アフターサービス
ヴィラレットは、カインクムに手入れをしてもらい、返してもらった剣を抜いて、手入れの状態を確認して、鞘に戻して腰につける。
カインクムはヴィラレットの身に付けている防具も気になったのだろう。
直ぐに、それも指摘してきた。
「防具も、ちょっと傷んでいるから、それも見てやるよ」
胸に付けている革鎧には、魔物に引っ掻かれた様な傷が付いている。
ヴィラレットは、言われるままに、胸の革鎧を外して、カインクムに渡す。
「内の鎖帷子は問題無いみたいだな。 革鎧は本職じゃないので綺麗に治せないが、今のままよりは良いだろうから」
カインクムは、ヴィラレットが革鎧を外した後、その下に着ている鎖帷子も確認したのだろう。
その事を指摘しつつ、傷付いたところに新しい革を当てて縫い付けていく。
完成すると、ヴィラレットに渡す。
「ありがとうございます。 手入れだけで無く使い方まで教えて頂きありがとうございました。 それで、お代の方は如何程になりますか」
カインクムは、フェイルカミラを見ながら少し考えるが、直ぐに値段を伝える。
「それじゃあ、銅貨1枚だけ貰っておくか」
「……。 少し安いんじゃないですか。 普通なら、銅貨10枚は取られますけど」
金額を聞いて、金額が通常より安いと気が付いたのだろう、フェイルカミラが、話に入ってきた。
「あぁ、ユーリカリアには世話になっているし、次からうちの剣を買って貰えれば、それで良い。 それに今日は良い物を見た後なのでな、機嫌が良いんだ」
ユーリカリアは、それを聞いて、何か思い当たるのだろう。
顔付きが僅かではあるが、変わった様に思えた。
(ギルドでの話からすると、今日、カインクムが会っていたのは、ジュネス達だ。 それに、今、良い物を見たと言った。 あいつらの持ち物って、そんなに凄い物なのか? カインクムが良い物なんて言う程に? あいつらには、もう少し探りを入れておく必要がありそうだ。 そうなれば、ウィルリーンとシェルリーンの事も有るから、友好的に接しておいて損はないな)
そんなユーリカリアの思惑など知らずに、ヴィラレットは、カインクムに感謝している。
「ありがとうございます。 今度お金が貯まったらお邪魔させて貰います」
「そういえば、嬢ちゃんは、予備の剣は持っているんか?」
「いえ」
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、立ち上がって、奥に行くと、短剣を一振持ってきた。
「この短剣を貸しておくから、一緒に持っておけ。 まあ、お守り程度にはなるだろうから。 次に剣を買った時に返して貰えば良い」
それを聞いて、ヴィラレットは恐縮する。
「宜しいのですか」
「構わないさ。 このパーティーに入ったのなら、それなりに見込みがあってとユーリカリアも考えたんだろうから、これからはお得意様になってもらえると思うからな。 先行投資ってやつだ。 それと、この剣が不要になった時は嬢ちゃんが持ってくるんだぞ」
暗に死んで他のメンバーがこの剣を届けることにならない様にと、思いを込めてカインクムは言葉に出した。
「ご主人、助かる」
そのことに気がついたユーリカリアは、短剣の事も含めてお礼を言う。
「お前さんも、見込みがあるから、顔つなぎに連れて来たんだろ、それに、この嬢ちゃんには短剣を貸したんだからな、後であんたが返しに来るなんて事にならない様にな」
ユーリカリアにも、死なせない様にちゃんと面倒を見る様にという思いを込めてなのだろう、カインクムは言った。
「わかりました。 肝に命じておきます」
「じゃあ、暗くなり始めているから、そろそろ宿に戻るんだな」
「そうさせて頂きます」
そう言うと、ユーリカリアのメンバーは店を出る。
カインクムも見送りにドアの前まで出ると、メンバーたちは、カインクムに礼をする。
特に、ヴィラレットは深々と礼をした。
歩き出すユーリカリアのメンバーを見送ると、カインクムは店の中に有る 閉店 の看板をドアの外枠に掛けると、店に入り、ドアに閂をかけて閉店の作業をする。
カインクムは、ヴィラレットのレイビアについて考えている。
(人の太刀筋というものは、直ぐに変わるものでは無い。 今、教えたレイビアの使い方を自分の物にするには時間が掛かるはず。 それまでは、咄嗟に今までの斬る太刀筋になってしまうだろう。 そうなると、ジュネスから聞いた剣は、直ぐにでも作る必要があるな。 あの嬢ちゃんが、レイビアを折る前に完成させる必要があるか)
ヴィラレットが使用していたレイビアは細身の剣なのだ。
一般的な曲剣では、厚みも幅もあるので、持った感じが大きく異なる。
だが、ジューネスティーンの持っていた剣なら、レイビアとは大きな遜色は無く使う事ができるだろう。
ならば、ジューネスティーンの言っていた剣を早く完成させる必要が有ると思い、ジューネスティーンの剣を作る意欲が湧いてきた様だ。




