ルイネレーヌのお誘い
金糸雀亭に戻る頃には、街に街灯が灯っていた。
空は、西の空が、僅かに赤みがある程度で、上空には、輝きの強い星が、見えている。
金糸雀亭の受付には、女主人のルイセルが待っており、カウンターの中から声を掛けてきた。
「今日は、遅かったわね。 てっきり、何処かで夜営になったのかと思いました」
ジューネスティーンは、苦笑いをする。
「ええ、ちょっとアクシデントントがあったので遅くなってしまいました」
「あら、大丈夫でしたか。 お怪我とかはありませんでしたか?」
ルイセルは、社交辞令的に心配をしてくる。
「怪我とかでは無くて、水を被ってしまって、乾かすのに手間取ってしまいました」
「そうでしたか。 それは大変でしたね。 そろそろ、水浴びには厳しい時期になりますので、注意して下さいね」
ジューネスティーンの話を聞いて安心するルイセルが、話を変えてきた。
「それと、ルイネレーヌさんから、あなた方に夕食のご案内がありました。 戻りましたら1階の食堂でとの事でした。 お席を用意してありますので、いらしてください」
ジューネスティーンは、何かあったのかと、気にする様な顔をするが、直ぐに答える。
「分かりました。 伺う様にします」
ジューネスティーンはルイセルに、そう答えた。
答え終わると、背後から刺す様な視線を感じて、振り返る。
そこには、3人の女子がジューネスティーンを睨みつけている顔があった。
ジューネスティーンは、ヤッパリと思ったのだろう、苦笑いをする様な顔をする。
「あの女、何の用なの。 こっちに用は無い」
最初に言い出したのは、アンジュリーンだった。
「あの女、好きになれない」
「私もぉ、ちょっとぉ、苦手ですぅ」
そう言われると、ジューネスティーンは、どうしようかと少し考える様な態度を取る。
「じゃあ、俺一人で行く事にするか」
そう言うと、女子3人の顔色が変わる。
直ぐに目が吊り上がると、3人同時に否定してくる。
「「「それは、絶対にダメ」」」
「あの女、薬で眠らせて、部屋に連れ込む。 一人では行かせない」
「それは無防備というものですぅ」
その反応も分かっていての、自分1人だけという発言だったようだ。
そう言えば、絶対に一緒に来ると思ってジューネスティーンは、言ったようだ。
少し、意地悪そうに、にやけると、直ぐに次の答えを伝える。
「じゃあ、全員で行く事にしようか」
「「「……」」」
黙り込む3人だが、諦めてうなずく。
軽く浴室で汗を流すと、身につけているものを戦闘用から、いつもの日常用に着替えて1階の食堂に6人全員で向かう。
ルイネレーヌを見つけると、もう席に一人で座っていて、ジューネスティーンに手を振っているのだが、いつもと態度が違う様な感じである。
綺麗に整えられた髪と、身に付けているパーティードレスは、一般的な感じのワンピースタイプで上は肩紐なのだが、首から腕にかけて、一般的に露出している部分は、レース生地になっており、所々に花の刺繍が施されていて、胸元から首と、腕にかけても同じレースになっている。
気品に満ちたデザインになっているが、ルイネレーヌのHカップの谷間がレース越しにも分かる。
膝までのドレスは体の線を綺麗に描いていることから、ルイネレーヌの体型に合わせて作られているオートクチュールと分かる。
ズボンだとすぐに分かる、彼女の様な趣味を持つ人に特有の、太腿の内側は、ドレスに隠れている。
何時もの冒険者の姿では無く、清楚で気品の有る出立で有る。
「今日は、招いていただき、ありがとうございます。 それと、申し訳ございません。 いつもの普段着で来てしまいました。 一旦、出直します」
ルイネレーヌの服装を見て、釣り合いが取れそうに無いのでジューネスティーンがそう言うと、ルイネレーヌは立ち上がって、6人を招き入れる。
「いえ、そのままで構いませんわ。 さぁ、座って」
いつもと違う対応に女子3人が何事かと戸惑っている。
席は、4人掛けの長方形のテーブルが2つ有り、1つにルイネレーヌが座っていた。
ルイネレーヌの席に向かい合う位置にジューネスティーンとシュレイノリアが並んで座ると、隣の席に、残りの4人が、ジューネスティーン達の側の席にアリアリーシャとレィオーンパードが向かい合わせで座り、残念そうにカミュルイアンとレィオーンパードが残りの席、ジューネスティーンやルイネレーヌの隣の席に座る。
「今日は、お食事に付き合って頂けて大変嬉しく思います」
いつもの話し方と違うルイネレーヌ。
その口調にシュレイノリアが、思わず口に出る。
「今日は、変!」
その一言が火をつけないかと思ったのだろう。
慌てるジューネスティーンが、シュレイノリアを、制するように言う。
「おい、失礼だぞ!」
いつもの調子と違うルイネレーヌにシュレイノリアが突っ込んだ。
それを止めるジューネスティーンを見て、ルイネレーヌは、上品に笑顔を向けて、右手の甲で口元を隠す様にして答える。
「まぁっ。 こう言う日もございますのよ」
そう言って、口元に手をやって、上品に軽く微笑むと、いつもと違う口調に引き気味の女子3人。
「今日は、少しお話を伺いたいと思いまして、それで、お食事にお誘いしたのですよ。 食べながら、ゆっくりお話ししましょう」
「本当に今日は、どうかしている」
アンジュリーンが小声でぼやくが、ジューネスティーンは、ルイネレーヌには、聞こえるか聞こえない程度だったので、アンジュリーンのぼやきにはスルーした。




