アメルーミラの報告とヲンムンの考察
ヲンムン軍曹は、アメルーミラの報告を聞いて何か思い出していた。
(そうだ。 そういえば、最初にユーリカリア達のパーティーと合同の狩をしていたのを見た時か。 あの時、確か、上空に何か魔法紋が出たと思ったら、氷塊が出て、一瞬で消えたと思ったら、魔物の頭が吹っ飛んでいたな。 あれか。)
ヲンムン軍曹は、ハッとしたような表情をする。
そして、アメルーミラを睨むように見つめた。
(思い出した。 あの時の氷塊は、一瞬で消えた。 そして、魔物の頭を粉砕した。 だから、氷塊の撃ち出し速度が、異常に速かったって事か。 まさに目にも止まらぬ速さで撃ち出したって事か。)
ヲンムン軍曹は、自分の見たアイスランスと、アメルーミラの見たアイスランスが繋がったのだ。
ヲンムン軍曹は、悦にいった表情をすると、そして、納得したように頷いていた。
「そうか。 あのアイスランスは、単体攻撃なら、最強とも言えるのか。」
ヲンムン軍曹は、面白そうに笑い出すと、アメルーミラは、少し、嫌そうな表情で、ヲンムン軍曹を見ていた。
「数の多いツノネズミリスでは、有効ではないが、サーベルタイガーや南の山脈の麓の、ゴリラのような魔物なら、数も多くはないから、単体攻撃に特化したアイスランスを使ったのか。」
ヲンムン軍曹は、1人で納得していた。
その様子をアメルーミラは、黙って伺っていた。
そんなアメルーミラに気がついたヲンムン軍曹は、安心しろといった表情をアメルーミラに向けた。
「お前の報告で、話がつながったよ。」
その言葉ん、アメルーミラは、ホッとした様子をするが、直ぐに、表情を曇らせた。
(私が、この人に報告をする事で、ジュネスさん達は、どんどんと不利になってしまうかもしれないわ。 私は、ジュネスさん達を裏切っているのね。)
アメルーミラは、ヲンムン軍曹の奴隷でしかないので、聞かれたら、その事を答えなければ、胸の奴隷紋が発動して、強い痛みを感じるのだ。
だから、アメルーミラは、ヲンムン軍曹に対して、嘘をつくことはできない。
聞かれたら、その事を答えなければならないし、嘘を言うこともできない。
奴隷として束縛されていることで、アメルーミラは、ヲンムン軍曹の言葉に贖えないのだ。
もし、足を開けと言われたら、それを贖うことはできないのだが、幸い、ヲンムン軍曹は、今まで、そのような命令を行ったことはない。
アメルーミラとしたら、旅の途中で盗賊に襲われ、アジトで複数の男達と何度も、入れ替わり、立ち替わり、行われた行為を思い出す。
奴隷の身分ではあるが、スパイという役目を与えられたことで、女が男に奉仕するようなことは無かったので、それだけは救いだと思ったようだ。
だが、これから先、そのような命令を受けないとは限らない。
ヲンムン軍曹が呼び出す時の胸の痛み、そして、奴隷紋の書き換えを行った時の痛みを思い出すと、その痛みの恐怖から、ヲンムン軍曹が、足を開けと命令したら、自分には贖えないだろうと、アメルーミラは、思っているのだった。
アメルーミラの不安とは裏腹に、ヲンムン軍曹は、嬉しそうだった。
ヲンムン軍曹は、自分の見てきたものと、アメルーミラの報告とがつながったことで、ジューネスティーン達の秘密が、薄皮剥ぐように見えてきた。
その事が、とてもワクワクするような、嬉しさを感じさせてくれていたのだ。
パワードスーツについて、ホバーボードについて、そして、魔法について、ヲンムン軍曹は、帝国では、全く知られてないモノに、最初に遭遇して、その内容を確認しているのだ。
新たなものを見つける。
ヲンムン軍曹としたら、新しいおもちゃを、その原理、その秘密を徐々に剥がしていく事が、この上なく快感に思えたようだ。
だが、エルメアーナとしたら、そんなヲンムン軍曹の表情が、星あかりの下で見ると、なんとも嫌らしい目で見る男の目に見えたようだ。
アメルーミラは、今まで、要求されなかった体を、今日は、要求されるのかと思ったのか、表情に恐怖が浮かび上がっていた。
ヲンムン軍曹は、自分の中に入っていたが、目の前に、恐怖の表情を浮かべるアメルーミラに気がついたようだ。
「ん? どうした? 」
「い、いえ、なんでも、ありません。」
アメルーミラが、恐る恐る答えると、ヲンムン軍曹は、嬉しそうにした表情を崩す事もなく、ただ、アメルーミラが、何で、そんなに恐ろしそうな表情をしているのか、気になったようだ。
「ああ、そうだ。 あまり、長い時間、外に出ると、怪しまれるかもしれないな。 それと明日の予定は、聞いているか? 」
「明日は、ギルドにツノネズミリスのコアを届けて、その後は、ユーリカリアさん達と、魔法の練習をすると言ってました。 ツノネズミリスのコアが、多いので、数日は、こんな感じで、帝都の南側で、簡単な魔法を使う程度だと言ってました。」
アメルーミラは、自分が、魔法を教わるとは言わなかった。
しかし、ヲンムン軍曹から聞かれた事に答えている。
アメルーミラも魔法が使えるようになったが、それを、ヲンムン軍曹に聞かれない限り、話をすることはしないようにと思ったようだ。
ユーリカリア達と言った事で、アメルーミラの魔法訓練について、ヲンムン軍曹は、その事に気が付かなかった。
(そうか、だったら、俺が魔法訓練を見るより、本部に報告に行った方がいいだろう。 奴隷の情報は、本部も必要としているだろうな。)
ヲンムン軍曹は、なるほどと思ったようだ。
「今日は、この位で、また、明日も、この時間に、話を聞く。」
そう言うと、ヲンムン軍曹は、もう帰っていいというように、親指を立てて金糸雀亭の方に指を指した。
アメルーミラは、恐る恐る、一礼して、そのばを立ち去ると、ヲンムン軍曹は、その姿が消えるまで見送った。
そして、少し考えるような様子をするが、直ぐに気をとりなおすと、金の帽子亭に戻っていった。




