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王子がパートナーになりました

お父様に怒られたことで頭が少し冷えた。

まずは謝罪をしなきゃだろう。


「申し訳ございません。少々頭に血がのぼってしまって」

「……もう良い。このケーキはお前にくれてやる」

「よろしいのですか!?すみませんでした。先程の言葉は取り消します。アレクサンダー王子はとっても心の広い方ですね」


意外と王子はいいやつだった。

笑顔で皿をもらい、早速ショートケーキを口に運ぶ。


スポンジのふわふわ感はこの世界にはないものでいくらでも食べられそうだ。

甘い生クリームと見た目はベリーだが、味はきちんと苺の甘酸っぱい酸味は完璧な組み合わせ。


もともと小さなサイズに切られていたので二口目を口のなかに入れればもう、皿からケーキの姿は消えてしまう。


ゆっくりと堪能した後に紅茶を一口。

ほぉと息が漏れた。


「ありがとうございます。美味でしたわ」

「そんなに油断しきった顔をするのはどうかと思うぞ」


呆れたように言われたが今の私には気にならない。


「まぁいい。一つ聞きたいことがある」

「何ですか?今なら何でもお答えいたします」


ケーキをくれた王子にはそれぐらいしようじゃないか。


「そうだな、まずはブルクベリーの近くの田舎領地の領主がシハーク家であってるか?」

「そうですよ。それがどうかいたしましたか?」

「そこに住んでいる同じ年齢ぐらいの貴族の令嬢はお前だけか?」


若干身をのりだしてとても重要なことのように聞いてくるので、どぎまきしながら答える。


「え、ええ。そのはずです。あ、でも私には双子の姉がいますが」

「そっちだ!」


ガタッと立ち上がって叫んだ王子は腑におちたような、ホッとしたような顔をしていた。


「そっち、というのは?」

「あ、ああ。前にカイディンのところに遊びに行ったときに厄介事に巻き込まれてな。俺と同じぐらいの年の女に助けてもらったことがあるんだ。それが多分お前の姉だろう。」


私の問いかけに王子はハッとして王持ち上げた腰をそそくさと戻してながら答えてくれた。


「多分というのは何故でしょう?もしかしたら王子を助けた方は姉ではないかもしれませんよ。

それに例え姉だとしてもそっち、ということはアレクサンダー王子は私と姉を間違えたのですか?私と姉は似ていないとよく言われるのですが」


ちょっとした噓をついた。

北澤さんが王子を助けたという話は聞いていた。

なので王子を助けたのは北澤さんで間違いないが不可解な事がいくつかある。


その時北澤さんは平民の格好をしていた。名前すら教えてないはずだ。

どうしてあの辺に住んでいる貴族の令嬢が王子を助けた人だと思ったんだろう?


「多分、というのは俺は彼女のことを何も知らないからだ。確証が無い。

貴族とも言ってなかったが、言動も考え方到底平民のものでは無かったからな。貴族だろう。それで調べさせたら、あの辺で俺と同じぐらいの年の令嬢がいるのはシハーク家だけだった。

まぁ、頭を布で覆っていたせいで顔を覆っていたせいでそれ以上のことは分からなかったが」

「そうでしたか」


……え、まだ8歳だよね?なんだったら北澤さんと会ったのはもっと幼かったときだよね?

ちょっと会っただけでそこまで絞れるもの?

うわっ、英才教育受けてる王子、恐ろしい。

ていうか、調べたのね、とは思ったけれど触れまい。


「ああ。だから俺の婚約者がシハーク男爵家の令嬢だと聞いたとき彼女だと思ったんだが。

まさか双子の妹だとはな。全然似てないが」


そういえば会ったときに本当にシハーク家の令嬢か、と聞かれたな。

声とかが違ったからかもしれない。


それにしても王子は残念そうだった。

でもどことなく安心しているように見えるのは何故だ。

今までずっと感謝していた相手がこんな食い意地のはった生意気な奴じゃ無くて良かった、っていう顔だと思うのは被害妄想ですかね。


「姉の名前はなんて言うんだ?」

「エミ、シハーク・エミです」

「エミ?貴族らしくない名前だが、いい名前だ」


うんうん、と腕を組んで頷いている王子。

私はムッとする。


エミという名前は今世の私たちの両親がわざと平民らしく名付けたものだ。

双子で生まれてきた私たちだが生まれた直後からこの顔は整っていたため、あの人達は私にしか興味を持たなかった。

その時点で既に北澤さんを放棄し始めたらしい。


そのことを思い出し、つい反論してしまった。


「別にエミの魅力は名前だけではありませんから」

「そんなのは分かっている。……ずっと思っていたんだが俺に対する態度が無礼だろう。俺にお前のようにたてつく女はいないぞ、いや、エミはそうだったな。だが、エミは俺のことを考えてくれた上での叱咤だったから全然違う」


