姿勢制御について
ジューネスティーンの考えている間に、シュレイノリアが話の対応をしている。
「制御は、人が使える範囲の力に抑える。 人それぞれ能力の差が有る。 慣れればもっと強い力を出しても構わない」
「それだと、漠然としていています。 具体的には?」
「あそこで乗っている程度。 最初は歩く程度に抑える。 それと、地上からの距離をスキャンして、下と上への力を保つ。 左右へ曲がる時は、ボードを傾けるから上下の力は、真上から抑える力、上に押し上げる力の均衡を保たせる。 傾ける事を考えると、4方向に向かって風魔法で流すのが良い。 ボードの重心から姿勢制御用に風魔法を使う。 傾けた時にも地面に当たらない様に工夫が必要。 姿勢制御ができたら、出力とブレーキの風魔法を使う」
ウィルリーンは、眉を動かした。
今の説明で、何か気になったことが有ったのだ。
「姿勢制御に、なんで上から押さえつける必要があるのでしょうか?」
「重力を遮断しているからだ。 重力が無ければ、下に向かって風魔法を送れば無限に上に行ってしまう。 それでは意味が無い。 地上から一定の距離を保つために上下に姿勢制御を与える」
ウィルリーンには、今の説明では、うまく理解できなかったのだろう、理解できた時の感じは無かった。
それを見ていたジューネスティーンが、シュレイノリアの話を捕捉する様に話に入ってきた。
「重力魔法は、重くしたり軽くしたりしますから、鳥の羽を考えれば分かり易いと思いますよ。 ボードの重さが無くなるのですから鳥の羽が風でフワフワ浮いた様な状態です。 それに下から風を送ればどんどん上に上がっていってしまいます。 そんな状態になっているのです」
ジューネスティーンが少し解説すると、ウィルリーンは納得する。
「成る程、鳥の羽なら確かにそうなる。 それで、上からも抑える力が必要なのか」
「そこまで分かれば、後は、移動の為の出力と、止まる為の出力を付ければ、ホバーボードは完成」
「しかし、私にその重力魔法が扱えるだろうか?」
ここで、また、ウィルリーンがネガティブな発言をする。
しかし、シュレイノリアはそれを無視して続ける。
「魔法は、イメージしたものを具現化する。 重力について、さっき説明した事を理解できれば、簡単。 後は、自分で試してみて、使える様にすれば良い」
「しかし、私にその重力魔法の適性があるのだろうか? 適性の無い者はその適性の魔法を使うことができない」
それを聞いてシュレイノリアは首を横に振って否定する。
「魔法はイメージできるかどうかにかかっている。 適性が無いのではなく、イメージができないから使えないだけだ」
ウィルリーンは、黙っている。
それを見たシュレイノリアは、足元にある一握りほどの石を持つと、ウィルリーンの前に手を出すと、持っていた石を手のひらを開いて置く。
「簡単な重力魔法の練習方法だ。 この石を見ていて欲しい」
ウィルリーンは、シュレイノリアの手のひらに乗っている石を見る。
それを確認すると、シュレイノリアはその掌を下に下す。
手のひらに置いてあった石は、その状態を維持したまま空中に浮いたままになっている。
「地面に置いてある石では重力から解き放ったかどうかは確認し難いが、手のひらの石なら手を離せばその状態で止まっている」
信じられない物を見る様にウィルリーンは、その石を凝視している。
そして、石の周りに手を出して、何か目に見え無い糸がないか確認する様に手を振ってみるが、手に触れるものは何も無い。
しかし、手を振った事で石の周辺の空気が揺れた。その事で空中に浮いている石が僅かに動く。
「無重力状態の状況では、外部から力が掛からなければ、その石は動か無い」
そう言って、シュレイノリアは指で軽くその石を突っつく様に押すと、その方向に石は動き出す。
しかし、直ぐに風が、石の進行方向から吹くので、徐々に石の動くスピードが落ちる。
「重力の影響を断ち切ったとしても空気抵抗は有るから、空気抵抗によって石のスピードは落ちる。 風が吹けば風の影響で動く」
「なら、空気が無かったらどうなるんだ?」
「力のかかった方向に永遠に進む。 最初に加えたスピードをそのまま維持する。 真空の状態では空気抵抗が無くなる」
横にいたユーリカリアが、口を挟んできた。
「済まない。 その空気抵抗とは何なのだ」
シュレイノリアは、その質問が面白かったのか、僅かだが、笑みを浮かべた様だ。




