4章 戦士の休息(9)
(カップルコンボってなによ! あたしだってそんなの頼んだことないのに!)
ふて腐れながら、夏希はシアターへと消えていく健斗たちを見送っていた。
「やるなぁ冬宮くんも。俺が送ったペアチケットを活用しながらも、自分の意思であれを選ぶとはな。随分と成長したようだ」
「先輩! わたしもアレ食べたいです!」
「一人で全部食べるのなら構わないぞ、俺はホットドッグが食べたい」
「えー、じゃあわたしもそれにします!」
隣で聞こえてくる会話はほぼどうでもいい内容だったが、一点だけ気になる点がある。
「瀬戸海さん、今ペアチケット送ったって言いましたか?」
「ん? ああ、真田くん経由だがな。いやあ最近は便利になったものだ、ギフトチケットも電子化するとは、デジタル万歳といったところか」
「つまり、健斗が春香ちゃんと出かけるように仕向けたのも、瀬戸海さんの仕業ですか」
「そういうことになるな。しばらく掛かると思っていたが、まさかいきなりデートの約束を取り付けるとはな! 連絡先の交換から徐々に仲を深めていくものだと思っていたが」
(余計なことを……!)
夏希は歯噛みした。この男が余計なことをしなければ、健斗は春香と遊ぶことなく今頃自分と街を歩いていたはずだ。そう思うと苛立ちがこみあげてくる。
「ふむ……大方、余計なことしやがってこのドブネズミとでも思っているのだろうが」
そこまでは思っていないが、似たような気持ちだ。夏希は大吾に向き直る。
「思ってたら悪いんですか」
「悪くないな。誰がどんな考えをしようと自由だ。思想の自由は日本国憲法十九条に明記されている。誰であろうとそれを侵せまい」
大吾はしっかりと言い切った。ならいいじゃないですかと言う前に彼は続けた。
「俺はただ、日頃よく働いてくれている春香くんの背中を後押ししようとしただけだ。君に何かを言われる謂れもない、そして彼女は……まあ俺の推測にしか過ぎないが、本気だ。いつもの冬宮くんなら、きっと他のものを頼んでいただろうな」
大吾はサッと「明日、君に叫ぶ恋の歌」が上映されるシアターの方を眺める。その表情が一体何を語っているのか、夏希には読み取れない。
と思うと、夏希をじっと見つめてくる。今度は、何かを見定めるような目だ。
「本気の人間には、本気で対応するものだ。それだけは覚えておいた方がいい」
それだけ言って、大吾は前へと足を進めた。いつの間にか発券機が空いていたようだ。
「まあ俺は面白そうだからついてきてるだけだがな! おかげで今日の俺は気分がいい。ここの勘定は俺が払おう。もちろん秋篠くん、君の分もだ」
「やったー、先輩太っ腹ー!」
「いえ、さすがにそこまでしてもらわなくても」
夏希も財布を取り出すが、それは大吾に手で止められる。
「なーに、先達の厚意には甘えておけ。というかもう敬語は外してくれないか? どうせ語るなら本音の方がいいだろう」
大吾はさっさとカードで支払いを済ませ、出てきたチケットを夏希に投げる。夏希がジャンプしてそれを取ったときには、大吾は既に売店へと向かっていた。
(本気ねぇ……)
自分はいつだって本気のつもりだった。何かに対して手を抜いたことなど一度もない。
――本当にそうだろうか。そうであれば、こんな状況にはなっていないのではないか。
自分に問いかける。答えはすぐには出てこなかった。
とりあえずやることを思い出す。あの二人を尾行して、腹の中を探る。じっと見てれば、彼女の本気とやらが自分にも伝わってくるかもしれない。もし、そのときは……
(そのときは、どうしようかしら)
自分が取るべき行動がピンとこないまま、夏希は小腹を満たすべく売店へと足を運んだ。




