重力
ユーリカリアは、夢中になってしまったので、ジューネスティーンにどんどん近づいてしまった。
話していて、相手の息がかかるどころか、近づきすぎて、目の周りしか見えないだろうあたりまで近づいていたのだ。
「ああ、すまない。 つい、夢中になってしまった」
失礼なやり方でジューネスティーンからユーリカリアを離すが、ユーリカリアはその事に気にもせず。
「あれ、どうやって作ったんだ。 それに、そんな物を作ろうなんて思った切っ掛けはなんだったんだ」
それを聞いて、シュレイノリアの顔が嫌な記憶を思い出して、不機嫌な顔になるが、ユーリカリアは構わず続ける。
「ああいった物を、思い付いた時の事とかの、切っ掛けなんかは、自分達にも、新たな何かを生む時の、切っ掛けにもなるかもしれないから、最初の時から教えてもらえないか?」
シュレイノリアは、自分が切っ掛けでジューネスティーンが、ホバーボードのアイデアを閃いた時の事を思い出す。
持っているロットが、その時の事を思い出して震えている。
「その時の切っ掛けは、言いたく無い」
自分の恥ずかしい格好を思い出し、なおかつ、ジューネスティーンは、自分のそんな格好をほったらかしで、ホバーボードのアイデアになる物を見ていたのだ。
痛い思いと恥ずかしい思いをしたのだが、それを気にも止めてくれなかった事を思い出す。
「なんでさぁ。 その何気ない切っ掛けであんな物を発明してしまったんだろ。 最初の一歩から教えてもらえないか? どんな事でも構わないんだ。 思い付いた時の、きっかけとかが聞ければ、私達にも新しい何かを考えるとか、身につけられるかもしれないじゃないか」
「断る!」
意外にしつっこく聞いたユーリカリアに、シュレイノリアは横を向いてしまう。
シュレイノリアは、それを自分の口からは言いたく無いと、考えているのだ。
ユーリカリアは、それを見て、これ以上シュレイノリアは話してくれないだろうと思い、ジューネスティーンに助けて欲しそうに見る。
ジューネスティーンは、シュレイノリアが、何で不機嫌にしているのか、よく分かっているので、その態度を見て、その時のひっくり返って頭を打ちつけた事より、恥ずかしい思いをしたのに、地面を這うように進む装甲板を眺めていたのだ。
ホバーボードのアイデアを閃いたジューネスティーンは、その装甲板を眺めていて、自分をほったらかしにしてくれた事を、未だに恨んでいるのが分かったみたいだ。
そう思うと、その時の話を、ここで口にすることはできないと思ったのだろう。
ジューネスティーンは、あまり良く無い表情で答える。
「ああ、その時の話は、面白く無いですよ。 ただ、板に風魔法の魔法紋を描いたものが、地面を滑るように走ったので、ホバーボードを考えたんです」
風魔法を使った事を聞いてユーリカリアは感心する。
「風魔法を使ったのか?」
「たまたまだったのだと思いますけど、板に描いた風魔法が発動して、それが地面を滑って行ったんです。 でも、その後、色々試してみたのですけど、風魔法だけだと、僅かに地面との隙間が生まれるだけで、地面を自由に移動できるようにするには、もう一つ工夫が必要だったんですよ」
隣に居るシュレイノリアが、ジューネスティーンを見て、必要以上の事は言うなと、目で訴えている。
それを感じてジューネスティーンは、言葉を選んで話をしている。
「それが、さっき言ってた、“じゅりょく魔法” か。 で、その、“じゅりょく魔法” って何なんだ」
「呪力じゃ無い重力だ。 大地に引っ張られている力を操作している」
シュレイノリアは、重力を呪力と言われて言葉を訂正する。
だが、ユーリカリアは、いまいちピンと来てない表情をしているので、シュレイノリアは、説明をする。
「物質の持つ引力、星の引力を重力という。 物質が引っ張る力を操作している。 それが重力魔法」
シュレイノリアは、簡単に伝えた。
「引っ張る力を操作する? その引っ張る力って何だ?」
「だから、それが引力」
それを聞いていて、シュレイノリアの話では押し問答になりそうなので、ジューネスティーンが説明をする。
「あのー、引力ってのは、全ての物質に備わった引っ張る力なんです。 それは、その物質が持つ力で大きさによって違うんです。 大きければ大きくなり、小さければ小さい。 つまり、地面に物が落ちるのが引力による影響なんです。 この地上も実は丸い球の上なんですよ。 その中心に向かって引力が働いているんです」
そう言って、地面にある石を持ち上げて手を離す。
石は地面に落ちる。
さっき、シェルリーンに話したのに、もう一度話すのかと思うのだが、改めて説明する。
「この石が、地面に落ちたのが、引力による影響なのです」
ユーリカリアは、不思議そうに見る。
それを見て少し考えると、ユーリカリアは質問してくる。
「なあ、その通りだとすると、この地面の反対側に居る連中は、地面に居られないんじゃないのか? 球体なら、球体の上なら立ってられるけど、下にいたら落ちてしまうだろ」
「それはありません。 球体と言ってもこの地面の球体は、とてつもなく大きいですから、球体の中心に向かって重力が働いているので、この地面の反対側にいる人も、この星の重力によって立ってます」
そう言うと、地面に円をかいて、縁の内側に中心に向かう矢印をかく。
その矢印の180度の所にも同じように中心に向かって矢印を書く。
「このように球体は、何処でも中心に向かって引力がありますので、球の上でも下でも同じように引力が働いているのです。 だから、この地面の反対側の人もこの地面に引っ付いて立ってます」
「ふーん。 そんなもんなのか」
「ああ、ちなみにですけど、星の大きさって、どの位かと言うと。 帝都と南の王国の王都までが、馬車で20日間ですから……、3000キロ以上ですけど、単純に馬車で地上を移動したら、一周するのに240日以上かかる距離があるんですよ。 まあ、途中に海が有るので、馬車では進めませんけど」
ユーリカリアは、頭が付いていかない様子で、困ったような顔をしている。
その様子を、ウィルリーンも、引き攣った顔で聞いているが、さらに続ける。
「たとえば、髪の毛の太さを、0.05ミリ位だから、それが人の身長として、取り敢えず2mの人がいたとします。 2000ミリと0.05ミリだから、2000÷0.05が、4000÷0.1になって、縮尺率が4万分の1になるから、この星の外周を約40万キロとすると、髪の毛が人の大きさでも外周は10キロ、直径は円周率を3としても3.33で、3分の1の33%なら、3だから、円周率の3.14なら3キロから3.33キロの間になるのか。 まだイメージが湧いてこないか」
ジューネスティーンの真剣な計算を聞いて、引き攣った顔のユーリカリアが、そんな話はどうでも良いと思って言う。
「な、なあ、つまり、この世界は球体で、とてつもなくデカイって事は分かったよ」
「ああ、それなら良いですけど」
ユーリカリアは、そんな数字を聞いて、うんざりしていた。




