ヲンムンの最後の命令
アメルーミラは、ヲンムン軍曹が、言っている事が、よく分からないようだ。
(どういう事なの? 奴隷のまま、南の王国で、冒険者として暮らすって、ジュネスさん達へのスパイ工作は終わりだから、次は、南の王国へ行って、冒険者をするのね。 ・・・。 でも、なんで、そんな事をするのかしら? 私が、南の王国に行った後、どんな仕事をするのかしら。)
アメルーミラは、南の王国に行く事については、理解できたようだが、その後の自分の仕事が何になるのか、疑問に思ったようだ。
アメルーミラは、そして、少しガッカリしたようだ。
(ジュネスさん達のスパイ工作が終わったら、奴隷から解放してくれると言ったのに、やはり、ダメだったのね。 そして、次の仕事は、南の王国で冒険者をする事。 決して、奴隷の身分から解放されることはないのね。)
アメルーミラは、自分の運命を呪っているのか、徐々に切ない表情になっていった。
ただ、ヲンムン軍曹は、そんなアメルーミラを見て、なんで、そんなに切なそうな表情をするのか、理解できずにいた。
(アメルーミラは、なんで、こんなに切ない表情をするのだ? 奴隷の身分は、そのままだが、アメルーミラの奴隷紋は、表に見えないタイプだ。 誰もアメルーミラを奴隷だと認識できないが、奴隷商に捕まったとしても、奴隷紋の解除は、難しいはずだ。 だから、その奴隷紋を解除して、別の人の奴隷になる事は、難しいはずだ。)
ヲンムン軍曹は、アメルーミラの様子が、理解できずにいるようだ。
「なあ、アメルーミラ。 お前の奴隷紋は、表に出ないタイプだ。 このまま、俺から離れて、誰かに胸を確認されたとしても、奴隷だとは思わない。 それに、奴隷商に捕まったとしても、その見えない奴隷紋がある事で、新たな奴隷紋の上書きは出来ない。 俺の奴隷として、その奴隷紋が有効だから、その奴隷紋を解除できなければ、新たな奴隷紋を描く事ができないなら、お前は、これから先、奴隷になることはない。」
アメルーミラは、まだ、よく分かってないのか、ヲンムン軍曹の話を聞いても、いまいち、ピンときてなかったようだ。
そんなアメルーミラの表情を見て、ヲンムン軍曹は、もどかしそうにした。
「つまり、お前の仕事は終わった。 これから先は自由に生きるんだが、帝国では生きていることがバレると不味いから、活動の拠点は、今のところは、南の王国にして欲しい。 駆け出し冒険者のお前なら、南の王国なら、生き延びることも可能だろうし、それに経験を積んでいけば、他の稼ぎが良い国に移って、冒険者を続ければよいだろう。 それに、もし、奴隷商に捕まったとしたら、その奴隷紋は、帝国軍情報部に所属していると伝えれば良い。 帝国軍と事を構えるつもりなら、このまま、奴隷として連れていっても構わないが、奴隷紋の上書きもできず、帝国の敵となると伝えれば、奴隷商達への牽制になる。」
今の話をアメルーミラは、ポカンと、聞いていた。
(ちょっと、難し過ぎたか。)
そして、ヲンムン軍曹は、少し考えた。
「ああ、そうだ。 最初にこれを渡しておく。」
そう言うと、ヲンムン軍曹は、胸ポケットから、石を出して、それをアメルーミラに渡した。
「それは、魔物避けの石だ。 それを持っていたら、夜でも、Cランク以下の魔物なら近づいてくる事はない。 これを持っていれば、夜の移動も、魔物に遭遇する事はない。 ただ、先日、東街道に東の森の魔物が出ていたからな。 移動は、西街道を使うようにするんだ。 Aランクの魔物と遭遇したら、死ぬしかないから、移動は、西街道だ。」
アメルーミラは、ヲンムン軍曹の命令だと思って聞いているようだった。
(この石が有れば、魔物に襲われる事もないのか。 でも、東街道を通って、ジュネスさん達が倒した東の森の魔物に遭遇したら、命は無いので、西街道を使って、南の王国へ行くのね。)
アメルーミラは、納得したようだ。
(ああ、この娘は、命令だと思っているのか。 ・・・。 だったら、その方向で、話をした方がいいのかもしれないな。)
一方、ヲンムン軍曹は、何かを納得したような表情をした。
「西街道を進んだら、最初の宿場で、地竜を買え。 そして、1日分の旅支度の用意をして、次の宿場町に移動しろ。 そこで、宿を取れ。」
ヲンムン軍曹は、具体的な指示を出し始めると、アメルーミラは、真剣な表情で、ヲンムン軍曹の話を聞いていた。
(やっぱり、そうか。 アメルーミラは、自由になった事が、理解できてないようだな。)
そして、ヲンムン軍曹は、納得したような表情をした。
「後は、可能な限り早く、南の王国にたどり着くようにしろ。」
「わかりました。」
アメルーミラは、ヲンムン軍曹の命令を理解したというように答えた。
そして、次の命令を待っていた。
アメルーミラは、南の王国に行って、冒険者を行うようにと言われたが、それは表向きの仕事としての意味だと思っていたようだ。
その後に、本命の命令が来ると思っているようだ。
アメルーミラは、次の命令を待つように、ヲンムン軍曹を見ていた。
(やっぱり、命令を待っているようだな。)
ヲンムン軍曹は、ため息を吐いた。
「これは、一番大事な命令であって、最後の命令だから、心して聞くように。」
そして、一呼吸置いた。
「今後、お前は、俺の命令を聞く必要は無い。 南の王国で冒険者として、生活をして、生計を立てろ。 そして、帝国に2度と足を踏み入れるな。 それ以外の国に移動することは、お前の判断で行えば良い。 以上だ。」
その命令を聞いて、アメルーミラもヲンムン軍曹が、何を考えていたか、理解できたのか、表情に変化が出た。
「あのー、それだと、帝国には戻れないけど、南の王国で冒険者として生計を立てたら、その後は、私は自分の意志で行動する。 ・・・。 奴隷ではあるけど、行動は、一般人と同じですけど、・・・。 よろしいのでしょうか? 」
それを聞いて、ヲンムン軍曹は、鬱陶しそうな表情をした。
「ああ、そうだ。 南の王国に行って、冒険者として生計を立てられるようになったら、帝国に帰れない以外は、一般人と同じだ。 それに、俺は、もう、お前に命令をする事はしない。 今後は、俺の命令は、全て無効だ。」
アメルーミラは、南の王国に行き、冒険者として生計を立てられるようになるという命令を受け、そして、その後は、帝国に入ることは出来ないが、それ以外は、自由なのだ。
アメルーミラは、今の条件を満たせば、全て自由になるのだ。
今度は、アメルーミラもヲンムン軍曹の言葉の意味が分かったようだ。




