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雨の化身
黒38、大禍時
海沿いの森。奥の奥から轟く唸り声が、濡れた空気に響いた。
まどろむような、寝起きのあの不機嫌さのような、寝ぼけた声だ。
太陽はすでに見えなく、青緑色の空が西の端から迫ってくる。
月明かりが冴えて、ゆらりと大地を照らした。
黒39、宵
『うぅー……うぅー……』
仲間を求めるような、哀れな声が夜風に乗り森を抜け通る。
声に呼ばれた黒雲に、少しずつ、ゆっくりと埋められる月。
少しずつ、ゆっくりと闇が濃くなってゆく。
木々の後ろ、泉の奥に、常闇が息づいた。
大地に夜が降り注ぎ、やがてどんよりと重い雲がのしかかる。雨が降り始めた。
ずるりと、沼から何かが這い出した。
黒40、丑三つ時
太陽さえ海へ沈んだ新月の夜空に、汚れた影が小さく見えた。
夜風を縫うように体をうねらせ、空を飛ぶ小さな影。
死の香りがぬったりと王都を越え、ザアザア不協和音が夜の闇に響く。
黒く染まった唸り声が、沼の息と響いた。充満する沼の匂いと血の香り。
下界の迷惑など気にせずに、彼は進む。汚れた体を雲に滑らせ、憎き彼女の元へ、愛しき彼女の元へ。
『殺して……コロシテ……コロシテ』
だらだらとよだれの垂れる口元。そこから垂れる言葉など、誰も聞かない。
『コロシテヤル』
そう、誰も聞かないのだ。




