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ちょっと家出してみようか  作者: 霜雪 雨多
13/17

そして、怒涛の伏線回収が始まる

※注意 サブタイトル通り、伏線回収します。


作品を未読の方は、作品の最初に戻って読むことを強くおすすめします。


それでもよろしければ読み進めてください





ではどうぞ

「『お前は誰だ?』って、どう意味かしら」

「そのままの意味だよ。お前は野々崎なんかじゃない。というか、野々崎はそもそも存在しないと思われる」


「なぜそんな話に…」


「僕の知ってる野々崎と、今までのお前の行動がどうも結びつかなくてな」


「あら、葉波くんが私の何を知っているというのかしら。勝手に人物像を押し付けられても困るわ」


「なら今日を振り返ってみようか」


今日1日のことに全ては集約されている。


「最初、お前と出会ったとき、言うのもなんだが、僕は野々崎がいたことなんてちっとも覚えちゃいなかった。

だが今現在、お前の学校での行動や性格がありありと思い出せる。明らかにおかしい」


「時間が経って思い出してきただけじゃないの」


「いや、そうじゃない。駅で、野々崎のことを思い出せない僕に、お前は手刀を僕の頭に喰らわせたよな」


「ええ」


「それで野々崎っていう名前を思い出した。いや、思い出さされたというべきか。

入学したばかりの、1年生1学期のとき、僕と君は隣同士だった。それがおかしいんだ」


「…はあ。たまたま隣同士だったから私のことを思い出したのでしょう?」


僕もそう思っていた。だが決定的に違う。

「入学直後は、大抵の学校が出席番号順に並んでいるもんだ。僕の苗字は『はなみ』、君は『ののざき』だ。出席番号は五十音順で並べられる。

ここでちょっと考えてみてほしい。



『は』と『の』で隣同士になるか?



僕の前の席に野々崎がいるのなら自然だ。だが隣はほぼありえない。

この二つの苗字の間に入れるのは例えば『のむら』だが、『のむら』がクラスに5人も6人もいるか?

思い違いかと、記憶をほじくり返してみても、隣にはお前がいる。

むしろ鮮明すぎるほどにな」


そう。鮮明すぎるのだ。興味もなかったクラスメイトの姿を昨日のことのように思い出せる。はっきりいって異常だ。


「で、だ。僕はその原因が手刀にあると睨んだ。

他に僕は2発の手刀を喰らっている。あの廃墟で。

お前は男3人組を幽霊だと言った。

僕ははじめはバカなことを言っていると思っていたが、手刀を喰らうと、途端に幽霊だったということで納得した。

それに廃墟の探索にも、ゴネていたのに、手刀を喰らうと、1人で変えることもできたのに、一緒に探索していった。

改めて思い返すと、どうもおかしい。

どうしてその違和感に全く気づいていなかったのか今も不思議だ」


しかも、駅で僕は野々崎を『あまり印象のない奴だ』と評価している。さっきは野々崎の様子をありありと思い出した。

ここから2回目か3回目で野々崎の設定を追加したものと推測できる。追加した理由は不明だが。


「その手刀には人の記憶を操作する能力があるとみた」


そう指摘した。そいつは特別に反応することはなかった。

5mを一瞬で詰め切れるとは思わないが、あまり油断をしないほうがよさそうに思う。ヘルメットでもあれば対策できたかもしれないが致し方ない。


「…続けて」


まだ続けるのか。

しかし、否定はしなかった。

そいつの心でどんな感情が渦巻いているのかはわからない。だがこの口を止めることはできない。


「そして僕の他に、男たちにも手刀を喰らわせたらしいじゃないか。その男3人組を仮にAとしておこうか。

お前は『物音がした』と言って部屋を出ていった。

Aが物音をたてたと解釈できるかもしれないが、それもまた違う。

どう考えてもあの雨音の中で音、ましてや1階からの音を聞き取れるとは思わない。

物音っていうのはあくまで部屋を出るための口実で、本当はAを廃墟から追い出しに行ったと考えられる。

もちろんAは肝試しになんかに来たのではない。

ま、お前が手刀で記憶を操作できることから考えて、Aはどこかのヤバイ団体の所属なんだろうな」


グチョグチョと、足から音がしていたから、きっと3人のどれかが水たまりに足を突っ込んだんだろう。

つまりAは僕らの後に、廃墟の外からやってきたということになる。廃墟の外からやってきた奴らが幽霊ってことは流石にない…と思う。

でも、水たまりに足を突っ込むとか意外と可愛いところあるな。

きっと僕とAを遭遇させたくなくてAに手刀を叩き込みにいったんだろうが、失敗したな。

僕はちょうどAと鉢合わせてしまった。


「そこまで考えていくと、自ずと不審点が出てくる。

家出したわけじゃないだろ。家出制度に詳しいわけではないし、市役所にも多分行ってない。生存確認をする必要がそもそもなかったから。

ICカード、持ってたらみせてくれ。僕の思い違いだといけない」


そいつは首をゆっくりと横に振った。


「持ってないわ。そんなものが必要だなんて思わなかったもの」


根拠としては弱いが、

僕の家出の理由を一発で当てる。

乗り物に極端に弱い。

汗もかかない。

そして本当にトイレに行かない可能性だってある。


「なあ、お前は本当に一体…」


「葉波くん、あなた天体観測がしたいのでしたっけ?」


話を遮るようにそいつは言った。


「そ、そうだけど…」


唐突に、そいつは両手の手のひらを空にかざした。

こちらに手刀を叩き込みに向かってくるのかと身構えたが、そんなことはない。

そして、カーテンでも開けるかのように手を動かした。

その動きに連動して、空に浮かぶ雲が開いていった。


「さて、天体観測をしましょう」


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