素材の準備
カインクムは、ジューネスティーンの言っていた剣の作り方を検討していた。
次のパワードスーツの組み立てまでは時間が有る。
荷物が到着してない現段階で、パワードスーツに関する仕事は何も無い。
カインクムは、次の荷物が届くまでの空いた時間に、ジューネスティーンが持っていた剣の試作を行う事にする。
2種類の素材、鋼鉄と軟鉄の組み合わせによる、強度を上げる方法について検討していた。
鋼鉄で作った剣は、弾力性に欠ける為、折れやすくなってしまうので、剣の幅を広くしたり、剣に厚みを持たせる事で折れにくくするが、そうする事によって、重さが重くなってしまい、剣速が落ちてしまったり、取り回し難くなってしまう。
冒険者はそれを補うために、筋力をつける必要がある。
しかし、軟鉄を使った場合は、ジューネスティーンの剣の様に細く薄い剣だと、硬い物を斬ろうとすると剣が曲がってしまうので、その場合もある程度、剣の幅を広げる事で対応するが、実用的ではない。
いずれにしても、重い剣になってしまうため、冒険者は筋力をつける必要が出てくる。
その辺の折り合いを付ける為に、鉄の硬度をどの程度にするか、厚みや幅をどの程度にするかが、鍛治職人の長年の経験によって、培われた長年の勘によって選定している。
しかし、ジューネスティーンの言う、軟鉄の表面に鋼鉄を重ね合わせるならば、表面の鋼鉄は一番硬度の高いものを選定している事で、内側の軟鉄が硬い物を斬りにいっても、しなりを持たせる事ができる。
その為、剣表面の硬い鉄が切り込みを入れ、接触した時の反発力を、中心部の軟鉄がしなる事で衝撃を吸収し、硬いものも斬ることが出来る事になる。
そうなると、通常の半分の刃幅や刃厚でも、硬度と柔軟性を合わせ持つ剣となるのであれば、同等かそれ以上の性能を有することになる。
その結果、剣幅も剣の厚みも抑えられるため、軽く作れる。
(ヴィラレットと言ったな。 あのお嬢ちゃんになら、ジュネスの剣を一番使い熟してくれるだろう)
軽く作れる事で剣速も早くなるし、筋力の無い女性冒険者でも、十分に扱うことが可能になるとカインクムは考えていた。
通常の曲剣は、斬るというより、振り下ろす時に、剣の重さでぶっ叩く物であったが、ジューネスティーンの話の剣なら、斬ることを目的とした剣に仕上げられるとカインクムは考えたのだろう。
また、カインクムには、この剣を早めに仕上げる必要がある。
その理由は、先日出会った新人冒険者のヴィラレットの太刀筋が気になったからだ。
レイビアで斬っていた、その新人冒険者なら、近いうちにレイビアを折ってしまう可能性がある。
ならば、ヴィラレットが、レイビアを折ってしまう前に、仕上げなければと考えているのだ。
特に、この剣なら重量もレイビアと違いが無いので振り回す太刀筋なら、きっと気に入ってもらえるだろうとカインクムは考えたのだ。
カインクムは、ジューネスティーンの言っていたことを思い出している。
「熱くして、叩いて伸ばしたら、折り曲げて重ねてまた叩く、それを、それぞれの素材で何回か行ってから、柔らかい鉄にコの字型の硬い鉄を合わせて、叩いて剣の形にします。 その後、薄く土を塗って、焼いてから一気に水の中に入れるのです。 刃を付ける部分は薄く、反対側は厚めに土を塗ります。 これによって、土を薄く塗った部分は、焼き入れが入り、硬い部分は更に硬くなります。 自分は、刺す剣より、斬る剣の方が好きなので、その時、土の厚みを変えた事で、曲がりを作ってます。 それで刃は硬く、芯は軟らかい剣になってます」
ジューネスティーンの言葉を思い出すカインクムは、難しい顔をしている。
地金は叩く際に、黒い灰の中に鉄を入れて表面に灰を付けると硬度が増す事が分かっているのだ。
鉄に炭素を微量混ぜることによって、鉄の硬度を上げる方法は、経験則として師匠から、その師匠も師匠からと、長年に渡って引き継がれている伝統的な手法である。
その事から、カインクムは、小麦のわらを燃やして、真っ黒な灰にしたものを用意していた。
カインクムは、材料を用意して、いつものように工房に入って、新たな剣の試作に入った。
硬度だけを追求するなら、鉄に黒くなった灰を付けて叩く、灰に含まれる炭素が鉄の硬度を上げてくれるので、地金を熱して叩く際に何度か灰の中に鋼を入れる。
叩いていると、徐徐に鉄は薄く広がっていく、叩く前の2倍ほどの大きさになったところで、折り曲げると言っていたので、中央に切り込みを入れ折り曲げる。
その際に、灰を周りに纏わせる。
そして叩く。
それを何度か繰り返していると、散っていく火花の量や赤く熱せられた地金の状態を確認する。
叩いた時に出る火花は、鉄に含まれた不純物を叩いて火花として排出させるのだ。
その火花の状態を確認してある程度不純物も外に出たと判断すると、もう一つの軟鉄も同じ様に叩くが、今度は、麦わらの黒い灰は使わずに叩いては広がった鉄を折り曲げて元の大きさに戻してから、また、叩くを繰り返した。




