北澤さんの願い
ものすごく更新遅くなってしまってすみません。
北澤さん視点です。
今回は説明が多くなっています。
運命の大きな分岐点になるであろう隣国デルラリア王国の歓迎会パーティーは大方私の計画通りに事が進んだ。
事情聴取は後日になったけれどいくらでも誤魔化しは効くだろう。
一安心して寮に帰ってきた途端にヒナに詰め寄られた。
「エミ様、いい加減どういうつもりなのかお聞かせください!」
ヒナには今日、会場でフードをかぶって正体を隠しつつ会場で魔物の相手をしてもらっていたのだが今はもうメイド姿に着替えている。
ゲームだと死人が出てしまうのでそれを防ぐために一働きしてもらったのだが流石の強さだった。
だけどヒナには転生のことやゲームのことなどは一切伝えていない。
今日、ヒナは私の「会場に魔物が出るみたいなの。討伐をお願い出来るかしら?」という言葉に「仰せのままに」と言って何も聞かず承諾してくれたのだけど……。
ヒナが今怒っている理由は私があの場で敵をつくるような、自ら悪者になるかのような言動をしたからでしょうね。
ヒナにはずっと助けられてきた。ヒナがいなくては計画はこうも上手くいくいかなかったに違いないもの。
……正直に話すべきかしら。
「分かってるわ。でも先に着替えていいかしら?いつまでもドレスを着ているわけにはいかないでしょう」
「……お手伝いいたします」
ブスッとして不機嫌さを全面に出しているヒナはとても魔物をバッタバッタ倒していた人と同一人物だとは思えない。
苦笑しつつ、ファスナーをヒナに下ろしてもらうためにくるりと後ろを向く。
「ヒナ、疲れてる?」
「いえ、大丈夫ですよ」
ヒナはそう言うけれどいつもより動作が遅い。
さすがにあの数の魔物を相手にするのはキツかっただろう。
あとは魔力切れもあるかもしれない。
ヒナはソフィアと同じで魔力持ちの平民だ。
しかもヒナは無自覚のうちに戦闘時は『身体強化』を使っている。
そうじゃなきゃあの強さは説明できない。
まぁ本人は知らなかったようだし、私もうすうす感づいていたとは言え気づいたのはあの聖職者に言われたからなのよね。
それにしてもあの人はちゃんとレジーナの記憶を消してくれたみたい。
後で報酬を渡しに行かないと。
「エミ様、さぁお聞かせください!」
いつの間にかすっかり部屋着に着替え終わっていた。化粧はまだ落としていないのに、もう、ヒナったら。
「そんな慌てないでちょうだい。座ってお話しましょう。どうぞ腰かけて」
クスクス笑う私にヒナはため息を一つついて椅子に腰を下ろした。
「何から話そうかしら?聞きたいことはある?」
「いっぱいあります。ですが私が一番問い出したいのはどうしてエミ様はその、ジオルド様に寄りかかったりソフィア嬢を睨んだりしたかってことです。あんな公の場で、突然やって来てあんなことしたら一体どんな噂がたつかエミ様ならお分かりでしょう!」
「あら?私が光属性魔術を使ったことは気にならないの?」
「私、あのお爺さんから魔力持ってるって言われましたけど『身体強化』以外は全然使えないですし魔術のことはよく分かりません。それにエミ様が色々規格外なことは今に始まったことではないので」
ヒナはどこか遠い目をする。
そんなに私、規格外なことしたかしら?
男爵家の当主になった時から領地で化粧品を製造したり料理人の学校をつくったりしてたかしらね?
