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銃と弓

 

 ジューネスティーンにシェルリーンが声をかけてきた。


「あのー、その “ジュウ” と言う物なのですが、射程距離はどの位なのでしょうか?」


 シェルリーンは、弓の名手で、動く標的も巧みに討ち取る程なのだ。


 自分の弓も飛び道具なので、銃の性能については、興味があるのだろう。


 ジューネスティーンは、顔を少し赤くしている。


 カミュルイアンの相手が、自分の話に興味を示してきた事に少し驚いたようだ。


「ええっと、あの時、聞いた話で、腰につけていた、この位の大きさの銃で、射程距離は、20〜50メートルって言ってたと思います」


 そう言って、両手で、30センチ程の長さを示すと話を続ける。


「あと、背中に背負っていたライフル銃は、この長剣位の長さがあったのですけど、そっちだと射程距離は、200メートル程度はあるっていってました。 それと、それ以上の距離はその時は試して無いって言ってました」


 シェルリーンは、少し安心したようにすると、ジューネスティーンに答える。


「そうなんですか、弓でも飛ばせそうな距離ですね」


「ええ、でも、撃ち出す時の初速が違いますから、殺傷力というところではかなり違いがあるかもしれませんよ。 弓矢が放たれた時の初速は50メートル/秒位だと思うのですが、銃なら300メートル/秒位で、ライフル銃ならそれ以上になるはずです。 これだと、重力に引かれて落下する距離は一緒ですから、遠くの的を狙うのに銃ならそれ程上を狙わないで済むんです」


 シェルリーンは遠くの的を狙う時の事を思い出しているのだろう。


 考えるような顔をする。


「確かに、弓矢で遠くを狙った時って弧を描くように飛ばせるので、的には上から刺さるようになりますね。 それと、落ちるのは分かるのですけど、初速の違いでそんなに落ちるのでしょうか?」


 それを聞いて、ちょっと説明を端折り過ぎたかと思ったのかジューネスティーンは少し考えると、地面を見回し、ピンポン玉程の石を手に取ると説明を始める。


「一般的な的って、大体は地面に対して水平じゃないですか。 水平に撃った時にかかる力というのは、地面の重力の影響を受けるのです」


 そう言って、手に持っていた石を落とす。


「これが、重力に引っ張られた結果起こっている現象なんです。 それが、水平に発射した時にも起こっているのですよ」


 今度は、地面に落ちていた棒を拾って、横に線を一本引くと、その線状に人を丸と線で書く。


 人から地面の線と並行に線を引くと、人を書いた反対側のその先に矢印を書く。


「飛び道具の軌道なのですが、真横に引かれた線が狙った方向です。 重力の影響が無ければこのようにまっすぐ進みます」


 そう言うと、今度は、矢印の線から徐々に下に向かう放物線を書いて、また、その先に矢印を描く。


「でも、実際には、重力の影響で、このように遠くに、行けば行くほど落ちてしまいます。 それが、重力による影響なのですよ。 この落ち方は、理論的には、時間と共に、今落とした石と同じだけ落ちるのです」


「そうなのですか。 でも、弓矢が落ちる量ってそんなでも無いように思えるのですけど」


 すると、地面に書いた絵の脇に落下距離の公式を書く。


「それは、時間の差によるものです。 初速50メートル/秒の弓だと、50メートル先の的には空気抵抗を除外して考えると、1秒後に到達します。 1秒後に落ちる距離は、1/2(加速度×時間×時間)になります。 重力加速度が9.8メートル/秒なら、1秒後には、4.9メートル落ちる事になります。 これが、300メートル/秒の弾丸だと、50メートル先の的には、0.167秒後となりますので、0.167秒の二乗だから……」


 そう言って地面に計算を始めると、すぐに答えを出す。


「ああ、0.027889だから、とりあえず0.03としましょう。 メートルをセンチにすれば3センチか。 それがさっきの4.9メートルにかけるので、4.9×3で14.7だから、14.7センチになる。 2.7だと1割減だから、1.47を引いて13.23だから有効数字を3桁として13.2で、残りの誤差が1%以下になるから今は無視して13.2センチですね。 このくらいですか」


 そう言って人差し指と親指で大凡の寸法を見せる。


「ここまで細かく計算する必要は無かったですね」


 指で大凡の寸法を見せたので、最初の14.7でもニュアンスは通じたと考えたのだ。


 それを聞いて、目を丸くするシェルリーンが、驚いたように答える。


「銃だとそんな程度しか落ちてこないのですか。 眉間を狙って撃っても鼻か口辺りに当たるって事ですね」


「そういう事になります。 それがライフル銃ならもっと初速が速いでしょうから、もっと落ちないでしょうね」


 その話を聞いて自分が矢を射った時の事を思い出して、矢の放物線を頭の中に描いた。


 だが、銃だと殆ど落ちてこない。


 その違いを説明されると、銃の性能の高さに驚く。


「そのジェスティエンという人は、とんでもない物を作ってしまったのですね」


「弓矢や剣で戦う中に銃が入り出してきたらそうなるでしょうね。 でも撃ち出す時の爆発音はかなり大きいですから、かなり遠くからも聞こえますよ」


「それだと音で気が付かれてしまいますね」


「ええ、最初の一匹を仕留めても、次の魔物に攻撃されたら意味がありませんから、こんな感じで視界が広いところなら距離を保ちながら仕留める事もできるでしょうけど、視界が悪い森の中とかだと、木々に隠れて距離を詰められたら気が付いたら目の前ってこともありそうですね」


 そう言うとジューネスティーンは、少し難しい顔をする。


(なんで、東の森の調査にジェスティエンさんじゃなく、自分だったのかは、そういった奇襲を受けた時の事を考えてなのか。 あの人たち、防具なんて、大したものは付けてなかったから、奇襲を受けたら、ひとたまりも無いもんな)


 自分で説明していたことで、疑問が何でなのか分かったように思えたのだ。




 確かに銃の威力はすごいが、ジェスティエンのパーティーは、誰もが防具と呼ばれる物を付けて無かった。


 付けていたのは、それ程大きくは無い胸の皮鎧の類だった。


 重い鎧を着けていては、機動性に問題が有るとの事で、最小限だったのだろう。


 攻撃を受ける前に見つけたら、銃弾をぶち込むので最小限の防具でも、視界の良い場所なら、向かってっくるところを、銃撃していく事で対処は可能となる。


 しかし、視界が悪い森の中での銃声によって魔物を呼び寄せてしまったら、視界が悪い森の中では接近を許してしまう事もある。


 そうなると、ジュネスティーン達の防御力の高い方がリスクは低い事になるから、それでの選択だったのだろうとジューネスティーンは理解したのだ。




 彼らのメンバーは、全員が銃を使って戦っていたみたいだったので、剣を持つというよりナイフを持つ程度だった。


 銃の便利さによって剣や槍・弓といった武器を使用する必要がなくなったのだろう。


 その為接近戦が不得手と判断されて東の森の探索には不向きとギルドは考えたと理解できる。


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