④ 迫りくる予感
その日、台風が近づいてきていた。大雨の日々が続き、僕は佐山さんとあの樹の下で会うことも少なくなっていた。早く彼の元に向かって色々な話をしたいと思うのだけれど、なかなか天気に恵まれなかった。
ただ前よりは、クラスで佐山さんと話す機会が増えたので、お互いに休み時間に話したりなど、それなりに楽しい毎日を送れていたのだ。
けれどその日だけは、あまりに強い大雨が降り注いで、生徒達は午前中の授業だけで早くも下校することになった。おまけに雷も鳴り響き、僕と佐山さんは下駄箱で一緒に歩きながら、何だかその薄暗い校舎を見つめる中、言葉も少なかった。
「雷、怖いよね。早く止んで、あの場所に行きたいんだけど」
佐山さんは扉の窓の外をじっと見つめながら、そうどこか沈んだ顔でつぶやく。
その時一瞬、辺りが光で照らされたのがわかった。間髪入れずに、物凄い轟音が校舎を包み込み、佐山さんが大きく悲鳴を上げた。
気付けば僕らは身を寄せて息を殺して、ただ震えていた。
佐山さんは僕の胸に肩を寄せて、ただ俯いていた。僕も彼女の肩に手を置いて硬直してしまう。
「あ……ご、ごめん」
佐山さんは至近距離で見つめ合うと、慌てて身を離して、どこか赤い顔を反らしてしまった。
僕は小さくうなずき、自然公園の方をじっと見つめた。学校の敷地を囲む柵の向こうに、豊かな自然の姿が大きく広がっていたけれど、そこに漂う空気は薄暗い闇に覆われている気がして、背筋が冷たくなった。
「今、かなり近いところに落ちたよね。なんか怖いよ、ホントに」
佐山さんは僕の腕を握って手先を震わせて、そこに佇んでいた。僕は彼女を促して、一緒に下校することにしたのだ。
その時にも僕はずっと、自然公園の方へと意識が向いて、どうしても気になってしまうのを抑えられなかった。何かとても不吉な予感が体をざわざわと粟立たせていたのだった。それでも今はただ、佐山さんをバスの中で必死に元気づけることしかできなかった。
後で考えてみれば、もう僕らはその時、事実を予感していたのかもしれない。その姿を見なくても、何が起こったのか、何が起ころうとしているかは、その心に、体に直接感じていたのかもしれない。
でも、その時にはもう、僕らにはどうすることもできなかったのだ。