「それよりエミ様の評判が悪くなる事の方が問題です!一体どうしてあんなこと?」
「ヒナは転生って知っているかしら?そうね、運命を信じる?」
「はい?」
「この国は約二年後大量の死者がでるわ」
「一体なんの、話ですか?」
ぽかんとしているヒナに私は全てを話した。
私とレジーナとソフィアが転生者であること。
前世には貴族院を舞台とした乙女ゲームというものが存在したこと。
ソフィアがヒロインでアレク王子、カイディン、それからジオルドが攻略対象たちであり、彼らとの仲を深めていく。
最終的にはソフィアは彼らと協力してこの国に迫る危機、魔物を封印する。
エンディングではソフィアは大勢の死人が出てしまったことに嘆きながらも結ばれた相手と聖女として国を立ち直らせていくというものだったこと。
しかし、ヒロインがより攻略対象者と恋仲になるためには、試練が必要となる。
それを与えるのが悪役令嬢であるレジーナの役目だ。
そしてレジーナはソフィアの恋路を邪魔するだけでなく魔王の復活に手を貸した罪で処刑や追放になってしまう。ここまで説明したところでヒナから制止の声が上がった。
「ちょっと待ってください!えっと、どこからどこまでが本当の話ですか?」
「全部よ」
ヒナは天井を一度仰ぎ、独り言のように呟き始めた。
「あー、レジーナ様とエミ様が転生者だっていうのはむしろ納得してます。だけど乙女ゲームって。本当に魔王は復活するんですか」
「エリーゼっていう女性は分かる?ジオルドの元婚約者でアレク王子の姉であり、現在は隣国デルラリア王国に嫁いだ姫よ。彼女は優秀な魔術師なのだけど彼女と彼女の夫が魔王復活の犯人なの。
そして彼らはもう早速魔王復活のために動いているわ。今日、会場で数人が倒れる事件が起きたでしょう。それは彼女が飲み物に闇属性魔術の使い手だけに効果がでる薬品を混ぜたからなの。もし一定以上、闇属性魔術の力が強ければ魔王の復活に手助けになってしまうものよ」
「え、まさか今日最後に現れたあの小人の形の影をしたやつって……」
「魔王の仮の姿ね」
「ええええええ!もう復活してるんですか!?あれ、でもエミ様が今日やっつけたんじゃ」
「仮の姿だもの。すぐ蘇るわよ」
そもそも魔王の復活を止めることも考えたけど流石に隣国の王子たちが行っている企みを止められるほどの力は私になかった。
「……そうですか。それで今までの話と今日のエミ様の悪者みたいな言動にはどのような繋がりがあるのですか?」
「ああ、レジーナの代わりに悪役令嬢に私がなろうかと思ってるの。それが一番状況をコントロールしやすいのよね。悪役令嬢にはそれなりの容姿と強さがなければいけないでしょうけど容姿は化粧でどうとでもなるものね。成績、それに魔力テストトップなら強さも問題はないでしょう」
まぁ、ゲーム上ではレジーナは見た目が絶世の美女だっただけで成績も魔力もからっきしだったのだけど。
権力と王子の婚約者という立場、それから全属性持ちということで最強ライバルみたいになっていたのよね。
要するに平民持ちであるとはいえ、全属性持ちのソフィアに対抗できればいいのだ。
「エミ様、今さらっと何を言いました?悪役令嬢ってさっきのエミ様の説明ですと周りから疎まれ、評判も最悪で最後には処刑されてしまう可能性もあるのですよね!?」
「ええ、そうよ。そんな運命レジーナに背負わせるわけにはいかないでしょう。例のお爺さんにお願いしてレジーナの前世の記憶と今世の辛い記憶とかは消してもらったからレジーナはこの世界が乙女ゲームの世界だってことは知らないわ」
「確かにレジーナ様にそんな辛い目にあってほしくはありませんが、レジーナ様は全属性持ちで今は公爵令嬢です。協力してもらうことは出来ないのですか?」
「レジーナはもう一杯傷ついたわよ。これ以上は駄目」
私も最初はそのつもりだった。レジーナを犠牲にしてでも人が死ぬのは防がなくてはならない、と。
途中まではアレク王子を煽ってレジーナを悪役令嬢にしようとしていた。そっちの方が断然魔王の動きを捉えやすく、対策も立てやすい。
でも、無理だった。
レジーナがこれ以上傷つくのを見ることが私にはできない。
私を生きがいだと言って慕ってくれているレジーナの苦しんでいる姿を想像しただけで吐き気がした。
最初こそは吐きながらも耐えていたけれど私に向けて純粋で無邪気な好意が向けられるたびに身が縮む。
確かに前世で誰かを助けるために誰かを傷つけたこともあった。
でもそれは相手が先に誰かを傷つけていた。
でもレジーナは違う。何も悪いことはしてないのに。
もうすでに男嫌いになるほどの恐怖心を抱かされてこれ以上あの子に傷ついてほしくなんてなかった。
ただ純粋に笑っていてほしい
何も知らなくていい。
私は弱い。傷つける覚悟が出来なかった。
「それじゃあそもそもエミ様がそんな国中の人を助けなくてはいけないのですか?私はエミ様にも幸せになってほしいだけなんです」
「私はもう知ってしまっているから。もしゲーム通り大量に人が死んでしまって、知っていたのに止められなかったらきっと私の精神はどうにかなってしまう」
「……ほんとエミ様は聖女かなにかですか。分かりました。お供しますよ」
ヒナは笑う。
ヒナは昔から時々こういう私を赦すような笑みを向けてくる。
愛おしそうに、どこかやるせなさそうに。
ヒナがこんな顔をするときはいつも私が誰かを助けるために走り回っているときだった。
ただ皆を助けたいだけの北澤さんです。
前世の経験から全員を救うことは出来ないのは分かってますがレジーナを犠牲にすることは出来ませんでした。
次回は時々出てくる謎の聖職者のお爺さんについてになると思います。




