CASE7.Q2臆病者ハ誰?
「つまりは。一緒に行動する気が無いなら、とっとと箱を見つけてアイツらを『ダウト』しちまった方が良いって事だろ?」
「しかし、それをすれば間接的にアイツらを殺す事になる…」
「ねぇ…火野…一宮さん、木ヶ山君…貴方達は私の味方よね?」
保健室のドア越しに聞こえた台詞。
血の気が引いていくのを秀水は感じた。
自分達は彼らの『敵』と見なされてしまったのだ。
しかし、今ドアを開けて弁明すれば間に合う。
秀水はドアの取っ手に手を掛けた。
「ぁ…」
そこでふと、思い止まる。
日向はどうなるのだろう、と。
先程の教室に一人残されたままの彼女を思い出す。
まだ秀水は日向の言葉を完全に信じきれずにいた。
今彼女を裏切れば、日向は完全に孤立する。
ドアに掛けていた手を秀水はゆっくりと引っ込めた。
『人ってさぁ…見た目でしか判断出来ない生き物なのよ。秀水は分かってくれるよね?』
何時だったか、物悲しげな表情で日向がそんな事を言っていた。
初めてだった。
日向のそんな表情を見たのは。
(俺は…日向を一人にしちゃいけないんじゃないか…?)
本当は、普通の女の子なのだ。
勉強が飛び抜けて出来る訳でもない。
運動神経も、特別な才能もない。
容姿から体型から全てが並なのだ。
幾ら口では冷たい事を言おうが、残虐に振る舞ってみようが。
「くそ…っ、」
秀水は頭を抱えてその場に蹲った。
火野達の仲間になれば、日向を裏切る。
しかし、日向の仲間になれば火野達を敵に回す。
何より日向には、前者を選択するよう言われている。
(どうすれば…)
頭を抱え込んでいた秀水は、その手をゆっくりほどいた。
そして立ち上がると、来た方向とは真逆の廊下へと足を進めていった。
「さぁ…答えて?」
「土橋、敵とか味方とかそんなの関係無いだろ?皆目的は同じだ。」
「甘いわね、木ヶ山君…」
じり、と距離を詰めてくる六美から四郎が一歩身を引く。
しかし、その視線からは逃げることが出来ない。
「今、はっきりさせることに意味が在るの。」
六美が制服の胸ポケットに指を差し込み、四つ折りの紙を取り出した。
四郎達の表情に動揺が走る。
「薬箱の入ってた戸棚の中にあったの、『2つ目の問題』。」
ヒラヒラと美しい笑顔で六美はその紙を揺らす。
まるで無言の脅迫の様だ。
「問題の中身はまだ見てない。箱の中は見たけどね」
紙を開けば、ゲームが開始される。
六美は見極めようとしているのだ。
自分達が『ダウト』されるに値する人間か否か。
それは選べる道など無い二択。
四郎はぎりり、と奥歯を噛み締めた。
そして苦渋の決断を下す。
「…わかった…その代わり、紫月には手ェ出さないでくれ…」
「四郎!」
その提案に、真っ先に反応したのは紫月だ。
思わず四郎を睨む。
しかし、四郎は紫月を見る事をしなかった。
抗議の意味を込めた視線を、今度は六美へと向ける。
「…こんなの馬鹿げてる…!」
「…貴女はやっぱり甘いわ」
六美は紫月の視線を受けても悠然と笑って、手の中にある紙を開いた。
「今に解る…私と貴方、どっちの考え方が正しいのか。」
突き出された紙。
其処には…
--第2問。この中で一番臆病なのは誰?
始まりを告げる『チャイム』が鳴る。
再び声がスピーカーから響いた。
『第2問スタート!解答時間ハ20分後ダヨ。』
六美がスピーカーを見上げる。
「…訊いて良いかしら?」
『何カナ?』
「さっきとは違って、此処には5人しかいないの。此処に居ない人を『ダウト』出来るの?」
『良イ質問ダネ!』
声が楽しげに弾んだ。
『此処ニ『ダウト』対象者ガ居ナクテモ『ダウト』ハ出来ルヨ。ヤリ方ハ簡単!名前ヲ『コール』スルダケ!但シ…』
「但し?」
『全員ガ揃ッテ無イ場合『ダウト』ノ権限ハ、問題用紙ヲ持ッテイル人ニナルカラ注意シテネ?』
つまりはこの状況における『ダウト』権限は、六美にある。
六美が紫月を見詰め不敵に笑った。
「運も私に味方したみたいね…」
「…土橋さん…」
「私の心は決まってるわ。貴方が妨害しない限り、ね?」
細い指が再び紙を折り畳む。
その時、暫く黙り込んでいた火野が口を開いた。
「俺も聞きたい。…今回の『ダウト』は何をされる?」
このゲームには『罰ゲーム』があるのだ。
そう言えば、今回はその内容について一言も話が出てなかった。
火野の言葉に、紫月は今更ながらその事実を思い出す。
『ソノ答エハ…土橋クン、ソノ紙ト一緒ニ箱ノ中ニ入ッテタノハ何カナ?』
勿体振るような言い方。
4人は六美へと視線を向けた。
「…瓶が入ってたわ。」
『ラベルガ張ッテアッタヨネ?』
「…H2SO4。」
『ソウ!H2SO4!賢イ君達ナラ分カルヨネ?』
「硫酸…」
小学生でもそれが危険な薬品だと知っているだろう。
それをどうするか、なんて余りにも分かりきっていて訊く気にもなれない。
そんな火野の胸の内を察してか、金弥が言葉を続けた。
「…ソイツをぶっかけられるって所か?」
『正ー解!』
「はっ、悪趣味なこった…」
どの程度の量かは解らないが、『瓶』と言うからにはそれなりの量が入っているのだろう。
何よりこんな悪趣味な事をする人間だ。
ただの化学熱傷では済まないだろう。
『ジャア、質問ハモウ無イカナ?無ケレバ…第2ゲームスタート!』
再び訪れる沈黙。
保健室に居る5人は顔を見合わせた。