戦略と戦闘シュミレーション
振り回すという行為は、強そうには見えるが、格闘戦においては愚策となる。
腕だけでも、肩・肘・手首と関節が存在する。
長い物を振り回した時に一本の棒では、重心が遠い位置にあるので、振り回すのに相当の力が必要になる。
だが、腕の可動部を有効活用できれば、同じ力でもその数倍の力を出す事が可能なのだ。
腕を真っ直ぐな状態で振り下ろす時と、肘を曲げた状態で振り下ろし、目標の直前で肘を伸ばすようにした時では、威力が大きく異なる。
今の話からジューネスティーンは、ここの魔物は、東の森の魔物より知能が低いと判断したのだ。
殴ってくる可能性は低いと感じたのだろう。
「それだと、自分が狙われるのは、頭を横から棒で殴られる時と、上から振り下ろされる時の事を想定すれば良いわけですね。 魔物が外から腕を横に振り回してきたなら、うーん、この場合は刃で受けるのか」
そう言って両手で持った太刀を左横に持つと斜めに頭の上に斜めに構えて見せる。
その時の持ち方を見ると、刃が上を向いている。
「それで、体を沈めるようにして躱す事になるのか。 その後はさっきと同じで脇腹を払うかな」
「じゃあ、内から外に振り回されたらどうする」
「同じように受け流しますけど、その場合は、もう一方の腕に注意が必要ですね。 その時には魔物の正面に出てしまいますから、もう一方の腕の攻撃射程に入るので、頭や首などを掴まれないようにしながら、場合によっては、受け流している剣で、もう一度受け流すようにします。 そうじゃなければ懐に入ってますから脇腹から背中に抜けるようにして、脇腹を払うでしょうね」
ユーリカリアは、少しにやけたような顔をする。
「聞いていると、動きが止まってないな」
「ええ、それだけの大きさの魔物だと、止まって戦ったら、こちらに勝ち目は無いでしょう。 とにかく捕まらないことが、生死をわけると思います」
ユーリカリアは、動きを止まらないのは、何でなのかの説明を聞いて、ご満悦のようだ。
自分が思っていた事を、ジューネスティーンの頭の中に、ちゃんとイメージとして理解できているのが、面白いのだ。
「そうだな、あの魔物に、思いっきり抱き抱えられたら、背骨が折れてしまうだろうからな。 それにあの腕の一撃を食らったら骨がいってしまう。 圧倒的な防御力が無い限り、捕まらない事が大前提だ。 それと、牙と頭突きも気をつけろよ。 あの頭で突かれたらこっちの頭が砕かれてしまうからな。 正対した時は要注意だ」
ジューネスティーンは、その話に感心したような顔をする。
自分の想定の抜けていた部分を指摘された事で、魔物の攻撃パターンのインプットができたのだろう。
情報を受けた事で、想定しなければならないことが増えたのだ。
ジューネスティーン自身も、戦う前にシュミレーションを行える事に満足しているようだ。
「頭は思いつきませんでした。 やっぱり、話に聞いただけではそこまで思いつきませんね」
それを聞いて、ユーリカリアも満足しているようだ。
ただ、今の戦術は、ソロプレーの時の話になる。
ジューネスティーンは、6人のパーティーで魔物と対峙しているのだ。
ユーリカリアは、パーティーとしてならどうやって戦うのかを聞きたくなったようだ。
ユーリカリアは、ジューネスティーンにもう一つ質問をする。
「まあ、あんたが1人で戦う方法は分かったが、6人で戦う時は、どうする?」
メンバーで組織的に戦うにはどうするのか聞いてくる。
「そうですね。 今回のような場合なら、まずは、魔法と弓矢で遠距離攻撃から始めますね。 近づいて来たところで自分が太刀で応戦している間に後ろからレオンとアリーシャ姉さんが足を止めます。 動きを止めて首を落とす事になりますね」
その答えに、ユーリカリアは、たたみかけるようにさらに条件を言ってくる。
「それだと、1対1の戦いになるけど、もっと複数の魔物との対峙ならどうする。 この辺りは数匹で動き回るのも居るからそういった時はどうする」
ジューネスティーンは、少し考えるが、直ぐに答えは出たのだろう。
直ぐに答え始めた。
「基本は1対1に持ち込むようにします。 遠距離攻撃で数を減らしてからになりますので、魔法でかなりの数を減らしたいですね。 3・4匹で来られたら2匹以下に減らしたいですが、ダメだったら、前衛の2人に囮りになってもらいます。 分散させた所で1匹ずつ仕留めます」
ユーリカリアは、ジューネスティーンが、一度に複数の魔物との戦闘を避けて、徹底した弱者の法則に従って、戦いを想定している事に満足しているようだ。
若い冒険者なら、自分の力を過信してしまい、こういった話の中では、2匹以上の魔物と戦うと言い出すのだが、ジューネスティーンには、それが無い。
どんな魔物であっても、命のやり取りを行なっている事を理解しているから、生存率を上げる方法を常に考えている。
そんな印象をユーリカリアは感じているのだろう。
「そうなると、囮りのスピードと、持久力が問題になるだろ。 あの魔物の足はかなり早いぞ、人が全力で逃げても直ぐに追いつかれるから、お宅の亜人でも無理なんじゃなかな」
そう言われて、ジューネスティーンは少し考えるが、シュレイノリアを見る。
「すまないが、2人のホバーボードを出してくれるか」
「分かった」
そう言うと、地面に光の魔法紋が浮かぶとその魔法紋から2人のホバーボードが出る。




