衝撃
カインクムが、魔法紋を付与した台車をウィルリーンは動かしてみた。
その動かした台車は、空の台車を動かす程度の力で動いてしまった。
その台車には、女子とはいえ、2人の大人が乗っているのに、軽い力だけで簡単に動いてしまった。
その台車をウィルリーンは、青い顔で凝視している。
「どういう事、本当に魔法紋が描けたの」
未だに半信半疑でいるウィルリーンにカインクムが声を掛ける。
「お前さん、魔法紋が描かれる前と後を確認しただろ。 それが、この前教えてもらった方法なんだ。 あんたなら、チーターの嬢ちゃんの剣も、これから作るであろう剣にも、魔法紋を刻む事が出来るんじゃないのか」
ウィルリーンは、半分、泣きそうになりながら、カインクムに向かって答える。
「あの、私、今、初めて、見たんですよ。 それなのに、直ぐに、そんな魔法が使えるようになるなんて、そんな事、出来るわけないです」
カインクムは、困ったように右手を頭の後ろに当てる。
「あのなぁ、嬢ちゃん。 俺が、この魔法を覚えたのは、初めて見てから、1時間も掛からなかったんだ。 それに、それまで、魔法は使えないと思っていたんだが、少し教えてもらっただけで出来たんだ。 だから、嬢ちゃんなら、俺が教わった方法を聞けば、直ぐに出来るようになるんじゃないのか」
カインクムが言うと、ユーリカリアが、ウィルリーンを励ましてきた。
「何しょげているんだ。 お前は、今、新しい魔法を目撃したんだ。 いつものように、貪欲に魔法を吸収したらいいんじゃないか。 目の前に教えてくれる人が居るのに、それをお前が拒絶してしまったら、この魔法はお前の物にはならない。 お前は新たな魔法が欲しくないのか」
ゆっくりと、ユーリカリアに顔を向けるウィルリーンは、メンバーの中で、一番付き合いが長く、信頼するユーリカリアの言葉に、少し勇気づけられていた。
「カインクムさんが、出来た魔法が、お前に出来ないわけがないだろう。 ひょっとしたら、お前の魔法は、今、新たな高みに昇るための、切っ掛けを与えてくれたのかもしれないのだぞ」
「でも、今、見た魔法は、どう言った概念で起こっているのか、まるで見当がつかなかった。 一般的な詠唱だった。 私の知っている魔法の中に、あんな物は無かったのよ。 どういった原理で魔法が発動したのか、全く見当がつかなかったのよ」
すっかり、自信をなくしてしまった、ウィルリーンをみて、カインクムは困ってしまう。
「うーん、参ったなぁ。 嬢ちゃんなら、この魔法紋を描く方法を見れば、直ぐに応用して、色々な魔法紋を作ってくれると思ったんだが、……」
ここまで、大事な商談だと思って、何も話さなかったフィルランカが、この状況は不味いと思ったのだろう。
ウィルリーンを、励ますように話しかける。
「お嬢さん。 貴女は、今、自分の魔法が、飛躍的に伸びるチャンスを迎えているんです。 私も少し魔法が使えたのですが、主人が、教わっていた時に、横で、一緒に聞いていたのです。 その話を聞いただけで、魔法の制御が、簡単に出来るようになったのです。 考え方さえ理解してしまえば、貴女なら、もっと素晴らしい魔法が、使えるようになります」
そうウィルリーンに話すと、暗闇で彷徨っていた自分に、僅かながらではあるが、自分に光が差し込んできた様思えたのだろう。
ウィルリーンの表情が、僅かに戻ってきたように思える。
そのウィルリーンが、フィルランカに、縋るように語りかける。
「私にも、今の魔法が理解出来るだろうか」
その問いにフィルランカは笑顔で答えてくれる。
「ええ、勿論です。 貴女程の魔導師なら、簡単に理解出来るはずです」
「本当に?」
ウィルリーンは、再度問いかける。
「貴女さえ覚えようとすれば、必ずです」
ウィルリーンの顔つきが変わる。
そして、考え込む。
今までのカインクムの魔法紋がどうやって出来たのか、自分なりに考えだす。
すると、ウィルリーンは、自信の無い、しょげた表情から、徐々に変化して、だんだん目が輝き出し、眉間に皺を寄せると、カインクムに向かって、いつもの調子に戻って話しかける。
「ご主人、すまなかった。 初めて見た魔法にビビってしまった。 それに奥方、貴女のおかげで立ち直る事が出来た。 ありがとうございます」
そう、2人に礼を言うと、貪欲に話を聞き始める。
「すまないが、その魔法を、教えてもらった時の事を、初めから教えてもらえないだろうか」
気持ちが戻ってきたウィルリーンを見て、安心したカインクムは、全てを話すつもりなのだろう。
笑顔で、その問いかけに答える。
「勿論だとも、嬢ちゃんなら、きっと今の魔法紋の作り方をマスターしてくれるはずだ。 それにメンバーの皆んなも、嬢ちゃんの魔法に期待しているはずだ」
そう言われて、慌ててメンバーに詫びる。
「皆んなも、すまなかった」
「大丈夫だ、切っ掛けさえ見つければ直ぐに元に戻るとおもってたから」
ユーリカリアは長年の付き合いから、立ち直ると信じていたのか笑顔で答えた。
「じゃあ、始めようか」
カインクムは、そういうとジューネスティーンに教わった事を話し始める。




