ルディア様
またまた遅くなってしまってすみません!
今回はちょくちょく出てくる謎の老人聖職者視点となっております。
ちなみにさらっと本編で書いてますが老人の名前はルディアです。
「ええい、離せ!こんな味気ない食事はもうウンザリじゃ!」
「ここは教会なのですよ、ルディア様。お忍びぐらいなら私共も目をつぶれますが常日頃から贅沢は……」
「チッ」
「聖職者が舌打ちなんてしないでください」
全く、ここの教会の者たちは硬すぎわい。
聖職者っていうのは寄付金をもうちょいズルく使う生き物だって聞いていたというのに。
ここはそういう悪徳なことはやらないクリーンな教会じゃった。
そのおかげでこんな怪しいわしを雇ってくれたんじゃろうから感謝はしているがな。
しかしたった数百年ぐらい山奥で過ごしていただけで世界は変わってしまったものじゃ。
特にメシ!昔は魔物たちを焼いて食べるだけじゃったのに。いやー、始めて『ぱん』を食べたときはビビったわい。
だがわしが一番気に入っているのは『けーき』とかいう甘いお菓子じゃ。
これはここ数年で売り出されるようになったものなんじゃがフワフワで甘くてもう最高なんじゃ。
こんな美味しい食べ物が世の中にはあるというのにこの教会は孤児たちの食事のために節約しておるからなぁ。こっそりとしか食べることが出来ないのだ。
「ううう。わしのけーき」
「ルディア様、シハーク男爵がいらっしゃいました」
「おお、エミか!よし、すぐに通せ」
エミはけーきを作った偉大なやつなのだ。時々無茶ぶりしてくるがな!
何しろわしはあやつに弱みを握られてしまっておる。
しかしなんでわしが数何百年前、魔王の封印を解いた犯人だとばれたんじゃろうか。
エミは「ちょっとした裏設定でのっていたので」とか訳の分からんことしか言っておらんかったし。
ただの若気の至りだったのだ。
当時のわしは魔術の限界を知りたくて研究狂いと言われておった。
だってそれしか面白いことなかったし。
しかしそれをうまい具合に当時の王族に利用されてしまって追放される羽目に……。
いや、まあいい。エミが来たということはお菓子が食べられるということじゃ。
先日エミの頼みで一人の人間の記憶をいじったかのぉ。そのお礼できっといつもより量が多いはず。ムフフ。
コンコンと扉がノックがされ、エミが入ってきた。
相変わらず美しい魂だが馬鹿みたいに魔力量は少ないやつだ。赤ん坊並みじゃないか。
いや、しかし今の世界ではこれぐらいならちょっと少ないぐらいかもしれないのぉ。
時代が変わっていくにつれて人間の魔力はどんどん衰えていっているようじゃ。
ふっ、だが不老長寿の力を手に入れられるほどの魔術師は今も昔もわしだけのようじゃがの。
「失礼します。ルディア様、先日はありがとうございました。ささやかですがお礼の品をお持ちしました」
ペコリと頭を下げるエミの後ろからいつも一緒にいるメイドが銀色のワゴンを持ってやってきた。
おお!この甘い匂いは!?
ワゴンの上には大量のお菓子が載っていた。
「ごほんっ、いや、お礼なんぞ良いのじゃぞ。大したことはしてないからのぉ。じゃが、せっかくわしに用意してくれた料理だ。わしが全部食べなきゃ失礼だな」
「ルディア様!」
舌なめずりするわしに眉間にしわを寄せて怒りはじめようとした部下にエミは制止の声をあげる。
「心配は無用ですわ。きちんと孤児院の子供たちの分も用意してきましたから。もちろんあなた方、教会の方の分もご用意させていただきました」
「え、あ。お気遣いありがとうございます」
「なんじゃ。そなたも食べたかっただけか」
「そういうことではありません!」
また怒りはじめたやつに構っていらないぐらいわしの目はワゴンの上に載っているすいーつに夢中だった。
今回はなんだか茶色いものが多いがなんだかんだ言って食事系も茶色いやつが美味しいからな。
しかし初めてみるものばかりじゃ。
これはパンじゃないのか?
