八つ当たりをするヲルンジョン少尉
ヲンムン軍曹への報告が終わると、アメルーミラは、いつものように金糸雀亭の脇道から、先に出るようにヲンムン軍曹に指示されて、帰ろうと表に出て、金糸雀亭の方に曲がった。
ヲンムン軍曹は、それを確認しつつ、ゆっくりと、通りに出ようと歩き出す。
すると、通りを後ろ歩きで、金糸雀亭の玄関側から歩いてくる人の影を見た。
それは、アメルーミラだった。
何かに怯えるような表情で、後ろに下がっていく姿を見て、ヲンムン軍曹は、不思議そうに見た。
「アメルーミラ? どうかしたのか? 」
その声に、アメルーミラは、慌てて、ヲンムン軍曹の方に走り寄ってきた。
そして、後ろに隠れるようにすると、角から、男が現れた。
アメルーミラは、その男を怖がって、金糸雀亭に戻る事ができなかったようだ。
片手には、酒瓶を持っており、歩き方も、少し千鳥足になっている、その男も、アメルーミラを追って、金糸雀亭の横道に入ってきた。
「よお、ヲンムン。 俺だ。」
その男は、ヲンムン軍曹の名前を言ってきたので、ヲンムン軍曹は、自分の知り合いと分かると、暗がりの中、誰なのかを確認するように目を細めていた。
「おい、お前の上司の顔も声も忘れたのか? 」
それを聞いて、ヲンムン軍曹も、相手が、誰なのか理解できたようだ。
そして、敬礼をする。
「失礼しました。 ヲルンジョン少尉。」
アメルーミラは、今の話を聞いて、少し落ち着いたようだが、ヲルンジョン少尉の様子が、何だか、自分のトラウマに抵触するような気がしているのか、警戒は解いていない。
アメルーミラは、奴隷として売られる前に、盗賊団に捕まって、おもちゃにされている。
その際に、酔った勢いで迫ってくる男と様子が似ていることで、恐怖を感じたようなのだ。
「ヲンムン軍曹。 今日、俺は、メイカリア中佐から、その奴隷の報告が、俺以外の誰かから報告を受けたと聞いた。 なんで、そんな事になるんだ! お前が、俺に報告をせず、別の誰かに報告するから、俺は、余計な仕事を押し付けられてしまったじゃないか! 」
ヲルンジョン少尉の発言は、明らかに八つ当たりであって、自分の怠慢が招いた罰なのだが、ヲルンジョン少尉は、そうは思ってない。
部下であるヲンムン軍曹が、自分に報告を怠ったことで、招いた結果だと思っているようだ。
「はい、ヲルンジョン少尉の合同執務室で、少尉をお待ちしておりましたが、一向に現れる気配がなく、そこに、メイカリア中佐が現れたので、やむなく、メイカリア中佐に、アメルーミラからの報告を上げました。」
ヲルンジョン少尉は、自分を通り越して、メイカリア中佐に報告を上げたと言われ、怒りが込み上げてきたようだ。
「貴様! なぜ、そんな事をした! 」
「えっ! 」
ヲルンジョン少尉の言葉に、ヲンムン軍曹は、驚いたようだ。
ヲルンジョン少尉の合同執務室で、待っていた時、メイカリア中佐に報告したと伝えたので、ヲルンジョン少尉が、合同執務室に居なかった事を告げたつもりだったのだが、ヲルンジョン少尉には、伝わらなかった。
「あ、あのー、ヲルンジョン少尉の合同執務室に報告に上がったのですが、ヲルンジョン少尉は、不在でした。 お待ちしておりましたら、そこに、メイカリア中佐が現れ、アメルーミラからの報告を聞かれましたから、答えました。」
ヲンムン軍曹は、その時の事を説明する。
最初の説明では、ヲルンジョン少尉は、自分が不在だったと気が付かなかったと理解して、そう伝えたのだ。
「貴様、何で、私が不在の時に来る! 不在だったら、翌日、また、私の所に来ればいいだけだろう! 」
「はい、3日程、続けて伺いましたが、不在でした。」
ヲンムン軍曹は、ありのままの話をしている。
ヲルンジョン少尉は、このところ、帝国軍本部に出勤はするが、資料室で、夕方まで寝ており、その後、隠れるようにしながら、退勤して、夜の街に出かけていたのだ。
そのような状況の中、ヲンムン軍曹が、ヲルンジョン少尉に接触できる機会など、あるはずもないのだ。
何日も合同執務室にヲンムン軍曹が、顔を出してたら、メイカリア中佐に見つかるのは、当たり前のことなのだが、ヲルンジョン少尉には、酔いもあって通じないのだ。
ヲンムン軍曹は、困っていた。
その状況を、ヲルンジョン少尉は、チャンスだと思った様子で、ニヤリと笑った。
「おい、ヲンムン軍曹。 そのお前の奴隷に、今日の俺の伽を命じろ! 」
それを聞いて、ヲンムン軍曹は、唖然とした。
仮にも、帝国軍の士官の言葉とは思えない、その内容に驚いたようだ。
そして、後ろにいるアメルーミラは、伽と聞いて、盗賊団に捕まった時の記憶が蘇った様子で、体を震わせて、ヲンムン軍曹の影に隠れるようにしていた。
「どうした! その奴隷に命令しろ! 」
上司からの、あり得ない命令に、流石にヲンムン軍曹も声が出ないようだ。
「今日は、メイカリア中佐に、仕事を言いつかってしまったから、娼館の女達は、全て売れてしまったんだ。 俺の今日の相手は、その奴隷にする。 だから、さっさと、命令しろ! 」
理不尽な命令を、ヲンムン軍曹は、受けていた。
流石に、それは出来ないと思ったようだ。




