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第18話 彼の再会

黒40、セシルくんと暮らし始めて、五日目の朝です。


今日はまた雨でした。しかも土砂降り。

ジメジメな空気と、変な匂いが辺りを充満していて……なんだか、嫌な日です。

真っ黒な雲がなんだか不安でした。セシルくんも具合が悪そうだったし、大丈夫かな……?


ガタガタガタガタ!


「ひぁっ!?」


なーんて考えていた、そんな時。

リビングで木刀に付いた土を落としていると、不意に地面が揺れました。


「わ、わわわわわわ!」


グラグラ揺れてます。周りの家具がガタガタ踊って、尋常じゃ無いです。

視界が二重に、頭はくらくら。なんじゃこりゃ、と思わず立ち上がりました。

揺れる地面の上で無理やりバランスをとり、辺りを見回して状況確認です。


「なんですか!?地震!?雷!?火事!?おやじ!?」


焦げ臭いにおいはしませんが、地面がめちゃくちゃ揺れます。なにこれ怖……い……



「…………?」



不思議です。ふと、変な胸騒ぎがしました。

懐かしいような、わくわくするような、でも何より怖いような。

何かがもうすぐ終わってしまうような、いいえ始まってしまうような、そんな気持ちです。


「あ、セシルくん!」


まぁ、それはさておき。

おやじはないわ、と一人で突っ込みつつ、とりあえずセシルくんの安全確認です!

こんな日に地震なんて、不吉極まりない。大急ぎでセシルくんのいる台所へと走りました。


「み、ミラさん!」

「セシルくん大丈夫ですか!?」


振動に押されて台所に飛び込むと、ぶわっと耳と尻尾を逆立てたセシルくんとぶつかりました。

さすが、抜かりない。セシルくんは近くにあった護身用の剣を持って、辺りを警戒していました。


「ミラさん、庭に何かいます!」

「えっ、お客さんですか!」

「……違います!嫌な匂いがします……」


……地面を揺らすお客人なんて迷惑極まりない、と眉間にしわを寄せ鼻を押さえるセシルくん。


その突如、大きな音が響きました。


「グオォオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」


「……!」

「……っ!」


何か巨大なモノの咆哮のようです。大滝の音にも似た大迫力の音が、ビリビリと全てを揺らしました。

映画でしか聞いたことのない声にぎょっとして、思わず尻餅をつきます。

ぞわり、と肌に鱗が出現しました……え、鱗!?怖いと鱗が出現するようです、この体。それも怖い。

……あ、揺れが収まりました。


「ミラさん……大丈夫ですか?僕が見てきます」

「え」



そう言って剣を持って、スタスタ庭に向かうセシルくん。揺れの収まった地面を早足で進んでいます。……その顔は何だか切羽詰まっていました。


でも、ダメです。


「齢7歳がそんな……ナニがいるかわからないところに行くなんて、いけません!」

「……ミラさんもですよ?」


私が代わりに!というと、怪訝な顔で突っ込まれました。い、痛いとこ突かれました……


「ど、どうしてもですか……?」

「どうしてもです」


結局二人で一緒に玄関へ行くことに。セシルくんが断固として譲らなかったんです。


「水の匂いがします……」


どんどん濃くなる変な臭い。外から聞こえる怪しげな音。

玄関に向かう途中、セシルくんが、ガリっと唇を噛みました。









キィ……

ビチャッ


「!?」


水です。

玄関の扉を恐る恐る開けると、なぜか地面が水浸しになっていました。しかも青緑色です……うわぁ。

びっくりして周りを見回すと、何故かそこには……霧!?

辺りに、一寸先も見えないほど黒く淀んだ霧がかかっていました。


「霧だ……」「……」


ぼうっと手を伸ばして掴もうとしても、その手は虚しく空をかすめます。やっぱり霧です。本当に霧です。

どうしたんでしょう、珍しい……。霧なんて掛かった事、無いのに。


「あれ……セシルくん?大丈夫?」

「たちこめる霧……水……やっぱり……」


目を見開くセシルくんに話しかけました。

震える唇、震える体。綺麗なその手が、剣の柄を握りしめました。


「……龍……!」


薄い唇から言葉が溢れた、その瞬間。


「わわわ……っ!?」

「くっ……!」


ゴウッと前から強風が!湿った風です。辺りの霧が一気に流れていきました。

一気に視界がクリアに……なり……




「えっ」




……眼前に、とんでも無いものが居ました。


光に輝く、鯉のような鱗。

鋭く尖った、鷹のような爪。

堅そうな、鹿のような角。

空に揺らめく、鯰のような髭。

長くて大きな、蛇のような体。

広くて大きな、虎のような手。

風にはためく、牛のような耳。

こちらを見据える、駱駝のような頭。


死んだ魚のような、虚ろな瞳と目が合いました。


「……!」


龍です。龍がいた。龍おった。いや、龍や。あかん、龍や。もろ龍や。ざ・龍!

声も出ません。へなへな地面に座り込みました。


……驚きで思考がまとまりません。


いやだって、龍だもん。みなさん!目の前に!突然!龍が!現れました!なにこの理不尽。

木々よりもっと高く細い体が、とぐろを巻いています。おっきいです、とってもビッグです。

そして、濁った青緑の体に黒の霧をまとっていて、何だかとっても禍々しいです。


「ぬ、沼の匂い?」


ツーンとした湿った匂いが鼻を挿しました。見れば、ドロドロした青緑色の水が、体にべちゃべちゃ滴っています。同じ色のせいで、龍が溶けているようにも見えました。ヒィイ!


「せ、セシルく……」

『あ……』

「ぎゃっ!す、すみません!でした!」


あまりの恐怖とパニックにセシルくんに話しかけると、突然龍が言葉を発しました!

地を這う呪詛に似た、低い声です。なんて恐ろしい!反射的に謝ります。


ぎ、ぎぎ……と錆び付いたようにゆっくりと、龍が口を開きました。

そして、ぼんやりと濁った沼色の瞳がこちらを見据え……


『ルルアぁあぁあーーーーー!』

「何やらかしたんですかお母様ぁ!?」


突然響き渡る、忘れかけていた母の名前。龍はその体を持ち上げて、天へを叫びました。


なんでしょう、怒らせたのでしょうかお母様。何やらかしたんだろうお母様。

なんか、ものすごくとばっちり喰らってる気がするのですが。

……何してくれたの母様!


「あ、あの……!母に何かご用でしょうかー……?」


と、とりあえず、友好!とあり得ない選択肢でボスキャラに話しかけました。

こんな恐怖しか感じないような生き物さんに話しかけた私、凄いと思います。


『あ……あぁ……』


しかし、不気味な唸り声しか返ってきません!怖い!

死霊を思い起こさせるそんな声に身の毛がよだちまくリングなのですが、もはやビビりすぎて足が動きません。固まる私。


彼の口から零れるのは、よだれと呻き声だけなのでしょうか。

一応……もう一度だけ……、と声を振り絞ります。


「わ、わたっ……私の親に、何か、ご用でしょうか?」












……でも今度の問いかけに。


『ぐがああああああああぁあああああああああ!』

「ひあぁあああああああ!?」


返事の代わりに帰ってきたのは。


「……」「せっ」


爪のように鋭く、死んだように虚ろな━━━━


「危ないセシルくん!」


殺意でした。


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