砦に足を踏み入れて
本当にものすごい長い間更新が止まってしまいすみません。
今回はジオルド視点になっています!
魔王の砦から少し離れたところにテントをはり、俺たちは一晩を過ごした。
夜が明ける。
「さて、行きますか」
装備を身にまとった仲間たちに向かって僕は一言そう言う。
ここ一年で指揮官として動くことが多くなった。
しかし僕は元々ソロプレイヤーである。
研究に必要な素材を取ったり、新たな魔術を試すために森に行く程度だった。
そんな僕が何故、指揮官に指名されているのか?
理由は王子が二人もいるチームだからだ。
それ相応な社会的な地位を持っている人間がリーダーをやる必要があって、たまたま次期公爵家当主で魔術研究の方でも実績を残している僕がいたってだけだ。
幸い状況や人の力量を見図る能力は人より優れていると自負している。
僕の立ち位置が魔術でのサポートだということも含めて指揮官は向いているだろう。
問題はない。
僕に出来ることをやるだけだ。
「お前ら、帰ったら褒美は楽しみにしてろよ」
「ふふっ。ええ、楽しみにしてます」
アレクサンダー様の一言で暗い顔の騎士たちの表情が少し晴れた。
あのちびっ子だった王子が立派になったものだ。
「なんか死亡フラグっぽいわね」
一人だけ最初から大して緊張していないソフィアが何かを言ってる。
常にいつも通りにいられるのが彼女の長所だろう。
だが反応している余裕もない。
失敗出来ないというプレッシャーがのしかかる。
一度大きく深呼吸して魔力の流れに身を委ねた。
大きく歪な魔力の塊が確かに砦の中に存在しているのを感じた。
不気味な何かだ。
砦を見据えて僕は一歩踏み出した。
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砦は実にシンプルな作りで一つの階に一つ大きな部屋が存在している。
そして部屋には一体ずつその部屋のボスがいるというまるで超初級ダンジョンのような構造だ。この情報は既に知られていた。
部屋にたどり着くまでにもÀランク級の魔物が出てくるが前線のカイディンによって発見され、すぐに切られる。
魔力温存のため『身体強化』だけ使い、あとは剣術のみで獲物を真っ二つにするカイディンに隙はない。
しかしいくらカイディンといえども数の暴力に襲われれば全てを相手にすることは出来ない。
漏れた魔物はエミの従者であるヒナに切られる。
ヒナは四股を落とし、最後に確実に急所をつく。
カイディンが剣士ならヒナはさながら暗殺者だ。
一階、一つ目の部屋に着いた。
『霧』
部屋に入ってすぐ僕は風属性と水属性の混合魔術を唱える。
目くらしの魔術だ。
打ち合わせ通りヒナと数人の騎士だけそこに残り、後の人達は上へと進む。
砦に入ったらそこからは時間勝負だというのも文献から知られていた。
実際どんどん最上階から流れてくる魔力がデカくなっているのだ。
急がなくてはならない。
「くっ」
「そんな顔をしないでください。ヒナは強いもの、大丈夫ですよ」
微かに口角を上げながらをエミが声をかけてくれる。
その完全にヒナを信じきっている笑みが微笑ましくもあるが、違う。そういうことじゃない。
ヒナが強いのは充分に知っている。
魔法なしならあのカイディンに迫るほどだ。
「うん。僕もヒナのことは信じてる。でも出来るだけ女の子に無茶させたくなかったから」
「……ジオルド先生ってこの世界に産まれてきて良かったですね。とある世界線ではその考え方はもう古いですよ」
「え、ちょ」
なんだか最後の方は呆れたように言ってエミは前線に出ていってしまった。
二階層、二つ目の部屋はクレア様。
クレア様は二つ目で置いてかれることにブーブー文句を言っていたが、オールマイティーの彼の力を見込んでの役割だ。
大人しく従ってほしい。
そんなわけで無言で手に魔力を込めてたらきちんと『自ら』承諾してくれた。
若干恨めしそうな顔だったのは知らん。
カイディンとエミも呆れた顔だったがそれも僕は知らない。
三階層、三つ目の部屋からはボスも強くなってくる。
ここからは全員で戦っていく計画だ。
始めて『蒸気』を使わずに部屋に入る。