「誰かお茶を入れてくれ」
「どうぞ」
素早く動いてくれたのはエミのメイドだった。
こやつは本当に動きに無駄がないのぉ。
魔術なしならわしと互角かもしれない。
おおっと。つい癖で余計なことを考えてしまったわい。
さてと、わざわざお茶もエミが用意してくれたということは今日のお菓子に合うものに違いない。
お茶を片手にさっそく先程から気になっている木の実が入ったパンを口に運ぶ。
「おお、これは酒か!」
「その通りです。リキュール入りのドライフルーツパウンドケーキですがお口に合ったようで嬉しいですわ」
む、材料名を言われてもよく分からんな。
だが今のわしは食べるのに夢中だ。
次は茶色いハートの形をしたものを手にとった。
そのまま咀嚼すると想像していたよりもずっと固くザクザクと音が口の中で響く。
「……うまいが固いな」
「そちらはクッキーでございます。実は本日は日持ちするお菓子を中心にお持ちしました。ですので少々固いものが多くなってしまったのです」
「む?何故日持ちなぞ気にする?すぐに食べればよいではないか」
「他の国まで商品を運ぶ商人や騎士の方たちは何日も満足に甘いものが召し上がれないでしょう。そういう方向けのお菓子を開発中でして」
「ほぉ。商人はともかく騎士もか。最近はそんな何週間も遠征するような依頼は来てないとわしの知ってる騎士は言ってたがのぉ」
はて?とわしはわざと首を傾げてみせる。
ついでに周りのやつらに話が聞こえないように無暗唱で『消音』をかけておいた。
「いえ、いずれ騎士の方たちにも必要になるでしょう。あなたはご存知でしょうが、近いうちに魔王が復活いたします」
もちろん最近隣国のやつらがきな臭いことをしていることは知っている。
多分それはわしが造り出してしまった『魔王』の復活だということも分かっておる。
だが……。
「……そうか。だがわしにもどうすることも出来ない。魔王と関わることは聖女の呪いによって禁止されておるからな。……すまないと思っておる。わしが魔王なんて開発しなければ。あの頃はわしも若かった。自分がどこまで出来るのか確かめたかったんじゃ」
わしはしょぼんとする。
そんなわしにエミは首をすくめてみせた。
「私が当時の人でしたら怒りもしましたがもう何百年も前の話ですよね。さすがに時効です。それよりも問題はこれからです。ルディア様ほどの実力者なら直接魔王に関わらなくてもやり方はいくらでもあるはずです。どうか私に力を貸してください」
そう言ってわしに頭を下げるエミはどこまでも真摯だ。
エミの後ろに控えているメイドは主人がわしみたいな老人に頭を下げている光景に頭を抱えてた。
うーむ。わしはもう人の世に関わりすぎないと決めたんじゃが。
しかしこんなことになってる原因はわしじゃし。
エミはまだ頭を上げない。そこにはわしにイイ笑顔で「ねぇ、ルディア様って魔王をつくった人でしょう。それでお願いがあるんです。ある人の記憶を消してほしいの。」って言って軽く脅してきたやつの姿はない。
うーむ……。
「顔をあげるんじゃ。わかったわい。わしに出来る限りの協力はすると約束しよう」
「ありがとうございます」
顔をあげてお礼を言うエミの頭の中は今わしをどう使うか考えるために高速で動いておるのじゃろう。
わしは一つため息をつく。
「お前さんは何者なんじゃ」
「あら?レジーナの記憶に干渉したルディア様ならご存知でしょう」
「それは知ってるが、エミはこの国の王かなにかなのか?」
「え、いえ。違います」
「だったらそう背負いこまなくてもいいじゃろう。人が死んだからといってエミのせいじゃないんじゃ」
「それが助けなくていい理由になりますか?私は誰一人として辛い思いをしてほしくないだけです」
キョトンとしてそれから一点の迷いもなくそう言い切るエミはあいつに似ていた。
静かに目から涙を落としながらわしを追放した聖女に。
「難儀な性格じゃ。はぁ。あまり無理するんじゃないぞ」
「お気遣い感謝いたします」
エミはニコって笑う。あ、これ絶対分かってないやつじゃ。
さて、わしも人肌脱ぐとするか。
かつてわしが犯した罪を今さらつぐなえるはずがないというのは分かっておるが、わしに出来る限りのことはしよう。
「長話になってしまってすみません。どうぞお食べになって」
「おお!そうじゃった、そうじゃった」
わしは新しい菓子に手をのばしながらエミに呟く。
「そういえばレジーナの記憶をいじった時にみたんじゃがあやつはエミのことで頭がいっぱいだったぞ。いやぁ、記憶をいじるのに苦労したわい」
「……そうですか」
少しだけ悲しそうな顔をするエミはやっぱり難儀な性格じゃ。
ムシャムシャとお菓子を食べながらわしはそう思った。
ルディア様は乙女ゲームの後日談の裏ストーリーのような話に登場した人物です。
ソフィアは後日談は見ていないのでルディア様の存在はあまり知りません。




