アメルーミラの帝都脱出
ヲンムン軍曹の言葉に、アメルーミラは、喜んだ。
しかし、これから、西街道を進んでとなると、帝都を出なくてはならない。
ここは、未開発地区といっても、堀は完成しており、その堀を抜けるには、泳いで渡る事になる。
アメルーミラは、この後の事を考えると、少しうんざりしたようだ。
(ここから、西街道に向かうとして、帝都を出るには、門を抜けるか、ここなら、堀を泳いで渡るしか無いわ。 また、濡れることになるのかしら。 でも、自由と引き換えなら、それも仕方がないと思うけど、・・・。 でも、あまり、面白くはないわ。)
アメルーミラは、堀の方を見ていた。
そして、少しうんざりしたような表情をした。
「アメルーミラ。 帝都を出るのは、南門からだ。 俺は、帝国軍情報部だからな、その肩書きを使ったら、この時間でも、問題無く門を抜けられる。」
それを聞いて、アメルーミラは、ホッとしたようだ。
(よかった。 門から出られるなら、濡れることはないわ。 ・・・。 だったら、荷物を取ってくることもできるわ。)
そして、何か嬉しそうにした。
「ああ、途中に金糸雀亭があるが、もう、金糸雀亭に戻らないでくれ。 お前は死んだ事になったのだから、これからは、可能な限り、人との接触は避けたい。 だから、お前の荷物は諦めてくれ。」
ヲンムン軍曹の話を聞いて、アメルーミラは、ガッカリした。
(ああ、ジュネスさん達に、もらった衣装とかは、持っていけないのか。 ・・・。 でも、これから、歩いて移動だから、持ち物は少ない方が、ありがたいのかもしれないわね。)
しかし、すぐに気を取り直したようだ。
これから、西街道を徒歩で移動となるなら、持ち物は、少ない方が助かる。
アメルーミラは、ヲンムン軍曹が、用意してくれた冒険者風のシャツとズボンの姿、もらった銀貨は、ポケットに入れてある。
手に持っているのは、濡れたワンピースと、下着の上だけだ。
すると、ヲンムン軍曹が、持ってきたバックをアメルーミラの前に出した。
「今の濡れた服は、これを使って持っていけ。」
ヲンムン軍曹は、せめて、今日のワンピースだけでも、持たせようと思ったようだ。
「ありがとうございます。」
アメルーミラは、バックを受け取ると、濡れたワンピースと、下着の上をバックの中に入れた。
そして、バックを左手で下げると、ヲンムン軍曹は、護身用の短剣を腰から、鞘ごと抜いて、アメルーミラに渡した。
「魔物避けの石は持っていても、万一という事がある。 これを持っていけ。」
アメルーミラは、短剣を受け取ると、本当に大丈夫なのかと思ったようだ。
(武器は助かるわ。 街道を歩いていて、魔物避けの石を持っていたとしても、心配だから、短剣があるだけでも心強いわ。 でも、貰って構わないのかしら? )
心配そうに短剣を見ていた。
「こんなもんでは、お前の損失分を穴埋めできないが、持っていけ。 それに剣の使い方も、教えてもらえたから、随分、上手に使えるようになったじゃないか。 夜は、魔物も活性化しているからな。 あった方がいいだろう。」
その言葉に、アメルーミラは、ホッとしたようだ。
その表情を見て、ヲンムン軍曹も、多少は後ろめたさが緩和されたようだ。
「それじゃあ、行こうか。」
ヲンムン軍曹は、誘うと、出入口の方に歩き出すので、アメルーミラも、後に続いた。
第9区画は、南側の城壁沿いを進んだ。
少しでも、人に出会わないように向かうのだった。
ただ、第9区画の西から、南門までの移動は距離があったが、時間が深夜となっていたので、人と出会うこともなく、南門にたどり着く事ができた。
