欲求不満のシュレイノリア
シュレイノリアが、ジューネスティーンのパワードスーツの肩をロットで叩いていた。
不満そうな顔で、ジューネスティーンを上目遣いで覗き込んでいる。
ジューネスティーンは、パワードスーツから外に出ると、シュレイノリアが訴えてきた。
「出番が無かった。 欲求不満」
「今日は、パワードスーツの確認だから、お前の出番は無いって言ったと思うが」
「一発、撃ちたい」
「ダメ」
「新たな火魔法を思いついた。 実験が必要。 ぶっつけ本番は良く無い」
「……」
ジューネスティーンは、ぶっつけ本番はよく無いと、言う言葉に黙ってしまう。
今回の前衛組のパワードスーツの試運転も、ぶっつけ本番にならない様に、適当な魔物で動作確認やパワードスーツに慣れてもらうために行っている。
最初から、強力な東の森の魔物と対峙するのではなく、攻撃力の低い魔物を討伐する事で慣れないパワードスーツの性能を自分に馴染ませるのが、目的になっていたのだ。
もし、慣れてないパワードスーツを使って、いつもの様な生身の状態と同じ動きをしようとして出来なかったとなると、攻撃の失敗につながる事もあるからだ。
その攻撃の失敗によって、反撃を喰らうとなれば、攻撃力が高い分致命傷に繋がることも考えられる。
1人の失敗がパーティー全員の命に影響を及ぼしかねないので、試運転を行って、体に馴染ませるのが目的で出向いてきている。
シュレイノリアの魔法についても同じで、威力がどの程度なのか、使ってみたら全く効果が無いのか、それとも、大きな効果が期待できるのか、そういった部分も含めて試し撃ちは必要である。
その事をジューネスティーンに告げてきたので、ジューネスティーンは、どうしたものかと、悩んでいるのだろう。
特にシュレイノリアの魔力量・魔法能力を考えると、スカの様な魔法ではなく、かなり強力な魔法になるだろうと予想はつくので、この場所で使ったら、周りにどの様な影響を及ぼすのか気になるはずだ。
後で噂を聞きつけた帝国軍の調査団に調べられたとして、痕跡からどの程度の魔法だったのか嗅ぎ付けられたら今後の活動に影響が出かねないのだから、直ぐには結論は出ないだろう。
(できれば、痕跡が残らない方法で行えればいいんだが)
ジューネスティーンが考えていると、シュレイノリアが提案してきた。
「この湖に向かってなら、大丈夫」
そう言って、湖を指差す。
それでもジューネスティーンは了承せずに考えている。
シュレイノリアはジューネスティーンがなかなかウンと言わないのを気にしてなのか、また、話をする。
「火は水で消せる」
「……」
ジューネスティーンは、シュレイノリアが言う事に納得している様に思えるのだが、やはり黙っている。
ただ、シュレイノリアは、ジューネスティーンのその表情を伺っていて、ジューネスティーンの表情の感じから何かを感じたのだろう。
シュレイノリアは、ジューネスティーンの表情を見て、僅かに勝ち誇った様な表情を見せると、最後の一押しの様に話しかける。
「水の中に撃ち込む。 それなら、問題は無い」
そこまで言われると、仕方が無い顔をしたジューネスティーンが、ヤレヤレといった感じで答える。
「仕方がない。 じゃあ、試しに湖の中央に撃ち込んでみろ」
ジューネスティーンのその発言に、他の4人が、慌てて反応する。
馬車の後ろ、湖とは反対側に移動しつつ、4人で何かを相談し始めている。
「ちょっと、魔法を撃つのは待ってよ。 まだ、私達がもう少し離れてたり、準備をしてからだからね。 それから魔法使ってね」
アンジュリーンが言うと、ジューネスティーンは、4人もタダでは済まないと考えての行動だと納得したのだろう。
「分かった。 もう少し湖に近付いてから撃たせる」
そう言って、ジューネスティーンとシュレイノリアが湖畔の方に歩いていく。
すると、ジューネスティーンは、シュレイノリアに話を聞き始める。
「湖の中央で発動させても熱気は大丈夫か。 炎が来なくても熱気でやられるなんてのも困るからな」
そこまでは考えてなっかったのか、シュレイノリアは何か考えている。
「じゃあ、湖の中で発動させる」
湖の中とシュレイノリアは答えた事で、湖面上で行おうと考えていたと判断できる。
そして、シュレイノリアには、その魔法によって、周りにどれだけの熱量が出るのか考えて無かった事もわかる。
ただ、ジューネスティーンは、今の魔法について疑問がある様だ。
何か考えているような様子をすると、シュレイノリアに質問する。
「そんな事できるのか。それに水の中で突然、高温の炎が出たら水蒸気爆発にならないか? そうなると、魔法以上の効果が出ることになるんじゃ無いか?」
疑問をシュレイノリアに伝えると、シュレイノリアは、少し安心したような様子で答える。
「多分、問題無い。 一応、水中に水の無い空間を作る。 その中で発動させる。 水蒸気爆発は、水の中に高温の固体が落ちた時に、その固体に水が触れて、一瞬で水が蒸発することで発生する。 水中に空間を作れば魔法と水が接触する事は無い。 だから水蒸気爆発は起こらない」
今のシュレイノリアの説明に、言われてみればその通りなのかと、納得するような表情をジューネスティーンは浮かべる。
ジューネスティーンは、背後にいるメンバー達の方を向くと、アンジュリーンとアリアリーシャ大急ぎで地竜を馬車から外して、馬車の後ろに移動させていた。
カミュルイアンとレィオーンパードが馬車を動かない様に車輪の固定ブレーキを確認したり、錬成魔法で車輪を地面に沈める様に穴を掘って、車輪を固定する。
その作業が終わると、馬車と湖の間に地面を錬成魔法で塀を築く様にしていった。
塀も正面に向かってではなく、湖の方向に楔の様に斜めにして、力を受け流せる様に楔形に築いている。
火魔法と言っていたのと、湖の中でと言っていたことから、発動時の熱気から地竜や馬車を守る為と、湖の水が押し寄せてきた時に水の圧力で塀が倒れない様にだろう。
念のいった事をするとジューネスティーンは思っているのだろう、少し呆れたような顔をしている。
ただ、学校時代からのシュレイノリアの試し撃ちの魔法で被害を受けた事を数え上げたらキリが無いのだ。
4人にしてみれば、シュレイノリアの実験の恐ろしさを身に染みて感じているのだろう。
大災害が確実に訪れると分かっている人の様に、慌てて作業を行なっている。
ジューネスティーンは、それもまた仕方が無いのかと思ったのだろう、ため息を一つ吐くと、4人の、その作業が終わるのを待っている様だ。




