CASE2.壊レル世界
カチッ…カチッ…
時計の音がやけに大きく聞こえる。
重たい瞼をゆっくりと紫月は持ち上げた。
-壊レル世界-
まず視界に飛び込んできたのは大きなデジタル時計。
青く光る数字が時を刻んでいる。
そして黒板。
其処には何が文字が書いてあるようだ。
しかし、靄がかかる視界でははっきりとは解らない。
紫月は必死に目を凝らした。
「D、o、U…b、T…?」
並べられたアルファベットを拾って読み上げる。
大文字と小文字が規則性もなく並んでいた。
しかしそれが何を意味するのか、紫月には全く理解出来ない。
「ダウト…だ。」
「え…?」
声がした方を振り返る。
綺麗に切り揃えられた漆黒の髪。
黒縁の眼鏡が彼の優等生ぶりを更に際立たせる。
「火野…」
「一宮…、何なんだ此処は?」
「わかんない…ただ普通じゃないよね」
周りを見回して、紫月は呟いた。
乱雑に並べられた7つの机。
そしてそこには紫月達と同じ様に一人ずつ座っている。
顔が伏せられているので誰なのか判別するのは難しい。
現状唯一把握出来るのは、紫月の横に寝ている赤髪の男子生徒が四郎であるという事くらいだ。
取り敢えず四郎だけでも起こそうと紫月が手を伸ばしたその時…
ピンポンパンポン
良く耳にする、放送前に鳴る木琴の音。
『皆サン、オハヨウゴザイマス!起キテクダサイ!』
変声器を通したような機械的な声。
それがやけに気味が悪い…
『起キマシタカ?起キテナイ、オ友達ガイルナラハヤク起コシテアゲテクダサーイ!』
一人、また一人。
身を起こしていく。
残るは四郎だけだ。
紫月は伸ばし掛けていた手で、今度こそ四郎の肩を揺すった。
「う…ん?」
「四郎、起きて。」
「し、づきぃ?」
「取り敢えず起きて。話は後。」
状況が把握出来ていない今は、取り敢えず言われた通りにしていた方が良い。
この教室にいる自分達が『人質』と仮定するならば、それに対する『犯人』も居る筈だ。
下手に抵抗すれば、身を危険に晒す事になる。
そんな紫月の考えを見透かしたように、『声』が無邪気に笑った。
『アハハ!一宮紫月クンダッケ?君ハ中々カシコイネ…』
その時、黒子のようなものを被った男達5人が教室のドアを開いて入ってきた。
手に持っている物を認識し、7人は愕然とした。
それは日本国内では、滅多にお目にかかれないだろう物…
『モウ皆起キテルヨネ?起キナカッタラ此処デ永遠ニ眠ッテモラウツモリダッタケド…』
黒子達が構えたのは、『銃』。
監禁にしては些か非現実的過ぎる。
「どういうことだ?」
『見タママダヨ…?君達ヲ監禁サセテ貰ッタ。』
「それは見れば解る。何のつもりだと聞いてる、」
カチャ、と黒い銃口が一斉に金弥へと向けられた。
しかし、むけられた当人は全く気に掛ける様子も無い。
『ヤレ。』
ガゥン!
火薬が弾ける大きな音が静かな教室に響く。
紫月は思わず目を伏せた。
「ッ…!」
「ぅ…」
金弥が横倒しに倒れる。
しかしそれは、銃弾が当たったからではない。
寸での所で、六美が金弥に横から体当たりしたのだ。
『君ハ、五木金弥君ノ…』
「…金弥を、傷付けないで…」
『…イイヨ、ソノカワリ僕ノ話チャント聞イテネ?』
まだ何か言いたげな金弥を六美は制して座席へ戻らせた。
それを確認して紫月達も詰めていた息を吐き出した。
取り敢えず犠牲者が出ることは防げたのだから。
『君達ニヤッテモラウノハ、ソノ黒板ニモ書イテアルDoUbTッテイウゲームダヨ』
楽しげに『声』が跳ねた。
余り良い予感はしない。
『ルールハ簡単、コノ学校内ニ7個ノ宝箱ガカクサレテル。ソレヲ見ツケテ中ニ入ッテル問題ニコタエルダケ!』
『7ツクリアスレバ、出シテアゲル…出来レバダケド。』
『但シ余計ナ事ヲシタラ、ソノ黒子達ニ射殺サレルカラ気ヲツケテネ』
カチッ…カチッ…
一際大きく、デジタル時計の音が響く。
7人がそちらへ顔を向けた。
そして、有り得ない光景を目の当たりにする。
「666…」
デジタル時計が止まった。
6時6分66秒という数字を表示して。
そして何時もの日常が、崩れさった。