CASE1.ハジマリ
茜色の空が不気味に白い校舎を照らす。
血の色のような赤色で。
屋上に居るのはたった5人。
理不尽なゲームはまだ始まったばかり…
-ハジマリ-
「今日は6月6日かぁ」
別に誰に聞かせる訳でもなく、一宮紫月は呟いた。
「何か起こりそうな日付だよな、オーメンみたいじゃん。」
前の座席に座る、木ヶ山四郎が紫月の呟きに振り返る。
別に返事は期待していたわけでは無いが、返ってきたものを無下には出来ない。
紫月は四郎に視線を合わせた。
「オーメンってあんまり分かんないけど…悪魔の数字ってヤツ?」
「そうそう、666!」
「四郎ってそんなの好きだっけ?」
「いや、ホラーって言うか…俺、映画全般好きだからさ!」
「それは初耳…」
「じゃあ今度さ…」
四郎が言い切る前に、担任がドアを開けて入ってきた。
言いたいことを途中で遮られた四郎の横顔は、何処か悔しそうな表情だった。
しかし本当に言いたい事ならまた言ってくるだろう。
紫月は手元に配られてきた『文化祭のお知らせ』というプリントに視線を落とした。
黄金色の髪が風を受けて靡く。
心地好い惰眠を貪っていた五木金弥は、突如視界を遮った影に薄緑色の瞳を開いた。
肩甲骨ほどまであるストレートの黒髪が風に揺らめく。
凛と響く声は嫌いじゃない。
金弥は再び目を閉じた。
「またサボり?」
「……」
校舎裏のマット。
そこは何時しか金弥の絶好のサボり場所となっていた。
金弥の外見、性格、良からぬ噂も相まって其処に近付く人間はいない。
ただ一人を除いては…
「金弥の分ね、ちゃんと目を通して。」
「文化祭?そんなかったるいモンに行くかよ…」
「気が向く事があるかもしれないでしょ?」
金弥にガンを飛ばされようと気にした様子もない。
これが一般女生徒なら、泣いて逃げ出すのに…
金弥は諦めたように目の前に立つ少女を見上げた。
「六美…」
「なぁに?」
土橋六美。
金弥の幼馴染であり生徒会副会長。
絹糸のような黒髪に、少々きつめの美貌。
しかしそれを鼻にかけたりはしない。
金弥は六美のそんな所も含め気に入っていた。
「アイツの差し金か?」
六美は基本的に金弥の嫌がる事はしない。
そんな彼女が、このプリントを自分に差し出してきた。
どうしても、その裏に居るだろう人物を想像してしまう。
そしてそれは正解だったようで、六美が小さく肩を竦めてみせた。
「鋭いわね、」
「俺にこんな嫌味な事すんの、アイツぐらいだろ…」
「火野もそれなりに気遣ってると思うわよ?アタシをわざわざ寄越したんだから。」
火野廉二。
この学校の生徒会長で頭脳明晰、冷静沈着な模範生徒だ。
規律を乱す人間が嫌いで、特に金弥を目の敵にしている。
当初は直接出向き、金弥と良く揉め事を起こしていた。
しかし、金弥の素行は幾ら言っても全く更生されない。
其処で廉二が考えたのは、六美を生徒会副会長に据え置き金弥への対応へ充てること。
お陰で揉め事は起こらなくなったのだが…
「そんな気遣いはいらない…火野にも言っておいてくれ。」
「バカね…アタシが言って聞くなら、コレがアンタの所に届くわけ無いじゃない。」
「…それもそうか」
肝心の金弥の更生は程遠いようだ。
六美は金弥に見えないように、小さく苦笑った。
「最悪~…」
「どしたん、日向?」
「ネイルのデコが取れたの!もぅやる気無くすー…」
「何だ、そんな事くらいでおっきな声出すなよ…」
「秀水は乙女ゴゴロが解ってなーい!私にとっては大事な事なの!」
七瀬日向はキラキラとラメが輝く爪を教室の蛍光灯に反射させながら隣で呆れ顔を作っている男を見遣った。
ブロンドの巻き髪に、妙にぱっちりとした目元。
可愛らしいのだが些か人工的な感じが拭えない美貌。
三井秀水は余り、日向の作られた顔が好きでは無かった。
「ってか、お前絶対塗りたくるより素顔の方が良いんじゃね?」
「すっぴんとかありえないし!」
「良いと思うんだけどなー…」
まだぶつぶつ言っている秀水を無視して、日向は鏡を取り出しメイク崩れを直す事に専念した。
『ソロソロ…カナ?』
こんな大掛かりな事は滅多に無いだろう。
( )は時計を見上げ笑った。
皆一様に黒子のようなマスクを被り、整列している。
愛すべき僕達…
『サァ、ゲームヲハジメマショウカ?』




