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佐倉坂最強伝説  作者: 江城 春人
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4章 戦士の休息(10)

「意外と悪くなかった……っていうか、結構良かったな、『あすきみ』」

「はい……。どうやっても離れ離れになってしまう二人が、互いへの想いを自覚して、一生懸命走り出して……諦めない心が想いを結ぶんだって、よく分かりました……」


 横を見ると、春香はちょっぴり泣いていた。前評判もなにも調べてはいないが、どうやら感動したという認識は同じらしい。


「主人公の草野ってヤツも男らしく『君が好きだぁ――――!』って叫ぶのカッコよかったぜ。恋とかよく分かんねーけどさ、ハートにガンガン来るっていうか」

「私も好きな人からあんな風に言われたいですねー……全校生徒の前で告白なんて、なかなかできるものではないですし」


 その後に「た、例え話ですけど! 好きな人がいたらっていう!」と付け足す。健斗は少し落胆した。なんだ例えか、からかってやろうと思ったのに。


「いやー楽しかった! 久々にイイもん見たな、恋愛映画ってのも悪くねーな」

「ついパンフレット買っちゃいました。……そうだ、あとで一緒に読みませんか?」

「いいのか? そんじゃメシのときにでも……あー。メシどこで食う?」


 ポップコーンは食べたが、やはりそれだけでは足りない。二時間が経ち、もう昼下りだ。

 いつもの弁当は、今日は持ってきていなかった。安く済むとはいえ、週に六回ももやしばかりの弁当だとさすがに飽きが来る。小遣いがないわけではないので、外出の時くらい外食を食べたいという健斗のささやかなわがままである。


「あっ……えっとですね、今日はお弁当なんです」


 春香はおずおずといった表情で言った。まあもやし尽くしでなかったとしても、それが一番安く済むだろう。健斗は納得して頷く。


「そうか、そんじゃ俺も弁当買うかー。牛丼でも持ち帰るかなぁ」


 一番手っ取り早そうな選択肢を探す。脳内で近くの牛丼屋の位置を模索していると、


「実は健斗さんの分もあるんですけど」


 と春香が右手のバッグを掲げた。


「……俺の分? 何で?」

「胃袋を鷲掴みにしろって里美が……じゃなくて作りすぎたんです! 手違いで!」

「へえー、作りすぎるもんなんだな……」


 料理というものは始めに分量を決めてからするものだと思っていたが、本人がそう言うならそうなのだろう。ここで遠慮して食べないのも勿体無いので、自分に分けてもらえるというならありがたくいただくことにした。


「じゃああとは場所だな。噴水公園でいいか?」

「はい、あそこが一番近いですし」

「そうだな。ちょっと済ませたい用事もあるし」

「?」と首を傾げる春香を横目に、健斗は歩き出す。公園に行くなら通っておきたい場所が一つあった。今いる繁華街から横に道路を二本渡れば、あとはすぐ近くだ。


 佐倉坂商店街通り。繁華街の近くにあり店も大体開いているが、不思議と人は少ない。その「さかた」という看板が掲げられた果物屋の前で、健斗は壮年の男性に声をかける。


「おーい、坂田のおっちゃん生きてるかー」

「その声はケンちゃんか? 久しぶりだなあ!」


 坂田と呼んだ男性は作業の手を止め、振り返る。


「なんだなんだ、おつかいか? ケンちゃんはいつも真奈美まなみちゃんに任せてるからなぁ、たまには家事くらい手伝えってんだ」

「ちげーよ、通ったから挨拶しに来ただけだ。この前夏希がイチゴ買いにきただろ? あれ美味くてさー、そのお礼だよ」

「お礼たって手ぶらじゃねーか! 菓子折りの一つくらい持って来いってーの!」

「おっちゃんは仕事で売るもん売ってんだろー。手ぶらで十分じゃねーか」

「あ、あのー」


 背後の春香に背中をつつかれ、健斗は我に返った。彼女はこの商店街に来たことがないのか、目の前の男性も知らない様子だ。


「真奈美さんって誰ですか? あと、この人は……」

「真奈美は姉貴。んで、このおっちゃんは果物屋さかたの店主。まあ顔見知りってやつだ」


 健斗は生まれたときからずっと佐倉坂に住んでいる。この商店街にも小さい頃からよく通っており、おかげで大体の店員とは旧知の仲だった。


「ケンちゃん、そのお嬢ちゃんは誰だ? 夏希ちゃんはどうしたんだい?」

「今日はあいつはいねーよ。これはうちの学校の生徒会副会長で、冬宮春香」

「……冬宮春香です。よろしくお願いします」


 春香はぺこりと頭を下げる。それを見て、坂田はがっはっはと豪快に笑った。


「こりゃ礼儀正しい嬢ちゃんじゃねーか! ケンちゃんには似合わねーな!」

「おいおっちゃん、それじゃ俺には礼儀のカケラもねーってか?」

「そうは言ってねーよ! 似たような意味だがな!」


 健斗を軽くいなし、坂田は表に出て両手をメガホンのように口に当てる。


「おーい皆! ケンちゃんが別嬪さん連れて来たぞー!」


 その声に呼び寄せられ、商店街中のありとあらゆる店から壮年の男女が姿を現した。


「ケンちゃんって、北野さんとこの坊主かい? あらぁ、大きくなったねえ」

「先月会っただろーが、変わってねーよ」

「あら、デートかい? ケンちゃんもプレイボーイになったんだねえ」

「デートじゃねえって。あとプレイボーイでもねえよ。なんだよその古い表現」

「ケン坊じゃねえか! 夕飯のおつかいか? うちの魚は安いぞー!」

「今日はちげーっての。通りがかっただけだ、買い物はまた今度な」


 本当にただ通りがかっただけなので、世間話を仕掛けようとしてくるおじさんおばさんをのらりくらりとかわし、春香に「行こうぜ」というジェスチャーを送る。


「んじゃなーおっちゃんたち! また来るからよー!」


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