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佐倉坂最強伝説  作者: 江城 春人
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5章 決戦 健斗VS大吾(9)

 それは眼下で健斗と夏希が、会長を相手に戦っているときだった。

 突如目の前を黒い塊が横切り、春香は驚いて腰を抜かす。


「きゃあっ!」


 その場に尻餅をついて、臀部に走る痛みに耐える。尻を擦りながら、今のは何だったのかと上を見上げた。


 それは鳥だった。目を凝らしながらよく見るとスズメで、空中に羽ばたきながら静止している。スズメがいるのはおかしいことではない。まだ駆除業者は来ていないため、校内にスズメが巣を作っているとの苦情が解決していないからだ。そのうち遠くへ行くだろうと見守るが、一向に飛び去らない。それどころか、そのスズメは春香を見るように体を向けていた。


「スズ五郎……ちゃん?」


 いつの日か健斗と一緒に見た生物に似ている気がして、春香は頭に浮かんだ名を呟く。当然そのスズメは反応しなかったが、健斗が飛び降りていった窓から流れるように侵入してきた。そして春香が目で追える速さで、廊下へと飛び去っていく。


「……?」


 疑問を覚えながらもなんとなくそのスズメがついてこいと言っているような気がして、春香はその軌跡を追って廊下へ出る。


「うわっ、春香ちゃん! なんで気付いたの!」

「風子ちゃん、いつの間に!」


 歩いていた風子とぶつかりそうになり、飛び退さる。頭を戦いの方へと切り替え、刀を構えて対峙した。

 自分は健斗のように力が強いわけではない。夏希のように瞬時に誰かと息を合わせられるような協調性があるわけでもない。しかし、運動は普通程度にはできるつもりだ。絶対に勝てないというわけでもないし、そもそもこの戦いは健斗の力になりたいと自分から願い出たものだ。


『男にはなぁ、不安だったとしてもやんなくちゃいけねーときだってあるんだ!』


 健斗の言葉を思い出す。自分は女だが、今がその時だ。目の前の相手を一人くらいは倒そうと奮い立つ。

 先に仕掛けたのは春香の方だった。両手を振り上げ、右足で踏み込み一撃を放つ。それは悠々と避けられた。反撃として繰り出されたものはなんとか足を動かし、紙一重で躱す。

 風子の刀を受け、時には下がって避けながら、春香は体育の授業を思い出していた。今年は違うが、昨年度は春香と風子は同じクラスであり、彼女とは柔道の授業で今と似たように向かい合わせになることが何回かあった。


(ふふっ、相変わらず元気いっぱいですね)


 一太刀ごとに「でいりゃぁ!」や「おりゃー!」など掛け声を放ってくる風子を見て、そうしている場合じゃないのが分かっていても笑みが溢れる。風子はどんなときでも諦めず、手を抜かず常に一生懸命だ。もっとも、仕事の能率は悪く事務能力はないに等しいが、こと運動となると話が別である。体を動かすことが好きなのか、よりはっきりとしたやる気が見て取れる。彼女は間違いなく最初から本気を出すと春香は知っていた。

 春香はそこに付け込ませてもらうことにした。太刀を受けて、避けて、躱し続ける。そうしているうちにいつしか彼女が疲弊して、動きが鈍くなることが分かっていたからだ。


(ちょっと申し訳ないですが、これも勝負です……!)


 策が浮かべば、あとは実行するだけだ。といっても彼女はすばしっこく、攻撃をずっと避けるのは容易ではない。時にはこちらからも仕掛けたりしながら好機を待った。

 剣を交わしながら渡り廊下を渡って、幾ばくか経ったときにそれは訪れる。


「はぁはぁ……でりゃー……!」


 彼女の息が上がり、目に見えて剣速が落ちる。ここだ、と思った。春香は一気に距離を取って、踏み込もうと床を蹴って――


「はぁ……ふにゃぁ」


 振った剣先は空を切った。風子がぱたりと床に倒れたからだ。彼女はそのまま動かない。


「……あれ? 風子ちゃん? あのー」

「もうだめ……無理……」


 風子は両手を前に投げ出して倒れている。明らかに疲れた様子で、汗の量が半端ではない。狙い通りではあるが申し訳なくなりつつも、剥き出しの小手に強く一撃を当てる。

 風子のヘッドギアが光って音が響く。司会からの反応はなかった。他の戦いに集中しているようだ。情報を整理すると、今は健斗と会長が校舎内で戦っており、夏希は会長の剣に倒れたらしい。


(相手は会長ですか……勝てるでしょうか)


 ある意味万能超人に近い男の姿を思い浮かべ、自分が行ったところで役に立つのか不安になる。しかしどちらにせよ勝つためには行かねばならないのだ。耳に入る情報から健斗と会長の位置は大体予想がついた。とりあえず軽く現在位置を把握しようと周りに目をやって、春香はあるものに目を留めた。


 それは見慣れたプレートだった。「生徒会室」。そう書かれている。

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