確かにそうかもしれない。

さっきから王子に突っかかっている自覚はあった。

最も大きな原因は、ショートケーキとか、北澤さんのこととか前世思い出す内容が多いからだろうけど、多分それだけじゃない。


根本的に王子のような俺様が苦手なんだと思う。

俺様キャラが好きな人もいるんだろうけど、私は好きになれそうにない。

誤魔化しても仕方がないことなので素直に伝える。


「申し訳ありません。王子は悪くありませんわ。ただ性格が合わないだけです」

「そのようだな」

「婚約を取りやめていただいても私は困りませんよ」


魔が差して提案してみる。

このままいけば、そのうち王子はヒロインに惚れて私は婚約破棄されるのだから傷が浅い今のうちに婚約破棄された方がいい気がしたのだ。


「出来るわけがないだろう。俺は第一王子だ。そしてお前は能力だけなら聖女と同じなのだから。俺とお前の婚約には意味がある。勝手な都合で物事を言うな」


私は軽々しく発言してしまったことを反省した。


ただの俺様王子だと思ってたのにそこには一つの国を背負う少年がいた。


急に王子と婚約者になるという意味が私に重くのしかかってきた。

貴族としての責任とか、そんなの知らないのに。

私はただの女子高校生だったのだから。


でもお父様やお母様、それから私に一生仕えると誓ったアイラの顔が浮かんだ。彼らは私が王子の婚約者になるから家族になり、私の従者となった。

彼らは私が王子の婚約者でなくなれば困るだろうか。


必死に頭を回転させた結果、思い浮かんだのは自分でも突拍子もない提案だったと思う。


「それでは契約しませんか?」

「契約?」


ぐっと腹に力を入れる。

出来るだけにこやかな返事を。

思い出すのは北澤さんに習った交渉技術。


「はい。私は王子の婚約者としてふさわしい令嬢となってみせます」

「そんなのは当然だ。契約というなら交渉材料はお前のその容姿や公爵家の令嬢という立場、何より全属性の能力を王家のために使うことだ」


内容がアバウトだし、それだと王子以外の要求も飲まなきゃいけなくなる。

北澤さんは要求を聞く相手は一人に絞った方が良いと言っていた。


「分かりました。アレクサンダー王子が必要だと判断すれば王子から私にお伝えください。しかし全部は無理です。私に出来ることであれば出来る限りの対応はします」

「ああ、それでいい。俺はその対価を何で支払えばいい?」


何って決まっている。

私をどっかの国の変人陛下に売り飛ばすな。

だけどいきなりそんなことを言っても頭がおかしいと思われる。


「私は王子が好意をよせている相手を傷つけないと誓います。私は決して苛めなど行いません。信じてください。ですから王子も私や私の周りにいる人に危害をくわえないで下さい」

「それは構わないが危害?。……婚約者として特別扱いしろ、とかじゃなくていいのか?」


はい?何言ってるの?

あれか、モテる男ゆえの言葉か。

もちろん、私はそんなのは求めていない。


「王子、私たちはビジネスパートナーです」

「ビジネスパートナー?」

「はい。好意などなくて構いません。王子は国を私は自身を、そしてお互いの愛しい人を守るために協力いたしましょう」

「お前はそれでいいのか?」

「ええ。そういう関係の方が信頼できます」

「分かった」


よし、これで私が王子から弾圧される確率は少しは下がったと思う。


「それと俺のことはアレクと呼べ」

「えっ、それは」


王子を愛称で呼ぶ人は絶対少ない。

私がそんな風に呼んでいいの?


「カイディンも呼んでいるし、俺もお前をレジーナと呼ぶから構わん」

「分かりました。どうぞこれからよろしくお願いいたします。アレク」

「ああ、パートナーとしてよろしく、レジーナ」


私たちは握手をする。



そうして私は第一王子と婚約者となり、ビジネスパートナーとなった。

頭をひねった結果、斜め上の契約とかいい始めたレジーナです。


婚約者として苦手な性格の相手ににこにこするなんて無理っ、でも嫌われるだけじゃ乙女ゲーム通りになっしまう、と迷った結果だと思われます。

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― 新着の感想 ―
[一言] お、おもしれー女概念……!(感動) 斜め上で突っ走るレジーナが最高です! 王子も中々に話が分かる男で安心しました。
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