11.説明回。とばしても可
11.説明回。とばしても可
さて。悪役メイドにみごと死亡フラグが立ったところで、VTについて少しおさらい。
ヴィクトリアン・ティーパーティ。サブタイトルが、「英国貴族の華麗なる秘め事」。
この「秘め事」っていう単語がまた、このゲームに人気が集まらなかった原因だったんだろう。と、私は推理していた。
誰だって、秘め事って言われたら何かしら淫靡な想像をするものじゃない? だけどこのゲームの製作陣はそう思わなかったようなのだ。「秘め事」っていうのは何も色めいたことじゃなくて、ゲーム中で発生する陰謀のことだった。事件と言い換えてもいい。期待を裏切るその健全性、そのせいで残念な結果になった。
18禁じゃなかったVT。じゃあどういう代物だったのか、そのゲーム内容を少し思い出してみる。
まず、主人公が伯爵家のメイドとして雇われたところからゲームスタートだ。
プレイヤーはヴィクトリアン時代のハウスメイドになりきって、伯爵家で働き始める。ミニゲームやイベントを乗り切りゲームポイントを加算していくと、それに伴い伯爵家での地位も向上していく。ここでヴィクトリアン物のうんちくが必要になるってわけね。じゃないとミニゲームに勝てないから。
道筋はいろいろ変わるけれど、伯爵の母親の侍女まで行けたら次のステップだ。
伯爵母に連れられて、ロンドンの社交界へ入りこむ主人公。舞踏会や晩餐会で彩られた華やかな上流階級の暮らしを、伯爵母にくっついて見物させてもらう。メイドにしては上品な物腰の主人公は、そこで花開くのだ。もともと伯爵令嬢なんだから、身につけた礼儀作法がやっと生きた、ってことになっている。
そんな中でもやっぱりミニゲームがあり、他家のメイドを負かした主人公は、今度は宮殿で女官長をしている女性の目に止まる。つまりターナー侯爵夫人のこと。
そうしてスカウトされた主人公は、見事バッキンガム宮殿へと伺候し出世し、ついには、あの世界に名だたる大英帝国の君主、ヴィクトリア女王への目通りを許されるのでした。やっぱりメイドとしてなんだけどね、最初は。
あ、もちろん要所要所で攻略対象たちが登場し、主人公を助けてくれる。
そういう流れの中で、交流を深め、好感度を高めていくのだ。最終的に誰と結ばれるかはお好み次第。まれに結ばれないシナリオもある。
で、大事なのは、このゲームVTのTの部分。
ティーパーティ。お茶会。
つまりこのゲームの主なるテーマは、言い換えれば主戦場は、それは『お茶会』だ。
ひとくちにお茶会といっても、規模や形式、客の種類やら人数で様々だ。VTのゲーム内では、そんな色々な種類の茶会が数限りなく開かれる。
ただお茶のんでしゃべるだけの井戸端会議に毛の生えたもの。
貴族同士のご機嫌うかがいの訪問で、軽くお茶とお茶菓子をいただくもの。
貴婦人が集まった社交界の情報交換会で、ついでにお茶をいただくもの。
招待状を何日も前から出し、テーブルセッティングや席次に綿密な計画をねり、お茶受けにはコックに腕によりをかけさせたケーキを出し、もはや正式な晩餐会と変わらないような盛大なもの。
そんな、千差万別な状況で開かれるお茶会。
VTのミニゲームはそのプロデュースで競われる。
上質な茶や、高価な茶葉とお菓子ばかりを用意していればいいってものでもない。そればかりでは減点対象だ。お茶そのものが目的でない場合は控えめにしたり、出すタイミングも考える必要がある。また、相手の人柄や身分が許せば、セッティングに思い切った演出をしてもかまわない。これはあんがい高得点になる。
ここで、私がゲームプレイ時にプロデュースしてきた数々のお茶会を思い出してみよう。
新婚の若奥様が初めて開くお茶会では、正統派のセッティング。インディゴ・ホワイトのティーセットに、先祖代々伝わる銀のポットとお盆。お菓子はきちんと、三段トレーにサンドイッチ、スコーン、ペストリーを用意する。フォートナム&メイソンから取り寄せた初摘みのダージリンが、新婚の初々しさを添えた。
使用人たちが休憩時間にいただくお茶は、濃い紅色のアッサム。茶葉は支給されても砂糖とミルクは自腹なので、おごってあげると非常に喜ばれ、ポイントも高い。
ハムステッド・ヒースへとピクニックに行く令嬢たちには、バスケットいっぱいにパウンドケーキやショートブレッド、トフィーなどのお菓子を詰め込み、お茶は蜂蜜入りの冷たいフルーツフレーバティーで。
午後じゅうずっと挨拶まわりのお宅訪問をして、帰って来た貴婦人。お疲れの奥様には、最高級のウバ茶をごく濃いめに淹れ、ミルクも砂糖もたっぷり入れてそっと差し出す。
経験豊富な年頃のマダムたちが内輪だけのおしゃべり会をする時。そのときには、少し物珍しい中国茶器に烏龍茶、こってりしたくるみ入りの月餅なんかを青い染付の磁器にさりげなく並べてみた。
一番評判を呼んだのは、意外なことに、カップもソーサーも自分で選び、自分好みの組み合わせでいただくお茶会だった。用意した茶器はイギリスのアンティーク銀器、インドの雑貨風の物、中国の赤い色絵、日本の漆器に韓国の青磁、モロッコのミントティー用グラスなど。お茶は軽めの味のブレンドで、お菓子は素朴なアップル・クランブル。
普段、こと細かい作法や暗黙のルールに縛れている貴婦人たちには気晴らしになった、という評価だった。
とまあ、ゲームが終わった後は、必ずおやつにしたくなるゲームだったってこと。お陰でクリアする頃には私のお腹にもだいぶ、その、そこまでじゃなかったはずのダブつきが。
……青春を返せ。