待ち構えていたのは龍の姿をした『影』だった。
「三階でもう魔王の分身かよ」
アレクサンダー様が見覚えのある『影』に悪態を一つつく。
魔力の雰囲気からも森とあのパーティーで感じたもとの一緒だ。
魔王の分身であるのは間違いないないだろう。
今までは小人の形だったが今回は伝説上の生き物である龍だあるというだけで。
『よくここまで来たな。忌まわしき人間ども。だがここから先には誰一人として生きて進むことは出来ないだろう』
「あら、死んだら進めるのかしら?」
クスクスと笑いながら揚げ足取りをするエミの発言に空気が一度凍った。
『な!?貴様!わしを舐めてるのか!?』
「……エミのその言い方はどうだと思うが確かに思ったよりも大丈夫そうだな。ジオルド先生、こいつの相手は俺一人でします。先に進んでてください」
「だが、カイディン、お前光属性魔術使えないだろう。魔王の分身相手には光属性魔術じゃないと倒せないぞ」
アレクサンダー様が静かにカイディンにそう言う。
「大丈夫ですよ、アレクサンダー様!カイディン様には以前に『私』が集めた光属性が付与された剣を預けているんです」
今まで騎士に囲まれて後を付いてくるだけだったソフィアがこの場に不釣り合いなほど高い声で口を挟む。
騎士を振り払って前にいるカイディンの傍に寄り添った。
「カイディン様なら大丈夫だと私は信じています」
「ああ。任せろ。ソフィアがくれた剣があれば俺は負けない。すぐに倒して追いつくから」
「……カイディン様」
感動したように目をウルウルとさせるソフィア。
そのソフィアをエミがひどく冷たい目で見つめていたのに気づく。
「ここまで一言一句違わないなんてゲームの強制力が強まってるのかしら?」
本当に小さな声でエミがそう呟いたのを『身体強化』のよって聴覚が上がっている僕も耳に入ってくる。
「エミ、君は何を知ってるの?」
「内緒です」
そっと後ろから声をかけた僕に驚くことも、振り返ることもなくそう言われた。
これ以上追求することは諦めて今の状況に専念する。
さて、本当にカイディンだけでこの場をどうにか出来るならそれに越したことはない。
ソフィアとアレクサンダー様は光属性魔術を使えるため、魔王封印のために欠かせない。
そのためにも出来るだけ二人は魔力は満タンの状態にしていきたいのだ。
僕がこの場に残ってしまうのはまだ階層があるため得策ではないだろう。
ふむ。
『おい!!!イチャイチャしやがって!わしの存在を忘れるな!お前ら全員苦しんで死なせてやる』
分身だからだろうか。煽り文句が中ボスのそれだ。
確かに全員残る必要はないのかもしれない。
「分かった。カイディンとそれにエミこの場に残ってくれるか?」
「いや俺一人で十分です。それにエミは絶対最後まで連れていってください。
エミ、俺はお前を信じる。ちゃんとレジーナのもとに帰れよ」
「……私は負けないわ」
カイディンとエミの嚙み合っていないような会話を聞き、僕は決断をする。
「カイディン、任せた!」
「はっ!ジオルド様」
「カイディン、先に行ってる」
「すぐに追いつきます。王子」
僕が指令を下したあと、普段は友達同士のアレクサンダー様とカイディンは目を合わせることなく一言ずつ交わす。
それに無理やり続くような形でソフィアが声を上げた。
「カイディン様、私の無茶はなさらないでくださいね」
「……ああ」
『お前ら、いい加減俺を無視するなああ!』
前触れもなく放たれた魔力の塊に僕は慌てることなく魔術を唱える。
『盾』
魔術と魔術がぶつかり合い砂ぼこりが舞い上がる。
その隙に僕らは出口へと駆け出した。
後ろから今度は龍の形をした『影』の尻尾がギュンという音を立てて迫ってくるのを感じる。
しかし僕たちは振り返らない。
「お前の相手は俺だ」
そんな台詞とともにゴトッと何かが後ろで切り落とされた音が聞こえた。
ジオルドの一人称って難しい‥‥。
久しぶりということもあってキャラがぶれそうです。
そしてご都合主義でさらっと光魔術の剣とか出てますがソフィアがヒロインの乙女ゲームでのクエストをクリアすることで手に入れられるアイテムです。
ええ、勿論実際は北澤さんが頑張りました。




