魔物の住む世界
ユーリカリアとウィルリーンは、自分達の存在意義について考えてみると、自分達の行いがこの世界では正義ではなく、悪なのではないか。
そんな疑問を感じていた。
それは、自分を否定している事になるのではないかと思ったのだろう。
2人は、暗い顔をしている。
それを見てジューネスティーンは、宥めるように言う。
「いえ、魔物達から見たらって事なので、何とも言えないのですけど、基本的に食物連鎖の繋がりが、この世界に無いのですよ」
また、不思議な事を言うと思うユーリカリアとウィルリーンは思う。
食物連鎖については少し知識があったウィルリーンが、自分の考える世界の在り方から質問をする。
「魔物は、人や動物を食べるのだから、この世界では魔物が食物連鎖の頂点にいるのでは無いのか?」
その疑問をシュレイノリアが否定する。
「違う、人・亜人・動物がこの世界に呼ばれたのだとすると、それを取り除いてしまったら、この世界の生態系がなり立たない。 魔物は、生態系とは言えない。 魔物は渦から発生する。 母親から生まれる魔物の話は聞いた事がない。 それに発生して死んでの繰り返しの中で、魔物は何の生産性も無ければ破壊も無い」
(魔物は、人や動物を襲う。 それが破壊活動になるのではないか?)
そう考えるウィルリーンはシュレイノリアに言う。
「魔物は、人や動物を襲うから、破壊はしているでしょう」
「いや、人や動物以外を襲う魔物が居ない。 魔物同士は戦わない事を考えれば、魔物は人や動物が居なければ攻撃はしない。 人や動物が居ないなら魔物は破壊活動を行わない事になる。 それは魔物同士が殺し合いをしない事からもわかる。 この世界は、魔物だけの世界だった可能性が高い。 そこに人、亜人、動物が呼ばれた」
「呼ばれた?」
魔物の世界に、人や亜人が呼ばれたとシュレイノリアは言う。
(なんで呼ばれる必要があるのか?)
どう言う事なのか理解に苦しんでいる2人を、そのままにしてシュレイノリアは続ける。
「私達は、望んでこの世界に来た訳ではない。 望んできたのなら、前世の記憶も、もっと、しっかりしているはず。 なら、この世界の、何らかの力によって、呼ばれたと考えた方が良い。 前世の記憶を完全に覚えている訳では無いので定かでは無いが、この世界に呼ばれたと考えるのが妥当。 それに天寿を全う出来るかどうか、魔物が居る危険な世界で、一度、死んだら終わりの世界に、誰が好き好んで来たいと思う。 別の世界に行けるなら、もっと都合の良い世界に、たとえば、不老不死の命をもらえる世界や、もっと便利な世界に行きたいと思うだろう。 自分が、殺される可能性のある、リスクの高い世界に行きたいと考えるとは思えない。 そう考えると、個人の意思に反して連れて来られたと考えられる」
ウィルリーンは頭が混乱している。
魔物は元からこの世界に居て、人や亜人、それに動物も、別の世界から、この世界に来た。
しかも、この世界に来たのは、元の世界から望んできたのではなく、この世界の何かに呼ばれたのだと言う。
呼ばれたのなら、自分達には何かの使命が託されているという事なのだ。
そう考えるのが妥当だと思えるが、もしそうでなかったら、自分達が行っている事は、世界の意思に反しているのでは無いのか。
今の話をまとめると、誰もが、そう考えてしまうだろう。
「では、我々は、どうするのが良いのだろうか。 魔物はこの世界の先住民で、人や亜人は、後から来た侵略者だと言うなら、私達の行っている魔物の討伐は、この世界では、悪なのではないか」
シュレイノリアは、今の話にも回答は持っていた様子で、直ぐに、ウィルリーンに答える。
「それなら、この世界に繋がるゲートが開いて、別の世界から、人や亜人を呼ぶ事は無い。 だが、呼ばれているのには何か訳がある。 世界の意思に反した行動が起これば、世界は修復しようと考えるだろう。 だが、人や亜人が、国ごととか都市ごと、死ぬような事になってないのは、我らに何らかの使い道が有ると判断されているのだろう」
ウィルリーンは、シュレイノリアの話から考えられる事を必死で探しているのだろう。
何かを探しているような顔で、必死に考えている感じが、周りに伝わってくる。
そして、誰もが、その答えを待っているように、ウィルリーンを見ている。
「世界は、見えない大きな意志によって動かされている」
「そうだ」
そこまで聞くと、ウィルリーンは、真剣に質問する。
「なら、私達は何をすれば良いのだ」
その話を聞いてユーリカリアも同意した様子で、シュレイノリアの、次の言葉を息を呑んで伺う。
「それは、昨日まで行っていた事を、今日も明日も行う。 ただそれだけだろう」
何も変わらないのかと思うと、2人は力が抜けた。
シュレイノリアの答えが、何も変わらないで、過去と同じ事をして、今日も明日も行うだけと言われて脱力した2人に、ジューネスティーンは、そろそろ話を戻さなければと思ったのだろう。
「すみません。 ホバーボードの話から大きく脱線してしまいました」
ジューネスティーンが、話が逸れてしまった事に詫びを入れる。
「いや、構わない。 自分の事を見直す良い機会になった」
「ええ、私も母の事を考える良い機会になりました。 非常に有意義な話を聞けたと思います」
とんでもない話だったが、自分や自分達の種族を見直す良い機会となった。
そう考えると、無駄な時間を過ごしたとは考え難いと2人は思う。
「それより、ホバーボードの原理はわかりましたか?」
「重力を魔法で中和して風魔法で動かす。 それで、その力を無制限に使うのではなく制御する。 だったと思います。 それで、制御というのは、どの程度に抑えるのでしょうか?」
話が脱線したのに、ウィルリーンは、スラスラと答えた。
それを聞いていたジューネスティーンは、少し感心したような顔を向けた。
一般的な人なら、それた話しを元に戻す為、少し考えるだろうが、ウィルリーンには、それが無かったのだ。
それは、大事な話が何なのかを理解しているから、別の話をしていても、頭の片隅に重要なポイントを常に考えていたからなのだろう。




