九尾の妖孤
男から奢ってもらった分と、市場の商人達からタダでもらった食材でカゴは一杯になっていた。さすがにこれ以上は必要ないと判断し、おれはクノと共に帰路についていた。
野菜類から魚類、肉類と豊富なラインナップだ。調味料もいくつか分けてもらえたし、しばらくは困らなそうだ。
「いやしかし驚いたのぅ。案外お主、強かな性格しておったのじゃな。男を丸めこみ、商人達を掌握し、結局今日は一度もお金は払っておらぬだろう?」
「そうだね。今日は大漁だったよ。というかその言い方は止めてほしいんだけど……」
おれだって好きでやってるんじゃない。
男はあっちから絡んできたし、商人達も向こうから絡んできた。
魅了のスキルでもついてんのかってくらい人気者だ。まあ、自分で言うのもなんだが、おれの外見はかなり可愛いからな。ロリコン紳士達には堪らないのだろう。
「世の中ロリコンが多いんだって再認識したところだよ」
「ろりこん? なんじゃそれは?」
首を傾げるクノ。
どうやらこの世界にはロリコンという言葉はないらしい。
「子供好きってことだよ」
「なるほどのぅ。確かにわらわもお主も幼い見た目をしておる。母性本能でも働かせたか」
クノの解釈はちょっと違うような気もするが、まあいいか。
しばらく歩き、市街地を抜けようとした時。
クノが唐突に足を止めた。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、本当にわらわも夕飯を共にしてよいものかと思うてな」
「いいっていいって。さっきも言ったでしょ? 賑やかな方が楽しいんだからさ。エクトルもそう言ってたし問題ないよ」
「そ、そうか。すまぬな」
なんだかしおらしいクノ。頭撫で撫でしたい。
「でも、どうしてそんなことをきいたの? そんなに気にすることかな?」
「わらわにとってはな。今までは食事はいつも1人でとっていたからのぅ。妖孤の中でも、わらわの種は最上位じゃったから、共に対等な立場で食事をしてくれる者はおらんかった」
「妖孤の中にも種類があるんだ?」
「うむ。尾の数で決まる。わらわは名前でも判るとおり九尾じゃ」
「九尾……」
なんか強そう。
しかし名前で判るというのはどういうことだ。
クノだろ?
クノ……くの……。
ああ、九ノか。そういうことか。
「あれ、でも今はクノの尻尾1つしかないよね?」
「今は通常時じゃからな。妖力を高めれば自然と尾が増えるのじゃ」
「そういうことか」
強化状態になれば九尾になるんだろう。
ということは、さらなるもふもふの境地に達することが出来るということか。い、いかん、涎が出そうだ。
「ワノクニは位や階級を重んじる国じゃった。そのせいかわらわの周りには世話係ばかりおったんじゃ」
「へぇ~。やっぱりクノは偉いんだねぇ」
「偉い訳じゃない。ただ九尾だっただけということじゃ」
「でも、尻尾が9本ある妖孤は位が高いんでしょ? そういう決まりがワノクニにはあるわけだ」
「まあ、そうじゃが……」
声のトーンが落ちるクノ様。
もしかして、クノが偉いと知られたらおれもその世話係のように気を使うとでも思っているのだろうか。
「それで質問なんだけど、どうしてクノは国を出たの?」
「なんじゃ、藪から棒に」
「いやだってそんなに偉いのなら国を出る必要あるのかなって。待遇良かったんじゃないの? 世話係とかいるくらいだしさ」
「まあ、それなりにはよかったかもしれん。じゃが、祭りげられて、わらわの意思はないようなもんじゃった。国の飾り……、わらわの扱いはそんなところか」
あまり良い思い出はないのか、クノの表情は暗い。
この堅い喋り方も、国のからの教育なのかもしれない。
日本でいうところの天皇陛下ってとこか。象徴だし。
「世界は広い。あの狭い島国で一生を終えるのは馬鹿らしく思えての。加えわらわは長寿じゃ。長い人生の中で旅をしてみたいと思うのはおかしなことではなかろうて」
「旅かぁ。人生一度きりだからね。それくらいしないとだよね」
まあ、おれは何故だか2回目なんだけど。
「でも、旅の目的がその薬っていうのは……」
貧相な身体を豊満にしたい。じゃなくて背を伸ばしたいか。
ロリ体型よりかは見栄えいいかもだけど、薬に頼ってまで変えることではない気がする。せっかく両親がくれた身体だ。大切にしないとバチがあたる。
「わ、わらわとて女じゃ。ないすばでぃな身体に憧れて何が悪いっ」
「ご、ごめんごめん。別に悪いってわけじゃないよ」
「お主だってわらわと変わらぬ体型ではないか。ぼんきゅっぼんな身体が欲しくはないのか?」
さっきからナイスバディやボンキュッボンってどこでそんな言葉を……。
まあいいや。
「わたしは別にいらないかな。この身体で満足してるよ」
「お主はその身体でも可愛いからのぅ……」
おおう。
なんかクノが僻んでるんですけど……。
「クノの方が可愛いと思うけどな。もふもふだし、もふもふだし、もふもふだし」
「……お主がわらわの耳と尻尾しか見ていないことはよくわかった」
「そ、そんなことないけどなー……」
「目線が泳いでおるぞ。まあ、よい。話は戻るが、今日はよろしく頼む」
「別に食事くらいで畏まらなくてもいいけど、こちらこそよろしく」
こうして、食材を手に入れたおれとクノは、エクトル邸に戻るのであった。




