ヲンムンと2人の魔導士の報告
ジューネスティーン達を監視していた、コリン少尉、メイミン曹長、そして、ヲンムン軍曹の3人は、早めにツカ辺境伯領を立ち、帝都に戻ることになった。
仕事が完了しても、監視していたことを報告する必要がある3人は、往路の時のような忙しさはなくても、通常よりは、早い速度で、帝都に戻ってきた。
ただ、その際、最短コースのゲートを通過する道は、土砂崩れで封鎖されていると、報告を受けていたので、遠回りになるツカラ平原側の街道を使って戻っていった。
行きも帰りも同じ道なので、3人は、道や宿に困ることなく、帰る事ができた。
帝国軍情報部に所属するサイツ・モンメン・ヲンムン軍曹、帝国軍魔導士団のセイツ・マリン・コリン少尉と、帝都との魔法による通信を行うために同行した、帝国軍魔導士団のワツ・コンメン・メイミン曹長の3人は、到着したその足で、キツ・リンセイ・メイカリア中佐に報告に向かった。
ただ、メイカリア中佐は、3人を執務室に通して労うと、報告の前に一旦体を休ませるように言うと、報告は、翌日に行うように命令した。
3人は、メイカリア中佐に言われた通り、その日は、一旦、戻って、体を休ませることにした。
翌日、3人は、始業時間に帝国軍本部に出頭すると、ツカ辺境伯領に向かう前に使った会議室に通された。
そこには、キツ・リンセイ・メイカリア中佐の他に、フォツ・リンイン・ヲルンジョン少尉が居て、その顔を見たサイツ・モンメン・ヲンムン軍曹が、嫌な顔をしていた。
話は、ワツ・コンメン・メイミン曹長から、帝都のワツ・コンメン・アンミン曹長との通信で、あらかたの事は、メイカリア中佐も報告を聞いているので、今回の話は、補足説明のような報告となる。
ただ、パワードスーツについては、言葉での説明だけでは中々伝わってなかったのか、ヲンムン軍曹が、黒板を使って、簡単な絵を描いて説明をおこなった。
メイカリア中佐も、その絵を見て、やっと、様子が理解できたようだ。
そして、背中から出入りする事、土煙を出しながら、地面を滑るように走る姿について、説明をされると、納得するような表情はするのだが、にわかには、信じられないといった表情をした。
また、ツノネズミリスの討伐に使った爆弾について説明をすると、それについては、ツカ辺境伯領に回収用の部隊を送ったので、近いうちに辺境伯領から回収されたものが、帝国軍の軍事研究部門に運ばれることになっていると、メイカリア中佐は3人に伝えた。
また、ツノネズミリスとの戦場を、北の絶壁を利用して陣地を作り、落とし穴を作り、その中に爆弾を用意して数を減らし、向かってくるツノネズミリスに陣地から魔法で、落とし穴の前で撃退し、撃ち漏らしたツノネズミリスを、フル装備のジューネスティーンが1人で対応したこと、別働隊が、魔物の渦の破壊をおこなったことを報告する。
メイカリア中佐は、今回の依頼は、1日で終わるとは思っていなかった。
早くて、1ヶ月と少しは掛かるだろう、通常なら、3ヶ月は掛かるかと思っていたのだ。
その圧倒的な攻撃力の源が、気になったのだ。
「あのパーティーには、魔法職が多かったが、それでも、あの数のツノネズミリスを1日で討伐できたのは、なんでなのだ。 話を聞いていると、ジューネスティーン達のパーティーは、別働隊を組織していたのなら、陣地から魔法攻撃を行えるのは、シュレイノリアとウィルリーンだけになってしまうじゃないか。 その2人の魔法だけで、あの数のツノネズミリスに対応できたと言うのか。」
それを聞いて、セイツ・マリン・コリン少尉は、面白くなさそうな表情をした。
「あのー、これは、信じ難いことなので、メイミンから報告させなかったのですけど。」
コリン少尉は、歯切れの悪い言い方をした。
「なんだ。 随分と言いにくそうだな。 構わないから、言ってみろ。」
コリン少尉は、自分でも信じられないと思ったことを、メイカリア中佐に伝えることにしたようだ。
「実は、ユーリカリアのパーティーでは、魔法を使えるのは、ウィルリーンだけではなく、全員が使えたのです。」
それを聞いて、メイカリア中佐の表情が引き攣った。
魔法は、天性のものであって、大陸のどの国でも、5歳の子供達を集めて魔法適性を検査する。
その際に魔法適性が有った子供は、国の保護下で、魔法職として国に尽くす為の道が開かれる。
ただ、その時、簡単な生活魔法程度の魔法しか使えないようなら、家に戻されてしまうことがある。
そんな中で、魔法の才能を開花した子供達には、軍隊でもエリートとして扱われることになる。
そうでなくても、魔道具の開発など、さまざまな分野でもてはやされるのだが、魔法適性の無かった人なり亜人なりが、その後、ごく稀に魔法適性が開花することはあるが、それは、ギルドの高等学校に於いて、ごく僅かな事例がある程度だった。
それが、魔法を使えなかった5人が、突然、魔法を使えるようになるという話は、聞いたことがなかったのだ。
「どう言うことなんだ。 6人中1人しか魔法が使えなかったパーティーが、気が付いたら、6人全員が魔法を使えると言うのか? 」
メイカリア中佐は、その報告を聞いて愕然としていた。




