シュレイノリアの実験魔法
シュレイノリアは、4人が、大掛かりな防御壁を作っているのを見て、ムッとした様子で、ジューネスティーンに聞く。
「おい、ジュネス。 アンジュ達は、何をしているんだ?」
「ああ、お前の魔法の実験の為の準備だな」
「そうか。 だが、何なんだ。 あの塀は? まるで堤防の様だが?」
「そうだね。 シュレの魔法が強力だった場合を考えてだろうね」
「少し、やりすぎではないのか?」
「かもしれない。 だけど、必要かもしれない」
「おい、どっちなんだ」
「うーん。 どっちだろうね」
ジューネスティーン自身も、4人の対応の意味は分かる気がするのだろう。
シュレイノリアの質問に、どっち付かずな答えをするのだった。
4人のシュレイノリアの実験魔法についての対策は、手の込んだものになっている。
アンジュリーンは、完成すると、一周するように出来上がった楔形の堤防を確認すると、レィオーンパードに、もう一度パワードスーツに乗り込むように言う。
レィオーンパードも素直にパワードスーツに乗り込む。
そして、馬車の両脇にアリアリーシャとレィオーンパードを配置して、ホバーボードを前に置いて、両手で持たせている。
カミュルイアンとアンジュリーンは、馬車の後ろに移動してしまった。
最悪、堤防が破壊されても何とかなるように、パワードスーツを馬車の両脇に配置したのだろう。
馬車と地竜と自分達は、確実に守ろうとしていると、手に取るようにわかる。
(手の込んだ事をするもんだ)
何だか大掛かりな事になってしまったとジューネスティーンは思っているのだろう。
4人の動きに少し驚いている様に見える。
(大掛かりな仕掛けだけど、仕掛けよりも、その行動力だよなぁ。 アンジュのリーダーシップにも少し驚いた。 意外に上手に立ち回るな。 3人の使い方も良かった。 今度、新しい戦術を考えてみる必要がありそうだ)
シュレイノリアと4人の状況を見比べてから、4人の作業が終わるのを待つ事にするが、4人が必死に行ったせいか塀を作る作業は直ぐに終わり、高さはアンジュリーンの言っていた高さより低い1.3メートル程の高さの塀が、ジューネスティーン達に向かって、楔形に作られると、4人は地竜の側まで行く。
パワードスーツを再び着たレィオーンパードとアリアリーシャは馬車の両脇にホバーボードを両手で手前に持って立って、ボードの外側からこちらを覗いている。
何かあったら、ボードに隠れるつもりなのだろう。
そして、アンジュリーンとカミュルイアンは、馬車とパワードスーツの間からこっちをみている。
ジューネスティーンは、メンバー達が出来る限りの防御体制を取っているのを確認すると、少しやり過ぎでは無いかと思ったのだろう。
少しやりきれない様な表情を浮かべつつ、シュレイノリアに、合図をする。
「じゃあ、湖の中心にその新しい魔法を放ってみて」
そう言われると、シュレイノリアは湖の中央に意識を集中しロットをかざす。
シュレイノリアがロットをかざすと、僅かに風が流れる。
それは、湖の中央に空気が集まる様に風が流れる様に、湖面を見ている人の後ろから揺らぐような風が流れていく。
湖の中央に透明の球体の様な揺らめきが浮き上がるのだが、その輪郭がはっきりしないことから、その球体は液体や固体ではなく、気体なのだろう事はわかる。
それはほんの僅かに屈折率が違うように見えることから、その部分の空気の密度が僅かに違っているのだろうと考えられる。
1メートル程に大きくなると、その球体の透明度が周りの透明度が高くなっている様に思える。
水球とは違う。
目を凝らして見ていると、空気が球体の様になって表面が揺らぐ様な感じになる。
僅かではあるが、その集まっている空気の表面の光の屈折率が僅かに違う様に見えるので、何となく、球状に空気が集まってきている様に思える。
その球体の様な空気の球体は、徐々に大きさを増していく。
後ろに控えているレィオーンパードが、アリアリーシャに聞く。
「アリーシャ姉さん、あの湖の上なんだけど、見えてる。 何か、球体みたいなものが浮いているんだけど……」
言われて、アリアリーシャも湖面を見るがよく分かってない様である。
「私には、よく分かりません」
その答えに、レィオーンパードは、少し考えると、また、説明を始める。
「あののね、シュレのロットの先の方なんだけど、水玉みたいにはっきりじゃ無いんだ。 僅かに輪郭のあたりが歪んで見えているんだ。 だから、向こう岸の木が輪郭の辺りだけ歪んで見えているんだよ」
レィオーンパードは、僅かに怯えた様な声で、アリアリーシャに伝えた。
アリアリーシャもレィオーンパードに言われた方向を見る。
レィオーンパードの話だと、僅かに球体の表面が歪んだようにと言っていた事を気にする様に、シュレイノリアのロットの先を見つめている。
そのレィオーンパードの話が、理解できたのか、自分でも見えてきたのだろう。
レィオーンパードに答えた。
「ああ、何となく見えますぅ。 そうですぅ、レオンの言う通りの様な丸が見えますぅ」
「でしょ。 何なんだろうね」
「あれ、5メートル以上ありそうですねぇ。 何なんでしょう」
アリアリーシャとレィオーンパードは、その球体を見て不思議そうな顔をしている。
ただ、2人の話を聞いていた馬車の後ろに隠れつつ、覗いているアンジュリーンが、レィオーンパードどアリアリーシャの話を聞いて、自分も確認しようと目を凝らしている。
(全く、シュレにしては、珍しい事をしてるわね。 あんなに魔法に時間をかけるなんて、いつもなら、直ぐに燃え上がったり、爆発させたりさせるのに、今日は、めずらしわ)
不思議そうに見ているアリアリーシャの後ろから、その姿を見ていると、興味深げに見ているのだが、徐々にホバーボードを横にずらして、顔が完全にホバーボードから出てしまっている。
(私には、よく見えないけど、球体だったかしら。 でも、なんで球体なのかしら。 まあ、水なら表面張力とかで球体になるだろうけど、集めているのって、2人が何となく見える程度って事は、空気よね)
アンジュリーンは、空気と考えると、何か心当たりがある様な顔をする。
(空気って、確か色々な成分が混ざってたわね。 私たちが呼吸すると、酸素を吸って二酸化炭素を出すとかだったかしら。 ……。 そういえば、新たな火魔法を考えたって言ってたわね。 空気?)
アンジュリーンは、嫌な予感がしているのだが、その嫌な事が何なのかが、よく分からないのだろう、考えがまとまらない様な顔をしている。