ヲンムン軍曹は、南門の詰所の扉の横にある呼び鈴を鳴らした。
すぐに、夜勤の門番が現れ、扉の小窓を開けた。
「こんな夜更けに、何か用ですか? 」
すると、ヲンムン軍曹は、自分の身分証明証を見せた。
「帝国軍情報部のヲンムン軍曹だ。 緊急の用事で、1人、外に出したい。」
その話を聞くと、小窓が閉められて、扉が開いた。
「かしこまりました。 それでは、中で帳簿にサインをお願いします。」
門番が、そう言うと、ヲンムン軍曹は、門番の手に何かを握らせた。
「すまない。 これは、極秘任務なんだ。 俺は、ここまでだが、後ろの亜人を外に出したい。 それと、外へ彼女が出たことは、忘れて欲しい。」
門番は、握らされた物を見ると、納得したような表情をした。
「かしこまりました、ヲンムン軍曹。 今日は、誰も南門には来ていませんから、安心してください。」
門番は、ヲンムン軍曹の話を、胡散臭くは思ったようだが、握らされた物が、中銅貨1枚だった事と、ヲンムン軍曹の身分証明証が、本物だったことから、軍の秘密任務ということに納得したようだ。
「では、中に入ってください。」
そう言うと、ヲンムン軍曹を詰所に案内したので、ヲンムン軍曹は、アメルーミラを連れて、詰所に入った。
「夜中にすまないな。 どうしても、人に見つからないように出さないと不味いので、手数をかけてしまったな。」
ヲンムン軍曹は、詰所の中にアメルーミラと一緒に入ると、門番に言った。
「いえ、帝国軍の任務でしたら、問題ございません。 私は何も見てませんから。」
門番は、そう言いつつ、扉の鍵を開いて、奥の小部屋に入っていった。
門の大扉は、開く事ができないので、詰所の中に人が通り抜けられるようになっている。
そして、門の内部側と、外側への部屋が用意されており、もう一度、外側の部屋に移動するための扉を抜けた。
万一のためと、有事の時のためにこの小部屋には仕掛けがあり、非常事態の時は、扉を開かせないための仕掛けが用意されていた。
今は、そのどちらでもないので、扉の鍵を開ければ、簡単に通り抜けられる。
3人が外に抜ける小部屋に入ると、門番は、入ってきた扉の鍵を閉め、最後の門の外に抜ける扉の鍵を開け、扉を開くと、ヲンムン軍曹は、アメルーミラに目配せをした。
アメルーミラは、その視線を受けると、扉を抜けた。
そして、部屋の中を振り返ると、ヲンムン軍曹に、お辞儀をしたので、ヲンムン軍曹は、慌てて敬礼した。
「任務の成功を祈っている。」
そして、顎を軽く振って、さっさと行けと言うように、態度で示した。
敬礼を戻すと、門番の方を向き、扉を閉めろと言うように視線を向けると、門番は、扉を閉めて鍵をかけた。
(アメルーミラのやつ、そのまま、立ち去ればいいのに、あの状況で、お辞儀なんかしたら、怪しまれるだろう。 ・・・。 まあ、あいつなりの、お礼の意味もあったのだろうが、声に出さなかっただけでもよかったってところか。)
すると、門番が、元の扉の鍵を開けていたので、ヲンムン軍曹は、その扉を抜けた。
そして、帝都側の扉を開けてもらうと、ヲンムン軍曹は、門番を見た。
「助かったよ。 これで、任務の遂行ができたよ。 それと、この事は、軍内部でも極秘なんだ。 誰にも言わないように頼む。」
「かしこまりました、軍曹。 今日は、誰もここを抜けていませんから、安心してください。」
門番は、分かっているといった様子で答えてくれた。
門番は、敬礼すると、ヲンムン軍曹も敬礼を返し、なおると、ヲンムン軍曹は、南門を後にすると、門番も、何事も無かったように、扉を閉めた。
アメルーミラは、深夜に帝都を脱出した。




