幕間<レイガ・フォレスト公爵の憂鬱③>
「それは、あなたが悪いですね」
レイガの話を聞いた義母は、そう言い放った。公宮に出発した日の夜。
宿に落ち着いた後、レイガは思い切って、義母の部屋を訪ねたのだ。
そして。
今回の同伴をしてくれたことに礼を言った後、馬車でのアーマリアとの会話を相談してみたのだ。
「アーマリア様は、あなたに『何か話したいことはないのか?』と聞かれたから、ご自身が話したいことを話したに過ぎません。あなたは、アーマリア様と何を話したかったのですか」
「どこか、出かけないかとか……」
「はあ?」
レイガは。義母がそんな声を出すのを聞くのは、初めてだった。
「本気で言っているのですか⁉」
そうして。
呆れたように、そう言い放たれてしまった。
「今回は、物見遊山ではないのですよ。あなたとアーマリア様が、どれだけ協力を張れるのか、公宮の方々に見定められる機会なのです‼」
義母の言葉は。
もっともな内容ではあった。
そのことは、十分にレイガもわかっている。
ただ、そこに。
「このことが無事に終わったら、これをしましょうね」という楽しみみたいなのができたら、と思ったのだ。
前回は、自分が企画して、自分の故郷であるオランドにエーデルワイスを見に行った。
今回は、アーマリアの故郷でもある公都に行くのだ
。彼女の方が、公都については色々知っているだろうから、何かお気に入りの場所などを案内してくれると良いな、と思っていた。
けれど。
馬車に乗るなりアーマリアが話したことは、周りの使用人に気遣わなければならない、という話で。
「何か話したいことはないのか」と問えば、
「じゃあ、このことを教えてください」と、領地経営のことを質問してくる。
……何と言うのか。アーマリアの自分への態度は、「夫」と言うよりは「仕事相手」に対するものだった。
領地のことや使用人達のことに関しては、積極的に話しかけて来るが、「夫婦」のこととなると、一気に何の反応もなくなる。
エーデルワイスを見に行った時には、少しは夫婦らしくなれるかと思ったが、それ以降妻と話したことは、「領地経営」「使用人のこと」「義母に教えてもらったこと」だった。
もちろん、侯爵位を賜っている貴族夫婦の会話内容としては、それらはとても大切なことではある。
だが、その一方で。
アーマリアは、レイガのことに関しては、何一つ聞いてこなかった。
「ご自分で、お伝えすれば良いではないですか」
レイガのそんな考えが顔に出たのか、義母が呆れたように言った。
「私はあなたに伝えたはずですよ。『思いは、口にしないと伝わりませんよ』と」
それは、その通りだった。時々、義母はそう自分に言っていた。
けれど、血の繋がりもなく実の母のように接してくれない相手に、自分の思いを伝えることなど、できるはずもなかった。
「……あなたの言いたいことは、わかります」
そんなレイガの表情を見て、義母はレイガの言いたい思いを察したらしい。少し哀しそうな表情をして言った。
「私達は、あなたが望む愛情を、あなたが望んだ形で渡すことはできなかった。そのことに関しては、すまなかったと思います」
それは。
初めて聞く、義母の本音だった。
先日、公宮への同行を願い出た時は、『わかりました。それでは、ファナの同行を許可していただけるのであれば、一行に加わらせてもらいます』と言うだけで、それ以上のことは、余計なことは言わなかった。
「けれど、あなたはもう大人なのです。自分が望むものがあるのであれば、まずは自分で行動して、自分の言葉で気持ちを伝えることができるはずです」
義母の隣に座っている実母は、義母の言葉に頷いていた。
「……私は、どうしたら良いのですか?」
自分の声が、少し震えていることをレイガは感じた。
「誘えば良いのですよ、『全てが終わったら、どこかに出かけないか?』と。そしてアーマリア様が『良い所は知らない』と言われた時のために、いろいろな場所を探しておけば良いのです」
「義母上……」
レイガは、義母の言葉に何も言い返せなかった。
とても真っ当な意見だったのだ。
「人に求めるのであれば、先に与えなければなりません。求めているだけでは、いづれは『別れ』になってしまいますよ」
義母は、レイガが一番避けたい事態を告げた。




