カインクムの付与する魔法紋
カインクムは、店用に置いてあった台車を持ってきた。
「申し訳ないが、嬢ちゃん達2人この台車の上に乗ってくれないか」
そう言うと、フェイルカミラとシェルリーンが台車の上に乗る。
「すまんが掴まっていてくれ、少しだけ動かす」
そう言って少し動かすが、2人の体重で簡単には動かない事を確認して、ウィルリーンに台車を押すようにと呼ぶ。
「あんたも、この重さを実感しておいてくれ」
言われるままに台車を動かすが、簡単には動かない。
「動き具合は分かったみたいだから、魔法紋を描く」
そう言って、台車に乗った2人に降りてもらう。
「俺が出来るのは、これと水魔法だけなんだ。 だから、魔法の嬢ちゃん、悪いが、よく見えるところで見ていてくれ」
「ああ、魔法で魔法紋が出来るところを、しっかりと見せてもらおう」
ウィルリーンの言葉には、手品のタネを見つけてやるから、そこでやってみせろと、いった感じがある。
すると、カインクムの横に居るウィルリーンに、ひっくり返して台車の裏を見せる。
「この中央に魔法紋を描くからよく見ていてくれ」
そう言うと、手をかざして詠唱を始める。
「我は、命ずる。 森羅万象に基づき、ここに願いを伝える。 反重力の魔法によって、ここに掛かる重量を物質の持つ反発力をもって相殺せよ。 ドロウイング」
そう言うと、台車の表面に直径10センチ程の魔法紋がゆっくりと浮き上がってくる。
魔法紋を完成させると、カインクムは、かざした手を元に戻す。
「こんな感じで描くんだ」
そう言って、横にいるウィルリーンを見ると、この世の物とは思えない物を見たといった感じで、顔から血の気がひいて、青白くなって目を大きく見開いて瞬きも忘れている。
それを見て、カインクムが心配になる。
「魔法の嬢ちゃん、大丈夫か」
その言葉に、我に返ったウィルリーンは、カインクムをみる。
「あり得ない、魔法紋がこんな方法で描けるなんて、あり得ない。 いや、これは、ただの模様であって、魔法紋の性能があるなんてことは、そんな事は、そんな事は、有ってはならない」
そう言っているウィルリーンを余所に、カインクムは台車を元に戻して、さっきのように、2人を台車に乗せる。
「物は試しだ。 さっきの嬢ちゃん達、また、この台車の上に乗ってもらえないか」
そう言って、フェイルカミラとシェルリーンが台車に乗ると、カインクムが動き具合を確認する。
しかし、誰が見ても、空の台車を動かしているように見えているのだが、そんな様子を見ても、ウィルリーンは、ただ、呆然と見ているだけなので、カインクムは、確認させるために、ウィルリーンに台車を渡す。
「じゃあ、魔法の嬢ちゃん、ちょっと押してみてくれ」
カインクムの言葉に、恐る恐るウィルリーンは、取手に手を近づける。
信じられないと思っているので、手が震えているのが分かる。
その震える手で、台車の取手を握ると、押そうかどうしようか悩んでいる。
(もし、先程とは全く違う感じになってしまったら、私の魔法が、否定されるのではないの? 私の知る以外の魔法が存在する。 全ての魔法を教えてもらったはずなのに、知らない魔法が存在する。 この魔法紋が発動したら、自分自身を否定しなければならないのかも)
ウィルリーンには、恐怖心も湧き上がっているようだ。
「嬢ちゃん。 俺は、あんたの魔法に関する事を否定しているわけでは無い。 この魔法紋の魔法を嬢ちゃんに覚えて欲しいんだ。 そうすれば、あんたのメンバーの武器は各段に性能が上がる。 それは、あんたらの生存率のアップに繋がるんじゃないのか」
そうカインクムに言われて、改めて考え直すと、今この瞬間は、新たな魔法との出会い、自分の魔法が更に深まるという事なのだと気がついたようだ。
ウィルリーンは、少し気が楽になったらしく、顔色が先程より良くなった事がわかった。
「それじゃあ、押してみてくれ。 人が乗っているからゆっくりとな。 呉々も、さっきのような力は掛けないようにな」
言われるまま、ウィルリーンは台車を押すと、先程は、力一杯に押してやっと動いたのだが、今回は空の台車を押す程度の力で動く。
ウィルリーンは、力を入れた瞬間、ゾクっとして、その台車を押す感覚を味わう。
足が前に出ない。
伸びきた腕を、今度は自分のほうに戻してみる。
それも同じで、空の台車を動かす程度の力で動いたのだ。




