さては最初からその気だったな!」
「さあて、どうだかな!」
再び大吾が一太刀浴びせてくるが、またそれを避けて上へと向かう。しかしそれは失策だった。健斗が進行方向に顔を向けると、そこにあったのは踊り場ではなく、鉄の扉。
「追い詰めたぞ! そこから先は屋上だ!」
大吾の言う通りあの先は屋上である。しかし扉には常に鍵がかけられており、開けることができない。大吾がいるため戻ることは叶わないし、ここで戦っても後ろに跳ぶことができない健斗が不利なだけだ。どっちの選択肢もよいものとはいえない。それならば。
「さあ北野くん、脱出できるものならしてみるがいい!」
「それじゃ遠慮無くさせてもらうぜ!」
えっ、という呟きを背に、疲れた足に鞭を打って全力で跳ぶ。ぐっと右手を引いて、
「オラァっ!」
全力の掌底を鉄の扉へと叩きつけた。ボキッと閂が折れる音が聞こえた気がして、そのまま扉は勢い良く開く。健斗は止まりきれずに屋上へと転がり出た。
『と、扉が壊れたー! 老朽化していたのでしょうか! 北野健斗はそれを知っていたようです! あと屋上に設置してあるカメラは……え、あるの? なんで? とにかくなんとかスクリーンに映せるようです! 今切り替えます!』
「カメラはこんな事もあろうかと俺が……いや、ここの扉を壊されるとまでは思ってなかったが、それはいい! はっはっは、やはり外は涼しいなあ!」
「負けたらゆっくりと涼めるぜ!」
「それは勘弁願おうか!」
健斗が突っ込んでいくと、大吾は軽やかに後ろへと下がった。健斗を引き離してなるべく広いところへ出ようとしながら後ろ向きにダッシュしている。しかし大吾が向かう先には、何故か膨らんだブルーシートが敷いてあった。普段の彼なら気付いたのかもしれない。しかし今は戦いに集中しているせいか、疲労のせいか。どちらにせよ、大吾はそれに足を取られた。
「しまっ――」
背中を打って、結構な痛みだったのだろう。大吾の手から刀がこぼれ落ちた。
ブルーシートの端から覗く物体は、つい先日まで校庭に野ざらしにされていた鉄パイプやダンボールだった。何故それが今ここにあるのかは分からないが、好機には違いない。健斗は最後の力を振り絞り、足を動かして大吾へと迫った。
『瀬戸海会長、ここで転んだー! これは大ピーンチ! 同時に北野健斗にとってはまたとないチャンスです! ぐんぐん距離が縮まるー!』
転がる刀を追って大吾が這いずる。しかしギリギリ健斗の刀が届くのが先だ。健斗は大きく上段へ構え、叫んだ。
「うぉおおおおおお!」
声に反応した大吾はこちらを見る。しかしまだ刀を拾えていない。大吾が手を上げたのが見えたが、ルール上、小手で防いでもこちらに有効な判定となる。
――勝った。健斗は確信して、両手を振り下ろす。
「りゃああああああ!」
ガッ! と音が響いた。




