ホバーボードの動作原理の基礎
ジューネスティーンがユーリカリアに、重力の話をするにあたり、星の大きさを例える話をしていたのを聞いて、横から、アンジュリーンが、先程の暗算の方法について聞いてきた。
「ねえ、今、あんた、2000÷0.05を、変な計算をしたわね。 普通なら、200,000÷5にしない?」
「ああ、2とか単純な数字だと簡単だけど、583÷5とか有効数字が大きくなると厄介なので、÷5の時は、2倍して10で割るようにしているんだ。 “×2÷10” も “÷5” になるからね。 暗算の時には役立つんだ」
「へーっ、変な事知ってるわね。 他にも何かある?」
言われてみたら、その通りだと思うのだが、それ以外にも、何か知っているかと思って、思わず聞いてしまったのだ。
「これは、役に立たないかもしれないけど、9で割り切れる数字は表示されている数字を全部足すと9の倍数になる。 333は全部足すと9になるとか、693も全部足すと18だから割り切れるとか、それが3で割り切れる数字も今みたいに足すと3の倍数になるって分かった時は、ちょっと感動した。 あと、5の乗数は3乗以上だと下3桁が、125と625しか無いとか」
アンジュリーンは、苦い顔をしている。
聞いた自分が馬鹿だったと思いつつ、これ以上数字についての話をされてもと思ってアンジュリーンは話を止める。
「あーっ、もう良いわ。 頭が痛くなりそうだから。 それにしても、数字について、よくそれだけ思い付いたわね。 感心するより、呆れるわ」
アンジュリーンはそう言って、ジューネスティーンの話を途中で遮ると、ユーリカリア達の方に視線を送る。
呆気に取られるユーリカリアとウィルリーンを見て、申し訳なさそうに言い訳をする。
「うちのリーダー、こう言う話になると、結構、くどくなるのですみません」
「それに、お前も乗っかっただろ」
そう言われてアンジュリーンは、少し膨れて向こうを向いてしまった。
呆気に取られていたユーリカリアが、話を戻す。
「取り敢えず、この大地がとてつもなくデカい物だって事は分かったよ」
「で、何の話でしたっけ」
数字の話でアンジュリーンが突っ込んできたことで、話していた事を忘れてしまったようだ。
そんなジューネスティーンをムッとした顔で、シュレイノリアは見る。
「重力の話だ。 重量魔法の話をしていて、大地は大きな球体だという話になった。 その大きさの例え話をした」
その説明で、ジューネスティーンも話していた事を思い出したようだ。
「ああ、そうだった。 星が引っ張る力を制御するのが重力魔法って事ですね」
すると、ユーリカリアが右手を上げて、ジューネスティーンの話を制する。
「すまない、その話なのだが、多分私達には理解不能の可能性が高い。 取り敢えず、物には引っ張る力があって、その引っ張る力を魔法で制御しているってことで良いか?」
さすがに、専門用語をどんどん出されて、数字まで出てきては、話に付いていけないと感じたので、自分が解った範囲で何とか説明して欲しいと感じたのだろう。
ユーリカリアは、概要だけで良いというように話を制した。
「それで、良いと思います」
「じゃあ、あの板が浮いているのは、その重力を制御しているからって事で、移動には、風魔法を使って移動しているのか」
「そうなります」
「じゃあ、説明はそこまでにしておいてくれ。 それ以上深い話は学校の先生とかとしてくれ」
そう言って、ユーリカリアは話を止めるのだが、ウィルリーンが、ジューネスティーンに聞いてくる。
「すまない。 あの板が魔法で動く事は分かったんだが、何で思った通りに動かせるんだ? 攻撃魔法などはその人の持つ能力に依存すると思うのだが、……、ん、それが制御なのか」
ウィルリーンは疑問を言い始めるが、疑問を口にしているうちに答えに気がつく。
「ええ、攻撃魔法は、最大限の力で放ちますが、人を乗せるホバーボードは制御されてないと、すっ飛んでいってしまいますから、乗り手の意思を反映されるように出力を制御してます。 だから自由に動かせるんです」
「魔法の出力を制御するのか。 そんな発想は無かったからな」
だが、ウィルリーンは、カインクムとの会話で、水の量を制御したことを聞いていたので、予備知識のおかげで、ホバーボードの魔法にも制御がかかっていることを、直ぐに理解できたようだ。
「大きな力は、時として人に迷惑をかける事もありますから、人に使うときは、必要以上の力は不要ですからね。 例えばかまどに火を点そうとした時に必要な火は小さくて良いですけど、大きすぎたら家ごと燃やしてしまう事になります。 大きな力はそれを制御する必要があるのです」
「そうだな。 風魔法で吹っ飛んでしまったら意味が無いからな。 その為の制御か」
ウィルリーンは感心していると、シュレイノリアが口を挟んできた。
「そう、だからアレには火魔法を使わなかった」
それを聞いて、ジューネスティーンが怪訝そうな顔で、シュレイノリアに聞く。
「それは、どう言う事なんだ」
「出力をもっと上げる方法がある。 だが、その場合の問題が有るから、諦めた」
今のホバーボードでも構わないのだが、今以上の速度を出す方法が有るなら知っておいた方が良いと考えるジューネスティーンは、シュレイノリアに問いかける。
「それで、出力を上げる方法ってどういう方法なんだ?」
「火魔法で爆発を連続的に発生させて、一方向に向かって出力する。 その方が高出力を出せる。 だが」
「だが、何なんだ」
「爆発を後ろに出した時、その後ろに高温の炎が噴き出ることになる。 そうなると、後ろを何時も気にしている必要がある。 地上で使ったら可燃物に引火して火事になってしまう」
「ああ、森とかでそんな物を使ったら木や下に落ちている落ち葉が燃えてしまうのか」
「そう、地上では、外燃機関は使えない。 地上で使うなら内燃機関でないと困る」
「確かにその通りだな。内燃機関か……」
そう言ってジューネスティーンは、少し考える。
それをシュレイノリアは見てから残りのお茶を飲む。
ただ、2人の話の中に出てきた内燃機関と外燃機関と言われて何のことかと引き攣った顔で笑うユーリカリアとウィルリーンが居た。
すると、何も言われないので、そのまま、グルグルと回ったりしながらホバーボードの性能を披露していたアリアリーシャが戻ってきた。
「まだですかぁ。 もう、よろしいでしょうかぁ?」
話に夢中になっていて、アリアリーシャがホバーボードに乗って走らせていた事を忘れていたジューネスティーンが、慌てて、アリアリーシャを見る。
「あっ、すまない。 忘れてた」
少しイラッとしたアリアリーシャが、少し怒ったような顔をする。
ただ、本気では無い顔なので、ちょっと可愛い感じに怒った顔を見せた。
「もう。 ひどいですぅ」
そう言って、頬を膨らませてそっぽを向いた。




