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試作品の剣


 テーブルに座ると、カインクムは、自分の横に持ってきた剣をテーブルに立てかけるように置く。


 ユーリカリアは、カインクムが座るのを待ち、ヴィラレットを見ると話にくそうにしているのでユーリカリアが口を開く。


「先日は、この娘に色々教えていただきありがとうございました。 ですが」


 ユーリカリアが状況を話始めたところ、カインクムが口を挟んだ。


「あぁ、剣、折ってしまったんだな」


 それを聞いたヴィラレットが、慌てて口を開く。


「すみません。 剣の使い方まで教えてもらったのですが、とっさに剣で突いてしまって、抜く事が出来ずに折ってしまったんです」


 ヴィラレットは、捲し立てるように状況を説明した。


「そうか、その剣はどうした」


 カインクムがそう言うと、ヴィラレットは俯きながら腰の剣を鞘ごと外して、テーブルの上に置いた。


 カインクムはその剣を手に取って、抜いて見ると、ほぼ根元から折れていた。


「やっぱり、折れちまったか」


 ハッとするヴィラレットが、カインクムを見る。




 カインクムは、想像通りだったのだから、剣を折った事について、驚いた様子は無く、仕方がなさそうな顔をしている。


 さっきの話を聞いていると、剣を突くように使っていたのだろうが、抜く事ができなかったから折れてしまったと言っていた事から、先日自分が教えた方法を実践していたのだろうと想像しているのだろう。


「人の太刀筋って、直ぐには治らない物だからな。 このレイビアのような直剣は嬢ちゃんには合わなかったってだけだ。 それより怪我はなかったか」


 そう尋ねられると、ヴィラレットは借りていた短剣を机の上に出した。


「折れた時に、ご主人の顔が浮かんで、とっさにこの短剣のことを思い出したんです。 それで、この短剣のお陰で無事に切り抜けられました。 ありがとうございました」


「そうか、それは良かった」


 それだけの話で来たわけでは無いと考えているのだろう。


 カインクムは、話を続ける。


「それでなぁ、新しい剣はどうする事にした? もし、まだだったら、この剣を使ってもらえないかと思って持ってきたんだ」


 そう言って、持ってきてテーブルに立て掛けておいた大刀をテーブルの上に置く。


 準備が良いのは、先ほどフィルランカが呼びにきた時に、ユーリカリアとそのパーティーの人達が来たと言ってたので、ヴィラレットがレイビアを折ってしまったのではないかと考えて、出来上がった剣を持ってきたのだ。


「この前、話したかと思うが、新しい剣の試作品が完成したんだ。 ちょっと見ていかないか」


 おどおどしているヴィラレットをみて、ユーリカリアが口を挟む。


「ご主人、その新しい剣、見せてもらって良いか」


 カインクムは、右手でどうぞというジェスチャーをすると、ユーリカリアは手にとって鞘から刀を抜く。


 ユーリカリアの顔つきが鋭いものに変わる。


 今までに見たこともない剣に真剣に見入っている。


「ご主人、曲剣でこの刃幅だと、ちょっと狭くないか。 すまないが、少し不安になってしまうような気がするんだ」


 カインクムは、やはり同じ事を考えると思い、ニヤリと笑う。


 その剣の良し悪しは、そう易々と分かるものではない。


 極めた者にしか、見分けの付かない微妙な感覚を味わえるのは、自分だけだと思ったのだろう。


 カインクムは、わずかだが、その優越感を味わっているようだ。


「あぁ、そう思うが、その剣は新しい製法で作った剣なんだ。 斬る時の切れ味と衝撃を吸収するという、相反する内容を一つにまとめる事が出来ているはずなんだ。 衝撃の吸収を考えると、刃幅は広くなるんだが、その分、重量が増して剣速も遅くなる。 これなら、通常の曲剣と同等かそれ以上の性能が出ると思う。 それで、誰かに試してもらおうと思って居たんだが、それで、その嬢ちゃんにどうかと思って持ってきた」


 真剣に刃の裏表を確認していたユーリカリアが鞘に剣を納めてヴィラレットに渡す。


「お前も、確認してみろ」


 そう言われて、ヴィラレットはユーリカリアから剣を受け取る。


 持ってみた感じは、今まで使っていたレイビアと刃幅も長さも若干広めのような感じはするが、ほぼ同じである。


 ただ、手元の柄が木材という事で、今までと握り心地が違うことと、柄が長くなった分両手でも持てるようになった点が異なると感じている。


 それと、剣は綺麗な弧を描いて伸びており、ヤイバには刃紋が薄らと見えている。


「綺麗」


 ヴィラレットはその太刀をうっとりと眺めていて思わす声に出てしまった。


「素敵です。 刃を見ていると何だか吸い込まれるみたいで、どれだけ眺めていても飽きがきません。 角度を変えて見ると、刃の表情が変わって見えます。 世の中にはこんな剣があったんですね」


 うっとりと剣を眺めているヴィラレットに、カインクムは満足そうに応える。


「そう言ってもらえると、作った甲斐があったってもんだ。 それにそのレイビアで斬っていた嬢ちゃんなら、感覚的に刃幅も刃長も同じぐらいのこの剣なら丁度いいんじゃないかと思ったんだ」


 カインクムが話している間もヴィラレットは太刀を色々な角度から見つめている。


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