目的地への移動
ジューネスティーン達は、金糸雀亭を馬車で出る。
御者台には、ジューネスティーンとシュレイノリアが座り、手綱は、ジューネスティーンが持っていた。
街中は、事故を防ぐために、ゆっくりと進ませる。
金糸雀亭の有る、第9区画から西へ、第9区画から、第5区画と第3区画に向かう大通りに出る。
第3区画の西の第8区画に向かい、帝都の西門に向かって、ゆっくり、馬車を走らせる。
その後ろに、馬に乗った男が付いてくる。
「ジュネス。 後ろに居る」
シュレイノリアが、サーチによって、追跡してくる帝国の監視者を確認している。
「相手は、馬で向かってきてるんだな」
「そうだ。 馬なら、この地竜の速度にはついてこれない」
「カインクムさんのところで、台車に施した魔法紋は?」
「ああ、問題ない。 ちゃんと施している。 加速は、ゆっくりになるかもしれないが、最高速度になれば、馬は、付いて来れない」
軽量化の魔法紋ならば、最高速度になったら、速度を一定に保つだけになる。
最高速度を維持するだけとなれば、長距離の得意な地竜の足なら、馬の脚を振り切る事は可能となる。
「人を乗せて、駆け足の速度なら、30分も持たないだろう。 振り切って、目的地に向かおう」
「うん」
ジューネスティーン達は、帝都第3区画から、第8区画に向かう大通りを西に向かう。
第8区画から、帝都の西門を抜けると、南の王国へ向かう、西街道を走る。
徐々に速度を上げて、高速移動に移る。
シュレイノリアは、サーチによって追跡してくる監視役を確認している。
10分程すると、馬の疲れが見えてきた様子で、徐々に差が広がってくると、馬の速度は、どんどん落ちていく。
それでも馬を走らせた様なので、途中で止まった様で有る。
「もう、1km以上離れた。 それに向こうは止まってしまった。 念のため、馬車に認識阻害をかける。 街道から外れて、目的地に向かおう」
「ああ、わかった」
ジューネスティーンの返事を聞くと、シュレイノリアは、ロットを軽くかざす。
ジューネスティーンは、それを見てから、馬車を街道から外れて、目的の場所に向かった。
森林地帯の中に湖が有り、湖周辺は開けている。
ながくて、50cm程の下草と、所々に低い木が生えている程度で周辺は、ある程度見渡せるが、近くに林が有り、そこから湖に来た人や動物が被害に遭っているという。
目的の魔物は、身長2m程の2足歩行型のトカゲ型、腕は短いが、足は長くて太い。
その足で走る際、体を、頭から尻尾の先までを地面と平行にして、走ってくる。
口は小さいとは言え、身長2mは有るので、人の頭なら咥える事は可能な大きさはある。
腕は、足と比べるとはるかに小さいが、鋭い爪も備わっているが、腕の短さから、攻撃には使われる事は殆ど無い。
腕や爪は捕まえた人や動物を食べる時に使う程度である。
だからと言って爪の脅威はある。
魔物が攻撃に使わないと言っても、その爪は、人や動物の皮や肉を引き裂く程度は可能である。
首筋に爪をたてられれば、直ぐに頸動脈程度なら引き裂いてしまうだろう。
ただ、それ程強くは無い爪や牙でも、生身の人間や動物に噛み付いたら離してはくれない。
数匹で群れをなしていて、1匹が獲物を捕まえると、残りの魔物が寄ってきて、致命傷を与える。
そして、数匹で貪り食われてしまう。
森から一気に走ってきて、人や動物の首筋に噛り付く、失敗しても、体の何処かに齧り付く。
後から来た魔物が、とどめを刺して、獲物にありつくという事だった。
その魔物は、静かに高速で向かって来るので、気がついた時には致命傷を負わされてしまう可能性が高いのだ。
ただ、ジューネスティーン達からしたら、南の王国にも僅かに生息していたので、何度か倒した事がある魔物なのだ。
初見の魔物とは違うので、情報は得ている。
自分達が先に見つけてしまえば、大きな問題は無いと考えているのだろう。
基本的に魔物を倒す方法は、人や動物と同じで、致命的な痛手を負わせれば良い。
首筋・心臓の付近、人や動物の致命傷となる様な攻撃を与えることで、魔物は、倒す事が出来る。
今回の様な足の速い魔物でも同様の事なのだ。
ただ、馬車で移動してきたので、自分達より、地竜が襲われる方が問題である。
魔法紋で軽くなっているとはいえ、地竜に引かせる馬車を人が引いていたとなれば、目立ってしまう事になる。
南の王国から大ツ・バール帝国まで、一緒に旅をしてきたのだから、大事な仲間でもある。
地竜に万が一の事があるといけないので、馬車周辺の土地を錬成魔法で馬車の周りの土を集めて馬車を守る堀を作成し、馬車の周りは少し高くした。




