出力とブレーキ
シュレイノリアが、空気抵抗と言って、食いついてきたので、シュレイノリアは、その質問を聞いて、嬉しそうにする。
シュレイノリアは、ユーリかリア達が、徐々に気になるものが増えてきたこと、そして、質問のレベルが上がってきたことが気に入った様だ。
そして、ユーリカリアに質問をする。
「あなたは、息をしているか?」
ユーリカリアの質問にシュレイノリアは質問で返した。
ユーリカリアはなんと当たり前の事を聞くのだと思ったのだろう、少し表情を変えてから答える。
「ああ、呼吸している」
「その呼吸して吸い込んでいるのが空気だ。 生まれた時から一定の圧力で抑えられているから感覚は無いが、息をしているのが空気。 あなたは、馬か地竜に乗って走った事はあるか?」
「ああ」
また、当たり前の事を聞いてきたので、ユーリカリアも流石にイラついたのか、ちょっと乱暴に答えた。
「なら、走る前に無風だったとしても、走り出したら前から風を受けているだろう」
「ああ。 確かに風を受けている」
「それが空気抵抗」
走った時に受ける風の事を思い出して納得できたユーリカリアは、空気抵抗が何なのか理解できたので納得して答える。
「ああ、なるほど。 じゃあ、話を進めてくれ」
シュレイノリアは、少し拍子抜けした様だが、ウィルリーンは、自分が聞きたかったことをユーリカリアが聞いてくれたと思ったのか、少しホッとしている。
シュレイノリアは、話を少しまとめる事にする。
「重力は、物質の持つ引力で、……、ああ、星の引力を重力と言う。 引力は大きさに比例する。 星の上では、星の重力が強すぎるため、地上にある物質の引力を感じる事はできない。 重力の影響が無くなれば、物質は落ちる事は無いが、浮き上がる事も動く事も無い。 地上に有る物も空中にある物も、重力の影響を遮断すれば、その状態を維持する。 ここまでは良いか?」
シュレイノリアは、かなり掻い摘んで説明をした。
自分の話に付いてこれたのかを確認した。
「ええ。 そこまでは、なんとなくですけど、理解できました。 それと、持ち上げた石を使って重力を遮る様にイメージして魔力を込める。 手を放して石が浮いていたら成功ですね」
シュレイノリアの説明の全てではないが、ウィルリーンは、さっきのシュレイノリアの石の動きから、今の話と結びつけて、無理矢理覚えようとした様だ。
完全な理解まではいかなくとも、本質的な事は理解できたとシュレイノリアは、ウィルリーンの話から読み取ったのだろう。
「そうだ。 それが出来れば、後は風魔法で制御を行う。 ボードでも何でも良いので、浮かせたり下ろしたり出来れば良い。 その後は、出力とブレーキを備える。 ボードを浮かせたり下ろしたりが出来れば、出力制御も可能になる。 慣れてきたら上限スピードを上げれば良い」
「あのーっ、出力とブレーキと言ったが、そのブレーキの力はどれ位にすれば良いのでしょうか?」
ウィルリーンは、また、新たな制御に関する単語が出てきたので、慌てて、それについて確認をした。
シュレイノリアは、自分の話の合間を縫って質問してきたウィルリーンに答える。
「ブレーキは、出力と同じかそれ以上の力が必要。 それと、ブレーキは、一方向だけだと問題が有るかもしれない」
シュレイノリアは、少し考えると、また、話を進める。
「進行方向に人が居た場合を考えると、正面に向かって、風魔法を出力したら、目の前の人が、吹き飛んでしまう。 だから、進行方向に向かっての風魔法は、極力避けた方が良いと思う。 ただ、私の魔法紋には人を検知する様になっていて、その方向を避ける様にブレーキの風魔法が出るようになっている。 だが、レオンとアリーシャ姉さんの、2人の使い方を見ていると、その魔法を発動させる機会が無かった。 2人は上手に乗りこなしているし、使う時はジュネスが、戦闘の時だけに限定している。 それが事故になってない要因となっている」
シュレイノリアは、ウィルリーンの質問の内容から、もっと深く具体的な話をした方が良いと思った様だ。
「ああ、人に見られそうな所では使わせて無いな」
シュレイノリアの話に、ジューネスティーンが反応した。
「街道で使っていたら、街道を通っている人や馬車とのスピードの違いから、接触事故の可能性が上がる。 街道での移動に使わなかったのは良かった」
シュレイノリアが、今までの事を話した。
「済まない。 人が密集していたらどうするのだ。 ブレーキを使った時、人の行列に向かっていたら、前方に向かって、ブレーキを使ったら、その方向の人が吹っ飛んでしまう事になる。 その場合はどうなる」
その質問をされると、シュレイノリアは地面にホバーボードの図を描いて説明を始めた。
「進行方向に向かっての風魔法は極力避けた方が良いと言ったが、絶対とは言ってない。 正面と左右に風を出して、面でブレーキを掛ける様にする。 分散した力を利用する。 右にも左にも45°の方向に同時に同じ力で出力したらベクトルは0°の方向に、ブレーキの力は1.4倍の力で0°の方向に発生する」
シュレイノリアはそう言うと、絵に描いたホバーボードの左右に、45°の矢印を描く。
「これをボードの側面に数カ所に分散させて配置すれば、一つのブレーキの出力は抑えられるが、0°の方向への力は大きくなる。 もし、側面に45°の方向に出るブレーキの出力が、左右に2箇所ずつ有るとすれば、一つのブレーキの出力は、一つあたり0.35倍でも4箇所から風魔法が噴き出せば、0°の方向には1の力になる。 更に正面に配置したブレーキと同じ風魔法を用意すれば、ブレーキの出力は、2となる」
ブレーキについての説明を行うとシュレイノリアは、もう一度考え出した。
ジューネスティーンと考えていたホバーボードは、戦闘用にと考えていたので、人を避けるなんて事は、詳しく考えていなかった様だ。
「ああ、人との接触まで考えるなら、ブレーキの風魔法は、すべて同じ出力が良いだろう。 急ブレーキとなれば、正面に人が居た時と考えられる。 正面の風圧を強くするより、全体に分散してブレーキを掛ける方が安全度は増すだろう」
ブレーキに関する事はこの程度かと、シュレイノリアは思うと、ウィルリーンの顔を見る。
ウィルリーンは、ベクトルの図を見ながら、シュレイノリアの話を頭の中でまとめている様だった。




