アメルーミラの奴隷契約の解除
アメルーミラは、ヲンムン軍曹の話を考えていた。
最初は、よく分からず、今のミッションを終わらせて、次のミッションのような話をされたので、このミッションが終わったところで、奴隷から解放されるのではなく、新たなミッションに使われると思ったのだ。
しかし、話を聞いていると、どうも、違っていた。
ヲルンジョン少尉のセクハラから、守るために、手の込んだ小細工をして、なおかつ、逃がすための算段をしてくれたのだ。
それをアメルーミラが、勘違いしていたので、ヲンムン軍曹は、命令という形で、アメルーミラに伝えたのだ。
ただ、今後は、大ツ・バール帝国に戻ることは出来ないだけであって、後は、一般的な冒険者と、何ら変わる所はない。
逃走経路も理解でき、それに、何らかの追手があった時用の方法を教えてもらえた事もあり、そして、魔物避けの石を手に入れた事で、夜の移動も魔物に襲われることが無くなった、
また、奴隷紋が残ったことを、逆に利用して、帝国軍の名前を出して、奴隷商絡みの連中への牽制になる。
むしろ、奴隷紋がある事で、奴隷商と奴隷を攫う連中への牽制となる。
アメルーミラにとっては、至れり尽くせりの話となっていた。
ただ、アメルーミラは、一つ気になることがあった。
それは、旅支度をしてなかったことで、手持ちの金が無かったのだ。
地竜を買うにしても、その費用も、食事の費用も何も無い。
ただ、北の王国の身分証明証とギルドカードは、常に携帯しているので、ギルドに行けば、今までの稼ぎが預金されているので、それを使うことができる。
アメルーミラは、ヲンムン軍曹の話から、具体的な事を考えて心配になったようだ。
「ああ、そうだ。 路銀が必要になるな。」
ヲンムン軍曹は、そう言って、アメルーミラに、銀貨5枚を手渡した。
その金額を見て、アメルーミラは驚いた。
通常の旅なら、銀貨1枚もあれば十分にお釣りが来る。
それにヲンムン軍曹は、地竜を購入して逃走に使えと言ったが、南の王国に着いたら、地竜は、売り払うことになるので、買った時の金額と販売した時の金額の差額だけの損失となる。
一般的な地竜の購入金額が、銀貨3枚程度で、売り渡しは、銀貨2枚程度となる。
それも交渉次第では、その差額はもっと小さくなるのだ。
そう考えると、南の王国に着いた時、アメルーミラの手元に残る金額が、銀貨3枚以上となるのだ。
以前倒した、キツネリスの魔物のコアが、中銅貨2枚、南門前の犬の魔物のコアが、銅貨2枚と考えると、かなりの高額となる。
銀貨3枚となると、かなりの高額となるのだ。
「あの、ヲンムンさん。 これは、少し高額じゃないですか? 」
アメルーミラは、恐る恐る聞いた。
「ああ、これは、お前に対する報酬も含まれている。 それに、たどり着いた南の王国で、無一文だと、住むこともままならないだろう。 だから、持っていけ。」
ヲンムン軍曹は、答えた。
アメルーミラとしたら、奴隷という身分なので、報酬がもらえるとは思っていなかったのだ。
それをヲンムン軍曹は、渡すと言ってくれた。
「それに、ここで、姿をくらましたら、ツノネズミリスの報酬を受けられないだろう。 そうなれば、少しでも金はあった方がいいはずだ。」
言われてみて、アメルーミラも、このまま、ジューネスティーン達の前から消えたら、そうなると思ったようだ。
逃走資金としては、高額だと思ったようだが、ツノネズミリスの討伐を行ったさいの報酬が、このまま、逃走したことで、入る見込みが無くなると思えば、その金額は、大して高額ではない。
アメルーミラが、ツノネズミリスの討伐の際は、後方支援だったこともあり、ジューネスティーン達のパーティーの6%が、アメルーミラの取り分となる。
ツノネズミリスの討伐の報酬の他に、ツノネズミリスを倒した魔物のコアの報酬を考えたら、莫大な金額になる。
10万個以上のツノネズミリスのコアの単価は、銅貨1枚となっているので、中金貨1枚以上になる。
これだけでも、アメルーミラの取り分は、中銀貨3枚以上になる。
そして、ツノネズミリスの討伐依頼の金額は、大金貨10枚となっており、2パーティーで分けて、大金貨5枚となり、その6%となったら、中金貨3枚となる。
アメルーミラは、その金額を棒に振るのに、ヲンムン軍曹から渡された金額は、銀貨5枚だけなのだ。
中金貨3枚、中銀貨3枚と比べたら、圧倒的に少ない金額なのだ。
銀貨5枚 = 白銅貨 500,000枚
中銀貨3枚 = 白銅貨 3,000,000枚
中金貨3枚 = 白銅貨 300,000,000枚
冒険者を引退して、悠々自適に暮らせる金額を、アメルーミラは、棒に振ることになるので、かなりの損失を被ることになる。
それを考えたら、ヲンムン軍曹の渡した銀貨5枚は、圧倒的に少ない金額となる。
ただ、アメルーミラの身分は、ヲンムン軍曹の奴隷なのだから、ヲンムン軍曹が、これだけだと言ったら、それを受け入れるしかない。
それが、奴隷になった者の性なのだ。
「ありがとうございます、ヲンムンさん。 いただいた銀貨5枚、大事に使わせてもらいます。」
アメルーミラは、有難そうに、もらった銀貨5枚を胸の前で、きつく握っていた。
(そうよ。 私は、奴隷紋の解除はできなかったけど、ヲンムンさんは、今後は、命令を出さないと言ったわ。 名目上は、奴隷でも、奴隷としての束縛は無くなったと思って言い訳よ。 だから、ツノネズミリスの報酬が入らなくても、私は、あの金額で自由を得たと思えばいいのよ。 身分証明証もギルドカードも有るのだから、冒険者として新たな一歩を歩めるわ。 それに、魔法を覚えられたのだから、他の新人冒険者より、有利なのよ。 これから、私の冒険者としての新たな一歩が歩めるのよ。)
アメルーミラは、物思いに耽っていたのだが、その様子をヲンムン軍曹は、申し訳なさそうに見ていた。
「少なくて、申し訳ないが、これで、奴隷契約は終了だ。」
お互いの思惑を胸に秘めつつ、ヲンムン軍曹は、アメルーミラとの奴隷契約の終了を宣言した。




