月が輝いていたから
どんよりと曇っていた空は、どういうわけか晴れ渡った。
原理はわからないが、とても素晴らしいことだ。
「高原ではないけど、ここもなかなかよく星が見えるでしょう。私からのサービス」
町の光まではまだ遠い。
それでなくともこの田舎町。天体観測をするには十分な暗さだった。
気付かないうちに夜の時間を迎えていた。
「葉波くんの言葉は大正解。私、頭をガツンとたたくだけで生き物の記憶を操作できちゃうの。
私も正体がばれないように立ち回ってたはずなんだけど、バレても頭をチョップすればいいやって、気が緩んでいたようね。
夜空一面に星が瞬き、輝いていた。これを人は、満天の星空というのだろう。
「私はあなたから見れば宇宙人。さっき言った通り、地球に滞在している目的は観光よ。嘘はついてないわ。
私がただものじゃないって気づかれたことは何度かあったけれど、記憶操作での矛盾から気付かれたのは初めて。
この能力、なかなか優秀なのに。
でもそうかー、出席番号か―。次からは気を付けましょう」
わし座のアルタイル、こと座のベガ、はくちょう座のデネブの形作る、いわゆる夏の大三角形。
「しかしいくら何でも、急に『お前』呼びは失礼じゃないかしら。今まで通り『野々崎』って呼んでくれればいいのに」
七夕はもう少し先だ。去年は確か雨が降ってしまっていたが、今年は無事に彦星と織姫は出会えるのだろうか。
「あの深夜に、一人で歩くあなたがどうも気になったからついてきたの。
そうしたら交番であなたの名前を知ることができた。そして家出することも知った。
あなたはいってみれば、私の観光ガイドに選ばれたのよ。決まりきった地球の観光プランにはもう飽き飽きしてしまっていたから。
でもあなたはガイドの役目を立派に果たしてくれた。探索には無理につき合わせちゃってごめんなさい。
しかし、自分が乗り物に弱いって初めて知ったわ。グロッキーになってたし、そういう意味ではおあいこよね」
さそり座のアンタレスが、命を燃やし、今夜も赤く情熱的に輝いていた。
「本当は改めて記憶を操作しなければいけないところなんだけれど、あなたは誰にも話さないような気がするわ。
忘れられるのもなんだか寂しいし。だったら記憶操作なんて必要ないかも」
そうやって皆同じように、星々は燃えていく。己の寿命と引き換えに光り輝いて。
空で輝く星々の光は、実は何万年、何億年前の光だそうだ。
「せっかくだから、一つ葉波くんのお願いを聞いてあげましょう」
僕は無意識のうちに声を出していた。
そいつの言葉なんて、僕はこれっぽちも聞いちゃいなかった。星々を眺めることの方が何よりも大切だから。
なのに都合のいいことはきちんと認識する、都合のいい耳だ。
でも、本当に一つ願いを聞いてくれるのなら…
「月を消してほしい」
僕はこれを満天の星空とは認めない。
本物の星空などではない。
なぜなら、昨日とほぼ変わらずに、月が輝いていたから。
星々の輝きを消してしまう月なんて、いらない。
月の輝きが人を狂わせる。




